メイド・イン・マンハッタン(2002年アメリカ)

Maid In Manhattan

ニューヨークの5つ星のホテルでメイドとして働くシングル・マザーのマリサが、
ひょんなことから将来を有望視される下院議員マーシャルと出会い、恋に落ちる。
が、しかし、マリサが望まないにしても、金持ちの娘キャロラインと身分を偽ってマーシャルに会っていたために、
やがてはトンデモない騒動へと発展してしまう様子を描いた全米大ヒットのロマンチック・コメディ。

言ってしまえば、これはシンデレラ・ストーリーである。
映画の細部は不足な部分があるように感じるが、総合的にはそこそこ楽しめる。

監督は『スモーク』のウェイン・ワンで、予想外なほどに定石通りのロマンチック・コメディではありますが、
全体的に手堅い作りで、“押し”の強いイメージがあるジェニファー・ロペスに、レイフ・ファインズという
派手さのないイギリス人俳優を配役することによって、映画全体としてのバランスを上手く保っています。

ただ欲を言えば、もっとテンポ良く話しを進めて欲しかったかな。
この手の映画としては、やはり映画のテンポは大切で、サクサク観れなければ、ひじょうに映画が長く感じます。

別に本作が冗長なわけではないけれども、もっとテンポ良く進めれた部分はあったはずで、
特にマーシャルがマリサを忘れられずに、間違ってキャロラインを昼食に招待するエピソードなんかも、
もっとメリハリを付けてテンポ良く描いて欲しい部分でしたね。どちらかと言うと、本作は淡々と描いているだけ。
これはもっと工夫の余地があったはずで、喜劇性を強調するなりコミカルな部分で押しても良かったかな。

それと、同じコメディ・パートで言えば、
マーシャルの選挙参謀を演じたスタンリー・トゥッチがもの凄く中途半端でひじょうに勿体ない。
これは彼以外の脇役がひじょうに良かったせいか、余計に中途半端さが目立っている。

別に過度にドタバタ劇を作る必要はないが、
スタンリー・トゥッチなんかはもっと彼なりの個性を出して、映画を盛り上げることができたはずだ。
たいへん申し訳ない言い方ですが、これぐらいならば別に彼でなくとも務まる役なのが悲しいかな・・・。

良かった部分で言えば、ベレスフォード・ホテルのベテラン給仕ライオネルを演じたボブ・ホスキンスだろう。
加齢による衰えもあり、マリサにフォローしてもらいながらも、随所でベテランらしいアドバイスを行ったり、
さり気なく味わい深い芝居を披露していて、映画の脇役がどうあるべきかを改めて認識させられますね。

ちなみに原案のエドモンド・ダンテスとは、80年代に活躍したジョン・ヒューズの変名。

そう言われてみれば、ジョン・ヒューズらしいストーリー展開のように思えますが、
どうせならジョン・ヒューズにメガホンを取って欲しかったですね。晩年はほとんど監督作も無かったですし。
本作なんかはもっとコメディ映画の経験があるディレクターが撮っていれば、変わっていたと思いますね。
(ちなみにジョン・ヒューズは09年にウォーキングの最中に心臓発作を起こして急逝されました・・・)

映画は若干、政治的なニュアンスがあって、
マリサの息子がニクソン政権時のアメリカ国内政治に傾倒しているというエピソードがあります。
そのせいか、音楽もサイモン&ガーファンクル≠ネんかが好きで、実に立派な70年代派(笑)。

主題歌までポール・サイモンの『Me And Julio Down By The Schoolyard』(僕とフリオと校庭で)を
採用するという徹底ぶりで、ポール・サイモンの独特なリズムが映画の冒頭から何とも心地良いですね。

この映画の一つの重要なメッセージとしては、
ブルーカラーの人だって、夢をつかむチャンスを与えられるべきだということがあります。
これはある種、宿命的なものがありますが、今日の日本社会に於いてもホワイトカラーと比べれば、
ブルーカラーが社会的地位を高めていくことは難しく、僕はこういったジレンマを社会に出て、痛感しました。

確かに自然と、そういった社会的な流れが発生する理由は何となくではありますが理解できますし、
少なくともブルーカラーの人々も、社会的地位を高めていくためには、それなりの勉強が必要です。

ただ、この映画のマリサのように最前線の現場で活躍するブルーカラーの人々でも、
平等に評価される社会であって欲しいとは思いますね。雇用形態の違いがあって、
報酬面での問題もありますが、正規雇用者であってもブルーカラーの立場になると、
なかなか社会的地位を高めていくことにつながらないのは、日本社会の不条理なところだと思いますねぇ。

まぁ出世が全てではないし、最終的には自分がどこで満足するかだとは思う。
だけど、やっぱり人事考課や出世ってのは、組織に於ける自分の評価が体感できる指標ですし、
労働のモチベーションを保ち、高めることができる、影響力の大きな指標だと思うんですよね。

身分違いの恋というには、若干、大袈裟な感はありますが...
恋愛にしても、交友にしても、人事考課にしても、階層の隔たりなく対等にチャンスの与えられる社会に
いち早く成熟するために、体制を構築していかなければならないと思いますね。

だからこそ、『ローマの休日』ではないけれど、
マリサとマーシャルの恋の成就も、たいへんな出来事だと思うんです。
こんなことが現実に起これば、やはりたいへんなスキャンダルとして扱われてしまうかもしれません。

この映画、こういった部分も少しケアし切れていなくって、
マーシャルの気持ちの障害となるものを、もっと描いて欲しかったかなぁ。
おそらく彼の選挙参謀だけではなく、恋愛に猪突猛進なマーシャルの心にストップをかけようとする輩は、
現実にはもっとたくさんいるだろう。この映画、そういった部分も少し弱いのが勿体ないです。。。

(上映時間105分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 ウェイン・ワン
製作 エレイン・ゴールドスミス=トーマス
    ポール・シフ
    デボラ・シンドラー
原案 エドモンド・ダンテス
脚本 ケビン・ウェイド
撮影 カール・ウォルター・リンデンローブ
衣装 アルバート・ウォルスキー
編集 クレイグ・マッケイ
音楽 アラン・シルベストリ
出演 ジェニファー・ロペス
    レイフ・ファインズ
    ナターシャ・リチャードソン
    スタンリー・トゥッチ
    タイラー・ガルシア・ポジー
    ボブ・ホスキンス
    マリサ・メイトロン
    フランセス・コンロイ
    クリス・アイグマン
    エイミー・セダリス