マーズ・アタック!(1996年アメリカ)

Mars Attacks!

突如として地球が見舞われた火星人襲来という人類史上最大のトピックに
振り回される人々の姿をオールスター・キャストによって実現したSFコメディ。

まぁエンターテイメントとして、あまり映画に詳しくない人が観ても楽しめるかと言われたら、
それは甚だ疑問だが、とてつもなくくだらなくって、ユル〜い映画が好きな人、
それからかなり熱心な映画ファンなら、こんなに豪華なスターたちが揃って、
史上空前の「お●カ映画」にノリノリで登場してくれるなんて、最高にありがたい映画と思ってくれるでしょう。

それから、ティム・バートン監督作ですから、
基本的に彼の映画に対するスタイルを理解してくれないと、本作は立場的にひじょうに苦しくなります。

で、僕は終始、ニヤニヤさせられっ放しの映画だったのですが、
何よりこの映画で嬉しかったのは、久しぶりにジャック・ニコルソンのコメディ演技を堪能できる点ですね。
まぁ今更、彼がアメリカ合衆国大統領を演じても、何ら驚きではないのですが、
ラスベガスの実業家っぽい男の二役を演じてまで、大ハッスルしてくれたのが、凄く嬉しいですね。
ハッキリ言って、かなりの悪ノリですが、それが映画の空気を支配しているのも、また事実ですね。

ある意味では、これだけの豪華スターを集めても、
ジャック・ニコルソンの映画になってしまうあたりも凄いのですがね(苦笑)。。。

冒頭の牛の大群が火事に見舞われたシーンで、「いい匂いだ、今日はバーベキューなのか?」と
言っちゃうシーンからして既にブラック・ユーモアなのですが、ブラック・ユーモアと共にシュールな笑いが
混在しているという内訳もまた、映画として面白いですね。この辺の発想はティム・バートンらしいと思います。

SFXを駆使した火星人をメインにした映画かと思いきや、
一方でティム・バートンなりの人間哲学とも言うべき、人間描写が満ち溢れているのも良いですね。
例えば、ルーカス・ハース演じるドーナツ屋でアルバイトする青年の描写なんか実にシュールで面白い。

彼はしきりに「ドーナツとか食べたかったら、いつでも言ってね」とか、
「アハ、火星人も同じ和平を示すドーナツ・サインだ」とか、やたらとドーナツに強いこだわりを見せますが、
映画の本筋にとって何ら関係のない台詞ばかりが繰り返されますが、そこにこそ愛着を見い出そうという意図。
結局、この青年は最終的にヒーロー的立場になっていくわけで、ああいった冴えない青年にスポットライトを
当てようというティム・バートンなりの愛に満ち溢れている。一方で、純然たるヒーロー像とも言える、
元ボクサーを演じたジム・ブラウンの王道を行くようなキャラで、パンチ一発で火星人を倒せるというのも良い。

火星人の造詣なんかは、かなり意図的にグロテスクに描いていますが、
多くの映画で異星人の来訪を友好目的とか、そういった心の交流をメインに描かれてきた経緯がある一方で、
この映画でティム・バートンがそれまでの流れをアッサリとブチ壊してしまうあたりが妙ですね。

と言うのも、2度目の来訪となる議事堂の壇上に火星人のリーダーが立って、
意味不明の発声の後、武器を取り出して、サクッと議事堂にいた議員たちを焼き殺してしまう。
これは文字通り、クーデターでましてやアメリカの議事堂でやられるわけですから一大事なのですが、
「レーガン大統領夫人のシャンデリアだわ」と言ってシャンデリアに潰されるグレン・クローズなど、
人々が大騒ぎしながらドタバタと逃げまどう姿を実にスラップスティックに描いていますね。

まぁただ一方で、この映画の調子にノレない人はとことんダメだろうなぁ。。。
確かにこの映画自体に、多くのタイプの観客を受け入れようとする土台が見受けられないのも事実。
観客側のことを一切、考えないでティム・バートンが半ば一方的に撮るもんだから、
かなり一方的で悪趣味な内容に感じられる人もいるかなとは思いますね。

そういう意味では基本的にこの映画カルト映画と呼ばれる類いだと思う。
少なくとも、万人ウケするタイプではないし、売れ線の映画という感じもしませんね。
そこがティム・バートンの人気の秘密なのですが、この一方的な感じは時に逆効果かなぁ。

この映画の中で最も面白い存在だったのは、タカ派の軍人を演じたロッド・スタイガー。
やたらと核を用いた先制攻撃を主張し、大統領に「殺せ! 殺せ! 殺せ!」と怒鳴り散らしますが、
最終的には自分を大きく見せようとしていた彼が、物理的に小さくされてしまう始末。
ただ、オールスター・キャストの映画の宿命とも言える、大スターでも影の薄い扱いに陥るわけではなく、
彼が異様に強い存在感を発して、おそらく脇役の中では彼が一番、頑張っていましたね。

最近はこういう映画も減ったなぁ〜。
やはり「9・11」の影響でしょうか、こういう「おバ●映画」がめっきり減った気がします。
これはこれで寂しい現実なのですが、本作のように登場人物がサクサク殺されてしまう様子を、
シュールかつコミカルに描くというコンセプト自体が、受け入れられない時代に突入したのでしょうか。

なんだか小さい頃からの恒例行事だった夏祭りが、
突如として実施されなくなったみたいな、ある種のノスタルジーを失ってしまったかのようで、
時代の変遷から生まれる一抹の寂しさが身に染みますね。これはこれで楽しいのに。

(上映時間105分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 ティム・バートン
製作 ティム・バートン
    ラリー・フランコ
脚本 ジョナサン・ジェイムズ
撮影 ピーター・サシツキー
音楽 ダニー・エルフマン
出演 ジャック・ニコルソン
    グレン・クローズ
    ピアース・ブロスナン
    ナタリー・ポートマン
    アネット・ベニング
    ダニー・デビート
    サラ・ジェシカ・パーカー
    ルーカス・ハース
    マイケル・J・フォックス
    ポール・ウィンフィールド
    マーチン・ショート
    ロッド・スタイガー
    シルヴィア・シドニー
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