マンハッタン(1979年アメリカ)

Manhattan

敢えて最初にことわっておくと...
正直言って僕は、こういうウディ・アレンの映画が苦手だ(苦笑)。ウディ・アレンは多才な人で、
ニューヨークを描かせたらピカイチだというのは分かるが、もっとバ●バ●しいギャグを連発する映画の方が好きだなぁ。

敢えて、自虐的な恋愛を自分自身で演じることで、彼の中で何か満たされるものがあるかもしれないが、
そもそも作家を目指しながらも、テレビのトークショーの脚本を書く仕事に甘んじていた42歳の中年男が、
イケメンでもないのに、17歳の娘と交際するなんて時点で現代の感覚で言えば、「チョット、ヤバいなぁ〜」と
思っちゃう部分があるし、別れた2番目の妻には明け透けに私生活を書かれた暴露本を出版されるし、
真剣に恋に落ちたと思えた同世代のインテリ女性からフラれるし、何一つ良いことがないし、徹底して情けない感じ。

しかし、終始、女々しいキャラクターで正直、「そら、モテんだろうなぁ〜」と思っちゃうのが本音。
それでも、ウディ・アレンの魅力だけで引っ張り続けるような映画になっていて、これはこれで驚異的ですらある。

今の40歳といったら、若々しく見える人が多いけど、さすがに70年代後半の40歳といったら、
もういい年した中年男だし、仮に定年を60歳としたら、定年まであと20年を切る頃となって社会人としての
折り返しを迎えた頃と言ってもよく、現代社会だったセカンド・キャリアを築く、良いタイミングだと考える人もいるだろう。

しかし、本作の主人公はとにかく、頼りないというか情けない。ずっとネチネチ、ネチネチ言い続ける感じ。
容姿もイケメン、イケオジとは言い難く、欧米人にしては小柄でどこか弱々しい。良く言えば、インテリだけど
かと言って、知識をひけらかすというわけではなく、むしろダイアン・キートン演じる女性がハイになったように、
矢継ぎ早に文芸に関する知識と私見を一方的にぶつけてくるものだから、拒否反応を示すような小市民でもある。

だからこそ、お世辞にもカッコ良いオヤジとは言い難く、スポーツマンのタイプでもないので、
マリエル・ヘミングウェイ演じる17歳の娘と交際していると聞いても、言葉は悪いが“パパ活”かと思っちゃう。

いや、でもさ...自分がこの時のウディ・アレンとほぼ同じ年だから言うわけじゃないんだけど・・・
普通に考えて、42歳のオヤジが17歳の娘と真剣交際しているなんて、どう考えても「気を付けた方がいいよ」と
本人に言いたくなってしまう(笑)。どんなにオヤジの方が真剣だったとしても、「世の中、そんな話しないよ」と
一方的に決めつけたくなってしまう。これは時代が違うとは言え、1979年という時代でも少々異様に映ったと思う。

そのせいか、劇中でも主人公が17歳の娘と交際していると聞いて、
「ナボコフに紹介したら、いいんじゃない?」と嫌味を言われるシーンがありますが、
ナボコフ原作の『ロリータ』は、10代のティーンに真剣に恋したオッサンが暴走する姿を描いた小説ですからね。
つまり、その話しだけを聞くと、当時の人々でも“そういう反応”をしたということ。まぁ、ロリコンではないのだろうけど・・・。

驚きなのは、この主人公には10歳くらいと思われる息子がいるという設定であるということで、
自分のオヤジが自分とそんな年が離れていない17歳のお姉ちゃんと付き合っているなんて10歳くらいに聞いたら、
凄まじいショックではないかと思っちゃいますね。まぁ・・・他人がとやかく言うことではないだろうけれども。。。

昨今の“Me Too運動”で実質的にスタジオからも拒絶されてしまったような状態になったウディ・アレンで、
90年代から性虐待疑惑などもあったので、一つ一つの疑惑に対して判断することは自分にはできませんが、
それでも本作の主人公と17歳の年の差恋愛を、ごく自然なこととして描いているというのは、どうにも引っかかる・・・。

とまぁ・・・なんだかシリアスなことを考えてしまう設定ではあるのですが、
それでもウディ・アレンの持ち前のキャラクターで映画を引っ張り続けるわけで、本作の前の『インテリア』で
ウディ・アレンは一転してシリアスな映画を撮ることで、新たな境地を見せ始めていた頃だったので、
本作ではよりソフィスティケートされ、よりロマンチックに描くことで気分転換したかったのかもしれないですね。

そう思って観ると、ジョージ・ガーシュインの音楽もスゴく映画に合っている感じで、見事な調和を見せる。
ニューヨークのビル街をバックにが上がる花火を模したデザインなんかも、音楽が煌びやかに彩っている。
音楽に対するこだわりが強いウディ・アレンですから、古き良き音楽が彩る形で、映画を盛り上げたかったのだろう。

その狙いは見事に成就しているし、敢えて白黒で撮影したゴードン・ウィリスのカメラも素晴らしい。
クライマックスで(ウディ・アレンなりに)必死に走って、恋愛をつなぎ留めようとする、主人公の悲哀が伝わってくる。

このラストシーンは良い。個人的には「終わり良ければ、全て良し」とでも言いたくなるくらいだが・・・。
どんな綺麗事を並べても、結局は女々しく17歳の娘がロンドンへ旅立つのを止めたいというだけで、
それに頭がいっぱいになって説得しているのを、すっかり見透かされてしまったようで、17歳に諭される42歳(笑)。
すっかり打ちのめされたウディ・アレンの表情に悲哀が表れるが、思えば彼は彼で恋愛依存症なのかもしれません。

音楽が映画を彩ると同時に、この主人公の恋愛も次から次へと目移りしているようで、なんだか忙しい。
そんな忙しい私生活の中で、別れた妻が勝手に暴露本を発刊して、挙句の果てに「映画化の話しもある」なんて
言うものだから、気が気ではなくなっているのは当然だ。これ、現代で実際にやったら、間違いなく訴訟沙汰ですよね。
でも、そんなアイスな対応しかしない主人公の別れた2番目を妻を演じたメリル・ストリープも、出番は少ないが好演だ。

でもね、それでも...僕はなんかこの映画、好きになれない・・・。ノレないんですよね、何故か。
まぁ、『アニー・ホール』もそんなに思い入れはないので、この頃のウディ・アレンが描く恋愛劇とは合わないだけ
なのかもしれませんが、映画であるからにはもっと登場人物をしっかり磨いて欲しいと思っちゃうんですよね。

マリエル・ヘミングウェイ演じる17歳の娘、トレーシーはそこそこ頑張っているなぁという印象ですけど、
彼女以外の女性キャラクターがとにかく冷淡。まぁ、“そういう映画”だというのなら、それでいいのですが・・・。
本来であれば、ダイアン・キートン演じる雑誌社に勤めるメリーにしても、もっと魅力的に描いて欲しいんですよね。

それでも、最終的に“身から出た錆”ばりに主人公が突き放されるというのであれば、話しは分かるんです。
本作の場合は、最初っから女性軍もどこか冷淡な感じで、お互いにずっと嫌味を言っている感じで
ウディ・アレンの映画らしく(?)、常にどこかにトゲがあって、クセのある人たちばかりという感じで、魅せられない。

主人公にしても、どうしてメリーに夢中になってしまうのか、少々、分かりにくい感じで、
明け方の散歩もほとんど割愛されてしまっているがために、2人が距離を縮める過程が描き切れていない気がする。

やっぱりニューヨークを撮らせたら、ウディ・アレンの右に出る者はいないだろうなぁと思える。
冒頭からエンディングまでずっとそうですが、キレイ過ぎない観光的な側面ではないニューヨークの街並みが
なんとも肌に馴染んでくるような感じで、生活感溢れる空気を画面に吹き込んでいる。彼しか撮れない映画ですね。

00年代に入ったら、ウディ・アレンもニューヨークへの執着が薄らいだのか、
ヨーロッパに渡って映画を撮ることが増えたけど、どうもフィットしないというか、シックリ来ない面もありましたからね。
やっぱり本作を観ると、ウディ・アレンはニューヨークの表情を撮るのが上手くって、これが彼らしさなのだろうと思う。
数少ないハリウッドに背を向けながらも、世界的な映画監督としての地位を築いた凄みというのを感じさせますね。

良く言えば、ウディ・アレンが自然体で撮ったニューヨークに生きる、インテリ派の人間の恋愛模様。
自分はモレないと自認し、あーだこーだ文句言いながらも、常に誰かと恋愛していないと生きていけない主人公。
何故、これまでの結婚生活が上手くいかなかったのかが、よく分かる気がするのですが、少しずつ色々と失っていく
主人公の姿が生々しく、前述した悲哀を感じさせるクライマックスのウディ・アレンの表情が全てを物語っている。

まぁ、『アニー・ホール』のようなウディ・アレンが描く、どこか自虐的で神経質な恋愛劇が好きな人にはオススメ。
これといった解決策を見い出すわけでもなく、あくまでマイペースにウジウジしているだけの映画ですので(笑)、
これが俳優ウディ・アレンの持ち味として楽しめる人でなければ、ノレないと思います。賛否は分かれるでしょうね。

ちなみにトレーシーを演じたマリエル・ヘミングウェイは、文豪アーネスト・ヘミングウェイの孫で、
彼女の姉マーゴ・ヘミングウェイとほぼ同時期に女優デビューして間もない頃に本作出演のチャンスを得ましたが、
ミア・ファローやダイアン・キートンら、ウディ・アレンの監督作品で優先して起用された女優さんのことを思うと、
どことなくウディ・アレンが好んでいたタイプが分かる気がします。気にし過ぎかもしれませんが、共通してますね。

(上映時間95分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 ウディ・アレン
製作 チャールズ・H・ジョフィ
   ジャック・ロリンズ
脚本 ウディ・アレン
   マーシャル・ブリックマン
撮影 ゴードン・ウィリス
音楽 ジョージ・ガーシュイン
出演 ウディ・アレン
   ダイアン・キートン
   マリエル・ヘミングウェイ
   マイケル・マーフィ
   メリル・ストリープ
   アン・バーン
   カレン・アレン
   ティサ・ファロー

1979年度アカデミー助演女優賞(マリエル・ヘミングウェイ) ノミネート
1979年度アカデミーオリジナル脚本賞(ウディ・アレン、マーシャル・ブリックマン) ノミネート
1979年度イギリス・アカデミー賞作品賞 受賞
1979年度イギリス・アカデミー賞脚本賞(ウディ・アレン、マーシャル・ブリックマン) 受賞
1979年度全米映画批評家協会賞監督賞(ウディ・アレン) 受賞
1979年度ニューヨーク映画批評家協会賞監督賞(ウディ・アレン) 受賞
1979年度ロサンゼルス映画批評家協会賞助演女優賞(メリル・ストリープ) 受賞