マッチポイント(2005年イギリス・アメリカ・ルクセンブルク合作)

Match Point

ニューヨークを代表する映画監督ウディ・アレンが初めてイギリス、ロンドンを舞台に撮ったサスペンス映画。

僕はウディ・アレンの監督作を全て観たわけではないからあまり強いことは言えないけど、
彼が撮るコメディ系列の映画は、凄く面白いと感じる時と、イマイチと感じる時の差が凄く大きい。
一方、彼はたまに本作のようなシリアスな映画を撮るのですが、こちらは大方、優れたものを感じさせますね。

88年に彼が撮った『私の中のもうひとりの私』なんかはその好例だったのですが、
彼が撮るシリアスな映画の良いとこって、物語を一定の距離感を保って撮っているとこですね。
本作もその典型例。一部、主観的に撮ったり、挑発的になったりするセオリーはあるにはありますが、
本質的には彼特有のブラックな感覚が映画の根底に存在し、まるで突き放したかのように撮る。
こういう映画の成立を達成できるのは、もはやウディ・アレンぐらいなのでしょうかねぇ。

確か...僕のおぼろげな記憶では、本作が劇場公開された06年、
山下 達郎と竹内 まりやの夫妻が06年に映画館で観た映画の中で、抜群の面白さだったと言っておりましたが、
確かに本作は映画ファンにもそう言わせてしまうぐらい、映画の醍醐味に溢れている。

映画の前半は、思わず「この映画はウディ・アレンの美女自慢大会か」と思っちゃいましたが(笑)、
映画も後半に差し掛かると、次第に本性を現してくるかのように、一気に加速していきます。

主人公のクリス自身、魔性のアメリカ人女性ノラにメロメロになり愛欲に溺れていきますが、
実はこの映画を通してノラ...というか、スカーレット・ヨハンソンにメロメロになったのはウディ・アレン(笑)。
そうとうなお気に入りだったんでしょうね、なんと彼は次の監督作『タロットカード殺人事件』でも
彼女をヒロインに起用して、挙句、08年の『それでも恋するバルセロナ』でも彼女を起用しました。

とは言え、この映画、大きなアピール・ポイントはそのスカーレット・ヨハンソンだろう。
別に過激なシーンを演じたというほどではありませんが、本作での彼女はかなり刺激的で強烈な存在感だ。
カメラに映るだけで、これだけ観客を煽れるというのは、正に稀少な存在と言っていいだろう。

さすがにこの映画の主人公クリスの行動は知性が感じられないと言わざるえませんが、
心情的には敢えて危険な道を通ろうとする彼の気持ちが分からなくはない(笑)。
男にそう思わせるぐらい、本作での彼女は見事なまでの魔性の魅力をプンプン漂わせています。

この映画、特に面白いところは映画の冒頭でクリスがナレーションを入れていますけど、
ラリーしていたボールがネットに引っかかって、どちらのコートに落ちるかという運命の瞬間の駆け引きですね。

「努力も大切だが、運も重要だ」...僕もその通りだと思うのですが、
この映画はそんな言わば、運命のイタズラを描いているわけで、一種の不条理劇であると言える。
テニスや卓球の試合では、ラリーしていた球がネットに引っかかって、自陣のコートに落ちれば点を取られ、
相手陣のコートに落ちれば、点を取ることができる。一見すると、この真理が現実世界でも適用されるのかと
思いきや、ウディ・アレンはそこをも弄び、見事に不条理な物語を完結させます。

思えば、クリスという男の浅はかさはチョット喜劇的ですね。
ひょんなことから知り合い、アッという間に自分にメロメロになったクロエだって、
キュートでカワイイ、そしてクリスをよく理解してくれる献身的な女性で、趣味も合わせられる。
やたらと子供を望む姿はプレッシャーかもしれないけど、一方で家族からは好かれまくり、
義理の父が経営する会社に雇われ、いきなりの好待遇で経済的援助も惜しまれない。

僕なら、この生活の何処に不満を持つんだぁ〜と疑問に思えて仕方がありません。

しかーし! それでも、ノラに出会ってしまったのです。
申し分のない生活を手に入れても、ノラと浮気したくて仕方がないクリス。
それだもん、つけ入れられてしまいますよね。ハッキリ言って、「身から出たサビ」状態なのです。

ただ、男女の関係は不思議なもんです。
この映画のスカーレット・ヨハンソンを観ていると、そんな泥沼にハマってもいいから、
彼女と浮気しようと思わせられてしまうから、男は困った生き物です(苦笑)。

ただ、あくまで映画としてですが、そう思わせられるぐらいの力があるということが凄いことだと思うわけです。
悪女を主題にした映画なんかはそうなのですが、肝心の悪女の説得力が大きな問題なのです。
誰も「彼女なら、ホイホイ、ホイホイ、付いてっちゃうなぁ〜」と思わない悪女なら、映画は盛り上がらないのです。
そういう意味では本作におけるスカーレット・ヨハンソンのキャスティングって、ひじょうに重要だったはず。
で、見事にその期待に応えているわけですから、彼女の貢献度というのは甚大だったと思うんですよね。

「人生の勝負は運で決まる」と言わんばかりの展開ではありますが、
一概にクリスは幸運な男であるとも、ましてや人生の勝者であるとも判断はできないと思う。

少なくとも彼はノラの幻影などからは逃れられないわけで、
死ぬまで彼は罪の意識に苛まれる、この上ない苦しみを長年に渡って味わわなければならない。
ましてや妻との間に念願の第1子が誕生し、職場でも大きな責任を与えられる立場にある。
極論、今更、後戻りはできない地点にいるわけです。彼が後戻りすれば、多くの人々が不幸になるでしょう。

それって、果たして彼が幸運な男であったり、人生の勝者であることを象徴していることになるのだろうか?

なんかこの辺の強烈な皮肉も、如何にもウディ・アレンらしい気がしますね。
まぁ...結論としては、ウディ・アレンって、何処行ってもウディ・アレンなんですね。

(上映時間123分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

日本公開時[PG−12]

監督 ウディ・アレン
製作 レッティ・アロンソン
    ルーシー・ダーウィン
    ギャレス・ワイリー
脚本 ウディ・アレン
撮影 レミ・アデファラシン
編集 アリサ・レプセルター
出演 ジョナサン・リース=マイヤーズ
    スカーレット・ヨハンソン
    エミリー・モーティマー
    マシュー・グード
    ブライアン・コックス
    ペネロープ・ウィルソン

2005年度アカデミーオリジナル脚本賞(ウディ・アレン) ノミネート