マッチスティック・メン(2003年アメリカ)

Matchstick Men

自称“詐欺アーティスト”という異常なまでの潔癖症の詐欺師の男が、
10年以上前に別れた元妻との子供の出現によって、生活がかき乱される姿を描いたサスペンス映画。

監督は『グラディエーター』のリドリー・スコットなのですが、
今回はえらくマイルドかつポップな仕上がりで、随分と観易い映画だ。
しかし、この観易さはおそらく賛否の分かれるところだろう。
彼の映画の熱心なファンならば、本作のような作風は受け入れられないのではないだろうか。

まぁリアルか否かはともかく、この映画を最初に観たときは主人公ロイの娘役を演じたアリソン・ローマン。
本作公開当時も大きな話題となりましたが、彼女は撮影当時23歳でしたが、見事に14歳の少女を体現。
少し過剰気味に子供っぽさを出した感はありますが、それにしても違和感ゼロというのが驚異的。
このパフォーマンスにはリドリー・スコットもさぞかし驚かされたであろう。

詐欺の手口を次から次へと鮮やかに見せていくため、映画はひじょうにテンポが良い。
良くも悪くもマイルドな映画に仕上がっていて、これはこれで親しみ易いタイプの映画だと思う。

クライマックスのドンデン返しも、かなり注意深く映画を壊さないように描いており、
不自然さや違和感を観客にできるだけ抱かせないように、上手くケアされています。
こういうところはリドリー・スコットの技量や演出力を感じさせられますね。これは悪くない仕事です。

よく「スナイパーを倒すためには、スナイパーが必要だ」と言われますが、
ザックリ言うと、本作もそういうことを描いている映画だ。
得てして、こういう映画は因果応報的なニュアンスにありがちですが、本作は一概にそうではありません。
映画の冒頭から、主人公のロイをカッコ良い存在としては描いていないのが明らかで、
最後の最後まで彼に対しては、同情的な視点から描かれている。
故に終盤のロイの姿には悲壮感すら感じさせられ、おそらく観客の多くが彼に対して同情的になるだろう。

でも、これはおそらく意図して表現されたことでしょうね。
「因果応報だね、同情できないよ」と観客に思われてしまっては、
普通の詐欺師の映画の一本として埋もれてしまうから、敢えて差別化を図ったものと思われますね。

2時間近くある映画なのですが、あまりにサクサク映画が進むので、
個人的にはアッという間に終わってしまったなぁという印象が強いですね。
まぁそれだけ僕は本作が映画として上手く出来ていたと評価する材料と判断しています。

ロイは突如として現れた14歳の少女アンジェラが自分の娘だと分かり、生活がかく乱されます。
アンジェラというそれまでには居なかった娘の存在自体に戸惑いますし、
第一、自分と大きく年の離れた女性との付き合い方なんて、まるで分からない。
ましてやアンジェラはティーン真っ盛り。中年となったロイには、一番、理解し難い年頃かもしれない。
それでも共に行動する時間が増えるにつれて、次第に交流を深め、父親としての愛情に目覚めるロイ。
映画の中盤で彼が見せる表情は完全に親バカというか、デレデレしちゃって実に楽しそうだ(笑)。

ただこの映画の中で因果応報的ニュアンスがあるとするなら、アンジェラとの関係だろう。
若い頃の生活で妻が家出してしまった代償は大きく、彼は大きなしっぺ返しを喰らってしまいます。

詐欺という稼業に戸惑いを感じながらも、生活のためと足を洗えずにいたロイ。
どんなに危険な目に遭っても詐欺稼業を辞めなかったロイですが、
アンジェラの出現によって、アッサリと足を洗う決意をしてしまいます。
それだけロイにとってアンジェラの存在は大きなものだったんですよね。
「子はかすがい」とはよく言ったものですが、次第に父親の眼差しになっていくロイの姿が何とも眩しい。

ただ、この映画にとってどれだけ強い意味を持たせられたか疑問なのですが、
ロイが潔癖症であるという設定が敢えて固執して描くほど、必要なものであったのか気になったなぁ。
少なくとも、ロイの家での「カーペットが汚れる」だの「靴を脱げ」だのといったやり取りが、
映画の後半ではウザったくて仕方がなかったですね。映画の流れを阻害している気がしました。

おそらく原作本で描かれたロイが潔癖症という設定でしょうから、仕方がないのですが、
細かいところを言えば、『恋愛小説家』のジャック・ニコルソンのように徹底した造詣というほどでもなく、
中途半端な潔癖症の男の造詣が、本作にとってはあまり大きな意味を持っていたとは僕には思えない。

良く言えば、本作はリドリー・スコットの器用さを象徴した作品と言えますが、
悪く言えば、彼らしさが感じられない一本でチョット寂しい気もします。
まぁ元々、彼の映画には独特な空気があると僕は思うのですが、そういった特徴が本作にはありません。
強いて言えば、映像感覚が彼らしいと言えば間違ってはいないのですが、あまり強く出てはいません。
彼らしさが映画に反映されていない以上、彼の映画の熱心なファンは受け入れ難いものがあるかもしれません。

まぁそこそこ面白い映画だとは思うし、
アリソン・ローマンの驚異的な少女っぷりを観るには、絶好の作品だ(笑)。

観客を騙す映画というよりは詐欺師の悲哀を描いた作品として、そこそこオススメ。

(上映時間115分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

日本公開時[PG−12]

監督 リドリー・スコット
製作 ショーン・ベイリー
    テッド・グリフィン
    ジャック・ラプケ
    リドリー・スコット
    スティーブ・スターキー
原作 エリック・ガルシア
脚本 ニコラス・グリフィン
    テッド・グリフィン
撮影 ジョン・マシソン
編集 ドディ・ドーン
音楽 ハンス・ジマー
出演 ニコラス・ケイジ
    サム・ロックウェル
    アリソン・ローマン
    ブルース・マッギル
    ブルース・アルトマン
    メローラ・ウォルターズ
    スティーブ・イースティン