マスター・アンド・コマンダー(2003年アメリカ)

Master And Commander : The Far Side Of The World

パトリック・オブライエン原作の『南太平洋、波瀾の追撃戦/英国海軍の雄 ジャック・オーブリー』の映画化。

確かにこれは力の入った映画で、かなり大掛かりな映画ですが、
チョット...映画の中盤あたりの単調な展開で、損している感じがするのが残念かな。

『いまを生きる』のピーター・ウィアー監督作品で、
彼がメガホンを取った映画としては随分とド派手なアクション・シーンがあったりして、
海洋スペクタクルとして秀でた作品と言ってもいいかもしれませんが、中盤はイマイチな構成だ。

映画の冒頭で不意打ちを喰らってしまうフランス軍アケロン号との闘いが炸裂するのですが、
それ以降、表立ったスペクタクルと言えば、映画のクライマックスでのアケロン号との闘いぐらい。

本作は実に2時間を大きく超える長編ですので、
それまで2時間以上、アドベンチャー性を刺激するセオリーはほとんどありません。

まぁエンターテイメント性を追求した映画ではないでしょうから、
こういった志向を示すのは仕方ない話しではありますが、もう少し見せて欲しかったなぁ。
やはり長期間に及ぶ船員たちの苦悩など、魅力的なエピソードであることは認めますが、
活劇性に欠ける描写に時間を割き過ぎた感はありますね。この辺が本作が押し切れなった要因かな。

ピーター・ウィアーらしく、教育的な内容を内包しようという側面があって、
若くして半強制的に乗船させられた船員たちの苦悩については、かなり掘り下げられている。
個人的には呪いの船員扱いされて、死を選択した若者のエピソードはどうしても好きになれないんだけれども、
ピーター・ウィアーの描きたかったこと、本作を通しての主張にはなんとなく納得できる部分はあります。
ですから、彼が敢えてこういった描写に時間を割く理由も、分からなくはないのですよね。

それと、もう一つ中心的に描きたかったことと言えば、
頼れるキャプテン、ジャック・オーブリーのリーダーシップ理論だろう。
彼は何百人といるであろう船員たちを率いて、祖国・英国の期待を背に、敵軍の駆逐を試みます。

当然、経験豊富なベテランや有能な若手、屈強な船員、知識豊富な船員もいますが、
全員が能力の高い船員というわけではなく、中にはジャックの航海に反発的な船員もいますし、
まだ子供であるというのに、銃を持たされている船員もいます。そんな雑多な環境下で、
いかにして船員たちを引っ張り、目的を達成するかが本作の大きなポイントとなるわけです。

であるからには、人を管理しなければなりません。そして、人を使わなければなりません。
そのためには船員たちから信頼され、人望を集められる“人間力”がなければ成立しえません。

これって、実社会でも一緒で、誰しも通じることだと思うんですよね。

特に映画で描かれるジャックは年寄りというわけではありませんが、
船員たちとの年の差は決して少なくありません。ここでキーとなるのは、人心掌握術です。
ジャックは船員たちをよく観察し、結果は良くなくとも、可能な限り計画的、かつ戦略的に航海を進めていきます。

そして信頼を失わぬためにと、船員たちへの話し方、理論の組み立て、
話すタイミング、立ち振る舞いなど、船員たちのリーダーであるべき実像を構築していきます。
まぁ映画の中盤で2時間以上も、船内描写に終始した功績って、ここにあると思うんですよね。
とかくジャックのリーダーシップを描くためには、本作は入念な手順を踏んでいると言えます。

しかし、面白いのはジャックは決して完璧な人間ではなく、
躊躇したり、後悔したり、当然、失敗したりして精神的な弱さを見せないわけではありません。
そこで大きな役割を果たしているのは、ポール・ベタニー演じる船医マチュリンだ。

映画の後半でジャックが「船員たちの前で、私を非難するな!」とマチュリンに言いますが、
ああいった会話がジャックにとって可能だった唯一の存在はマチュリンだったわけで、
マチュリンはひじょうに大きな存在だったと思いますね。だからこそ、動物観察のエピソードも成立しました。

このジャックとマチュリンの微妙な関係は、そこそこ上手く描けていたと思いますね。

ジャックを演じたラッセル・クロウも頼れるキャプテンを見事に体現。
『グラディエーター』のような武骨さはありませんが、彼のハマリ役の一つかもしれませんね。

それにしても圧倒的なスケールが凄いですね。
やっぱりこういう仕事を観ると、ハリウッドの底力を感じずにはいられませんね。
まぁピーター・ウィアーはオーストラリア出身の映画監督で、ハリウッドでも異端ではありますが、
こういう仕事が平均的に出来るというのは、そうとうにレヴェルが高いということを誇示しているかのようです。

何となく本作のラストシーンは続編を予感させるようなエンディングでしたが、
本作製作から7年が経った今になっても尚、本作に続く続編は製作されていません。
ひょっとしたら本作が世界的なヒットとなれば、シリーズ化される可能性があったのかもしれませんね。

まぁ・・・なんか...勿体ない映画なんですよね。

(上映時間139分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 ピーター・ウィアー
製作 サミュエル・ゴールドウィンJr
    ダンカン・ヘンダーソン
    ピーター・ウィアー
原作 パトリック・オブライエン
脚本 ピーター・ウィアー
    ジョン・コリー
撮影 ラッセル・ボイド
    サンディ・シセル
編集 リー・スミス
音楽 クリストファー・ゴードン
    アイヴァ・デービス
    リチャード・トネッティ
出演 ラッセル・クロウ
    ポール・ベタニー
    ビリー・ボイド
    ジェームズ・ダーシー
    マックス・パーキス
    マックス・ベニッツ
    リー・イングルビー

2003年度アカデミー作品賞 ノミネート
2003年度アカデミー監督賞(ピーター・ウィアー) ノミネート
2003年度アカデミー撮影賞(ラッセル・ボイド、サンディ・シセル) 受賞
2003年度アカデミー美術賞 ノミネート
2003年度アカデミー衣装デザイン賞 ノミネート
2003年度アカデミーメイクアップ賞 ノミネート
2003年度アカデミー視覚効果賞 ノミネート
2003年度アカデミー音響編集賞 受賞
2003年度アカデミー音響調整賞 ノミネート
2003年度アカデミー編集賞(リー・スミス) ノミネート
2003年度全米映画批評家協会賞撮影賞(ラッセル・ボイド、サンディ・シセル) 受賞
2003年度イギリス・アカデミー賞監督賞(ピーター・ウィアー) 受賞
2003年度イギリス・アカデミー賞プロダクション・デザイン賞 受賞
2003年度イギリス・アカデミー賞衣装デザイン賞 受賞
2003年度イギリス・アカデミー賞音響賞 受賞
2003年度ロンドン映画批評家協会賞作品賞 受賞
2003年度ロンドン映画批評家協会賞脚本賞(ピーター・ウィアー、ジョン・コリー) 受賞