お気にめすまま(1992年アメリカ)

Man Trouble

スゴいキャスティングを集めたのに、何がしたかったのかよく分からない作品ですね。

監督はアメリカン・ニューシネマ上がりのベテランのボブ・ラフェルソン、
主演にはそのボブ・ラフェルソンの盟友であるジャック・ニコルソン、相手役に『シー・オブ・ラブ』のエレン・バーキン、
脇や買うにもビバリー・ダンジェロ、ハリー・ディーン・スタントン、マイケル・マッキーン、ヴェロニカ・カートライトと
実力派俳優が集まった作品で、どちらかと言えば、ラブコメ的な大人の映画となるはずだったのですが・・・。

原題の通り、“男性トラブル”を描いた映画ではありますが、
どこからどう見ても怪しいのは、主人公のハリーを演じるジャック・ニコルソンなのですが(笑)、
色々とクセがあるのは事実だが、根っこは善い人であるという設定がまた妙で、本作の大きな特徴になっている。

ジャック・ニコルソンって、ラブコメも出来る役者さんではあるのですが、
本作は意外にも善人ってだけで、あまりこれといった特徴がないキャラクターであまりに普通の人過ぎましたね。
勿論、アジア系の妻に差別的な扱いをしたりと、毒を吐いたりするところもあるのですが、それだけでは物足りない。
もっとジャック・ニコルソンの個性を出させないと、恋愛劇も盛り上がらずに中途半端な内容になってしまいますね。

この辺はジャック・ニコルソンとの付き合いが長いはずのボブ・ラフェルソンだから、
もっとジャック・ニコルソンの役者としての魅力を引き出せる手腕はあったはずなのに、何をどう描きたかったのだろう?

ウエストサイドの連続殺人犯に脅え、自身も脅迫される日々に苛まれたジョーンが
一人暮らしの家から引っ越し、大富豪から与えられた屋敷に暮らす邸宅に身を寄せながらも、
それでも恐怖心が無くならないことから、番犬貸出業のハリーから訓練された“デューク”を借りることにするも、
ハリーに身の上話をしているうちに、いつしかジョーンがハリーに恋心を抱くようになり、二人は恋に落ちる・・・。

ところが、ジョーンの妹は恋人である大富豪の暴露本を出版しようとしているのがバレて、
大富豪から事実上の監禁されてしまう。心配したジョーンがハリーに相談して妹を捜索しようとするものの、
相談されたハリーの目の前に現れたのは、大富豪の弁護士であり、ハリーに大金をチラつかせて味方につけようとする。

映画はそんなドタバタ劇を描きながら、元々は映画のメインテーマではなかったはずの
ウエストサイドの連続殺人犯らしき人物に行き着く様子を描いており、ストーリー的には少々散漫な印象が残る。

番犬“デューク”がやたらと発情したように女性に覆い被ろうとするキャラクターなんかは
映画的には面白かったと思うのですが、いっそのこと犬が活躍する映画にすればいいのに、そうもしない。
なんだか悪い意味で中途半端で、これはシナリオ自体が難点であったと言っても過言ではないと思う。
ボブ・ラフェルソンもよくこのシナリオで映画化しようと思ったなぁと感じたけど、もっと練り直して欲しかったなぁ。

残念ながら2022年、ボブ・ラフェルソンは他界してしまいましたが、
ジャック・ニコルソンあってことの映画製作だったとも思いますし、80年代以降は完全に低迷していましたからねぇ。
良くも悪くも一貫性を持って取り組むタイプのディレクターではなかったと思うのですが、ただただドライな映画を撮る
という意味では秀でたものがあると思っていたので、右往左往しなければ、もっと活躍したと思うんだよなぁ。

本作はハリーとジョーンが巻き込まれるドタバタ劇のキー・ポイントが、ジョーンの妹が病院に監禁されるという
エピソードにあるわけで、ハリー・ディーン・スタントン演じる大富豪が悪い奴をもっと登場させて欲しかったなぁ。
どうせなら、ジャック・ニコルソンとハリー・ディーン・スタントンの直接対決にした方が映画が盛り上がったと思う。

特に突如として、クライマックスで真犯人を登場させたあたりは、悪い意味で唐突に感じました。
それまでの物語の流れの中で自然に見せて欲しいところを、しっかりと物語の流れを汲めていません。
それならば、ハリー・ディーン・スタントン演じる大富豪とハリーが対決する方が面白そうだ・・・と思えてならないのです。

そういう意味で、この映画にはハリーとジョーンのロマンスを彩るもののインパクトが無さ過ぎましたね。
その割りに2人のロマンスにも面白さがあんまり無くって、ハリーも結構ストイックに口説こうとするので盛り上がらない。

もっとハリーは映画をかき乱すくらいの個性を発揮するキャラクターであって欲しかった。
ジョーンを欺くように依頼する弁護士が持って来た大金に、気持ちが揺らぐぐらいじゃまったくもって足りない。
ハリーの個性が災いしてジョーンとのロマンスが上手くいかなかったり、性格的に偏屈なところがあっても良かった。
ジャック・ニコルソンが普通のオッサンを演じるというなら、他にもっと強烈なキャラクターを立てないといけませんね。

どうせなら、現代で言う“イケオジ”みたいな感じでプレーボーイ風に描けば良かったのに・・・とも思いましたがね。

映画のジャンルとしても、どっちつかずな感じで、結果として作り手が何をしたかったのか、よく分からない。
これだけの“土台”を揃えておきながら、こんな出来にしてしまうなんて、あまりに勿体ないこととしか言いようがない。
思わず、ジャック・ニコルソンがボブ・ラフェルソンを救うために、この映画に出演したのかな?と邪推してしまうくらいだ。
シナリオをそれなりに脚色して、映画の方向性をキチッと定めていれば、映画の印象は大きく変わったかもしれない。

まぁ、ハリーが日系の妻のことを“硫黄島”と呼んだり、謎な日本食料亭みたいレストランで
ハリーとジョーンが食事するシーンがあったりと、日本をユーモアの一環として使っている感じなので、
こういうのが嫌いな人にはオススメできない。僕はそこまで気にしないけど、どこがどう面白いのかよく分からない。

そもそもボブ・ラフェルソンにコメディ映画というイメージが無いので、仕方がないかもしれませんが、
脚本の段階から問題があったのでしょう。ここで笑わせて欲しいなぁ、というところでことごとく外す感じなのが残念。

どうでもいい話しですが...ヒロインのジョーンを演じたエレン・バーキンって、
見方によってはキャメロン・ディアスに似てると言えば、似てますね(笑)。これはよく言われていることですが。
失礼ながらも年齢的には10歳以上違うのですが、日本ではもっとブレイクして良かった女優さんだと思うんだけどなぁ。
89年のサスペンス映画『シー・オブ・ラブ』で注目されましたが、その後の出演作に恵まれなかったのが残念でしたね。
(ジャック・ニコルソンの個性とぶつかり合っても、堂々と渡り合える女優さんだと思いましたがねぇ・・・)

それにしても、ジョーンを交際していたという指揮者の男もなんだか怪し過ぎますね(笑)。
普段からジョーンに執拗に絡んだりして、あんまり良い言葉ではないけど、なんだか女々しくて怪しい。
いくらムシの居所が悪くとも、「お前の自己満足な歌声にウンザリだ!」と貶すのは、まんまハラスメントですしね。
これがジョーンとの関係が解消に至った腹いせでやってることだとしたら、なんとも気持ち悪いなぁと思えてしまう。

こういうキャラクターは、コメディ映画には少々不釣り合いなキャラクターに観えるんですよね。
ここだけ切り取って観てしまうと、ボブ・ラフェルソンは本作をサスペンス映画にしたかったのかなぁと思ってしまう。

映画の冒頭の楽しげなアニメーションといい、『ピンクパンサー』シリーズのような映画を目指していたのかとも思え、
おそらくサスペンス色のあるコメディにしたかったのだろうから、この指揮者のような陰湿さは余計なものに観えた。
どうしてもこの陰湿なキャラクターを描くというのであれば、もっとこのキャラクターを効果的に使って欲しい。
本作は元恋人ということで、どこか疑惑のある存在でこの指揮者を登場させているけど、ちっとも活かされていない。

いずれにしてもボブ・ラフェルソンには、もう一花咲かせて欲しかったですね。
個人的には『ファイブ・イージー・ピーセス』で衝撃を受けただけに、晩年に精彩を欠いたのが残念でならなかった。
96年にも『ブラッド&ワイン』でジャック・ニコルソンとは一緒に仕事していただけに関係は悪くはなかったのでしょうが、
結局は彼との仕事の中でも、『ファイブ・イージー・ピーセス』を超えることが出来なかったという印象でしたね。

まぁ・・・正直、ボブ・ラフェルソンが監督でなかったら、ジャック・ニコルソンは出演しなかったでしょうね。

(上映時間99分)

私の採点★★★☆☆☆☆☆☆☆〜3点

監督 ボブ・ラフェルソン
製作 ブルース・ギルバート
   キャロル・イーストマン
脚本 キャロル・イーストマン
撮影 スティーブン・H・ブラム
音楽 ジョルジュ・ドルリュー
出演 ジャック・ニコルソン
   エレン・バーキン
   ハリー・ディーン・スタントン
   ビバリー・ダンジェロ
   マイケル・マッキーン
   ヴェロニカ・カートライト
   ソウル・ルビネック
   レベッカ・ブロサール
   ポール・マザースキー