マレフィセント(2014年アメリカ)

Maleficent

ディズニー配給で邪悪な妖精マレフィセントを描いた、ファンタジー映画。

アンジェリーナ・ジョリー主演で話題となっておりましたが、
個人的には思っていたほどの面白さではなかったというか、映画の出来もそこまでではなかったですね。
ディズニー映画らしい展開と言えば、それまでですが、この題材ならば、もっとしっかり描いて欲しかった。

映画の終盤の城内での対決シーンはなかなか迫力があるのですが、
そこに至るまでの展開がモタついている感じで、上映時間も必要以上に長く感じられたなぁ・・・。

僕はこの映画、もっと面白くできたはず、盛り上げられたはずだと思っています。
コスチュームへのこだわりが凄く強く、おそらく美術関係では高く評価されると思いますが、
そんなコスチュームにアンジェリーナ・ジョリーが出演している、というだけの映画に陥ってしまっている。
これでは、いけない。せっかくの土台を、凄く勿体ないことにしてしまった映画という印象が残ってしまいましたね。

こういう映画なんで、各キャラクターをもっと掘り下げろ!なんて言いませんが、
少なくとも、もっとワクワクさせて欲しいし、もっとドキドキさせる存在であって欲しいと思う。

ただ、一つだけ。
若き日のマレフィセントと愛を誓った王子ステファンが、王位を継承したいがために、
突如としてマレフィセントを裏切って、敵対関係になるという展開はもっとキッチリ描いて欲しかった。
あまりにステファンが雑に描かれているせいか、彼の行動については納得性が皆無なのは残念。
これが映画の盛り上がりに欠けることの遠因となってしまっている気がするし、大きく足を引っ張っている。

主人公のマレフィセントにしても、複雑な過去があって、邪悪な妖精になってしまったという過程を、
映画の序盤から延々と羅列するのですが、これが言い訳がましく見えてくるから、この作戦は失敗だと思う。
マレフィセントの複雑な過去については、もっとサラッと描いて欲しい。こんなに早い段階から、
マレフィセントの母性とも言える、愛情や人間らしさを表現してしまうのは、映画の企画を覆しているようなものだ。

監督は『アバター』などのプロダクション・デザインを担当していた、
ロバート・ストロンバーグで本作が監督デビューなのですが、とてもいい勉強になったでしょうね。
でも、本作でいいだなんて思わないで欲しい。もっと映画はエキサイティングな存在であるべきだから。

勿論、ディズニー映画らしく、大人から子供まで楽しめる落ち着いた映画というのもあるだろう。
それならば本作は、もっとアクションやCGを使ったシーンを減らして、ファンタジー性に訴求すべきだろう。

そう、僕がこの映画を観ていて、何より気になったのは、その中途半端さで、
おそらくディズニーのプロダクションにも興行収入に対する、相応の焦りがあったはずで、
本作なんかは編集段階でかなり迷走してしまった痕跡が残っている映画のような気がしますねぇ。

個人的にはアンジェリーナ・ジョリーの魅力もフルに活きていたとは思えず、なんだか不発なんだなぁ〜。

良いところを挙げると、やはり映像美だろう。
残念ながら、演出面でそれらは活かされなかったが、それでも映画を見事に彩っている。
特に少女時代のマレフィセントを語る、序盤のムーア国のファンタジーな世界観は圧巻の映像美だ。

思えば、スピルバーグが91年に撮った『フック』でも、当時、最先端だったSFXを駆使してましたが、
『フック』を撮った時代に、本作のような美しい映像処理が可能だったら、『フック』も傑作になったんだろうなぁ(笑)。

名作『眠れる森の美女』の実写映画化として話題とはなりましたが、
あくまでマレフィセントの視点でストーリーが進められるので、印象は大きく異なります。
本来、『眠れる森の美女』ではクローズアップされるはずの、オーロラ姫はエル・ファニングが演じている。
彼女は、『I am Sam/アイ・アム・サム』でブレイクしたダコタ・ファニングの妹ですが、完全に独り立ちですね。

随分と大人の女性な容姿になってきましたので、
これからは本格的に子役から脱皮して、女優業を歩んでいくことになるのでしょうか?
(おそらく彼女ほどの力と、幼い頃からの経験があれば、着実にステップアップしていけるはず)

どうやら、本作の企画は当初、ブラッド・ピットが目を付けていたみたいですね。
それに彼の妻のアンジェリーナ・ジョリー主演で映画化という企画が乗っかってきて、
アンジェリーナ・ジョリー自身が製作総指揮でプロダクションに参加することで、企画が進行したみたいです。
ドサクサに紛れて、赤ちゃんの頃のオーロラ姫役で、彼女の子供をスクリーン・デビューさせているだけに、
かなり本作の企画自体にブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリーの意向が反映されているのだろう。

そのせいか、従来のディズニー映画の感覚とは異なる部分も確実にありますねぇ。

前述した、中途半端にもアクション・シーンが多いこともそうなのですが、
『眠れる森の美女』の基本でもある、“真実の愛を意味するキス”という部分なのですが、
結果的にこの映画で描かれたのは、確かに真実の愛ではあるけど、オリジナルとは大きく異なるもの。
これは予想外というか、かつてのディズニー映画でもそうそう滅多に無い、ある意味で画期的なシーンかも。

おそらくディズニーのことですから、「顧客満足」と「時代の変化」にはとても敏感でしょう。
そういう意味で、ディズニーのプロダクションも従来の安心感を残しながらも、新たな境地を開拓したいのかも。
こういった潮流が他作品にも波及するようであれば、もっと大きな“波”になるかもしれませんね。

但し、そうであっても本作は中途半端だ。やるなら、もっと徹底的にやって欲しい。
中途半端が一番良くない。ややもすると、「チャレンジしない方が良かった」という結論にもなりかねないからだ。
断じて、その類いではないと信じているが、ただ漫然と「新しいことにチャレンジしてみよ〜」みたいな、
準備が十分ではない状況で新たなチャレンジをしても、失敗することは火を見るより明らかなわけです。
文字通り、「勝ちに不思議な勝ち有り。負けに不思議な負け無し」ということなわけです。

本作はそういう、イージーな信念な映画ではありませんが、
本作を意味のある映画にするためにも、作り手がどのように反省するのかが、カギを握っています。

(上映時間97分)

私の採点★★★★☆☆☆☆☆☆〜4点

監督 ロバート・ストロンバーグ
製作 ジョー・ロス
脚本 リンダ・ウールヴァートン
撮影 ディーン・セムラー
編集 クリス・レベンソン
    リチャード・ピアソン
音楽 ジェームズ・ニュートン・ハワード
出演 アンジェリーナ・ジョリー
    シャールト・コプリー
    エル・ファニング
    サム・ライリー
    イメルダ・スタウントン
    ジュノー・テンプル
    レスリー・マンヴィル
    ヴィヴィアン・ジョリー=ピット

2014年度アカデミー衣装デザイン賞 ノミネート