マジック(1978年アメリカ)

Magic

出来の悪い映画だとは思わないけど、“隠れた秀作”というほどでもないかなぁ。

腹話術師としてある程度の成功を収めたコーキーが本作の主人公。
テレビ出演し、スターとなる道を夢見るコーキーでしたが、彼は当初マジシャンを目指していましたが、
不気味な人形ファッツを用いた腹話術の腕をかわれて、マネージャーが付くほどの成功を収めたのでした。

ところが健康診断を嫌がるコーキーは衝動的に都会を離れ、
田舎に戻り、初恋の人妻ペギーと再会、いつしか2人は愛し合う仲へと発展する。
何故、彼が健康診断を嫌がるかというと、実はコーキーは5分間も腹話術をやらずにいることができず、
ファッツを別人格として暴走させ、二重人格と葛藤していたからで、それが発覚するのを恐れていたのです。

心配したマネージャーがコーキーの消息をつかみ彼を訪問し、
しばらく留守していたペギーの夫は帰宅し、次々と修羅場を迎えるコーキー。
その度に彼はファッツの暴走を止められず、次第にコーキー自身が操られていきます。
そんな操られ踊らされていく姿を描いているのですが、これだけは当時としては斬新な発想だろう。

監督は俳優出身のリチャード・アッテンボローで、82年には『ガンジー』を撮って高く評価されます。

本作の前年77年に『遠すぎた橋』で英米オールスター・キャストで、
莫大な予算を投じて超贅沢に映画を撮ったせいか、今回は一気に粛清ムード(笑)。
とにかく映画の冒頭から、低予算で撮影を強いられたことが明白な企画で、色々と苦慮しているのが分かる。

あまり大掛かりなセット撮影もできないし、当然、特殊効果も使えない。
従って、如何にして限られた予算で最大限のパフォーマンスを出すかという点に注力しています。

特に『チャイルド・プレイ』シリーズに通じる、ただでさえ不気味なデザインの人形を
更に“作り物”的な恐怖心を煽るため、カットを割って、音楽を使うことによって、より不気味な雰囲気を強調。
これらの発想の原点はおそらくヒッチコックの『サイコ』だと思うんだけど、あらゆる発想を駆使して、
カスタマイズして、新たな映画として焼き直す手法は、今の映画人たちにとってお手本となるものですね。
(勘違いしてはいけない...本作は決して他作品をそのまま流用しているわけではないということを・・・)

そして忘れてはならないのが、ペギーを演じたアン・マーグレットの存在感ですね。
彼女と言えば、何と言っても75年の『Tommy/トミー』で豆缶まみれになった芝居が印象的ですが、
今回はチョットくたびれたような人妻という設定で、(決して強烈ではないが...)どこか色気を感じさせます。
予想外の(?)アンソニー・ホプキンスとのベッドシーンもあったりして、彼女は彼女で奮闘していますね。

でも、映画の出来はそこまで良くないんだなぁ。
色々と言いたい部分はあるんだけど、もっと強烈なインパクトがあった方が良かったと思う。
正直言って、低予算も影響しているかとは思いますが、映画全体が地味過ぎるのがネックですね。

ラストシーンにしても描きたい意図はよく分かるのですが、
コーキーの葛藤に関する描写が弱いせいか、どうしても行動動機に説得力が弱く、
ある意味では悲劇的なニュアンスを出せるにも関わらず、訴求力が弱く不発で終わってしまうのが残念ですね。

確かにアンソニー・ホプキンスがサイコな芝居をした原点であるかもしれませんが、
91年の『羊たちの沈黙』で彼が演じたレクター博士のようなインパクトは、本作にはありません。
同じサイコ演技とは言えど、方向性が全く違うので、本作との関連性はあまり感じられなかったですね。
どちらかと言えば、ファッツに操られ踊らされるカオスな芝居の方が、インパクトは強かったかもしれませんね。

ただ、面白いところはコーキーはファッツという別人格を利用している面もあるということで、
特にペギーと不倫関係にある中でも、コーキーの心の奥底に存在する本音をファッツに言わせるというところで、
二重人格にありがちな話しではありますが、ファッツはコーキーとは正反対な人格なんですね。

実は10年現在、某レンタル・ショップ店の企画で“発掘作品”のシリーズで
本作が取り上げられていて興味を持ったのですが、前述したように“隠れた秀作”というほどでもないかな。

まぁ70年代も後半に差し掛かり、こういった発想の映画が撮り易い環境もできていたでしょうし、
同時期の他作品を考えれば、これはもう標準的な出来と言わざるをえない。
70年代後半は『マラソン マン』や『ブラジルから来た少年』みたいな大型サスペンス映画に加え、
『ジェラシー』のようなサイコ・サスペンスも誕生していたので、当時の流行と言えばそれまでだろう。

こういう作品が生まれたことを考えれば、ヒッチコックの『サイコ』って偉大なんですねぇ。
(僕は『鳥』とかの偉大さは実感していたけど、『サイコ』の偉大さを実感したのって最近なんですよね。。。)

一つだけミステリーなのは、映画のラストシーンでのペギーの言葉。
これは多用な解釈のできる映画かとは思うのですが、ファッツが酷い言葉をペギーに浴びせたがために、
部屋に閉じこもってしまったペギーにハート型にカットした木をプレゼントするコーキー。
しかし、ホントにペギーはそれだけで彼を許すことができるのだろうか?

ひょっとすると、これはコーキーの妄想なのか?
そう考えると、僕はもっと良いラストのあり方があったとは思うけれども...
これはこれでユニークでいろんな解釈ができるラストなのかもしれませんね。

(上映時間106分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 リチャード・アッテンボロー
製作 ジョセフ・E・レヴィン
    リチャード・P・レヴィン
原作 ウィリアム・ゴールドマン
脚本 ウィリアム・ゴールドマン
撮影 ビクター・J・ケンパー
美術 テレンス・マーシュ
音楽 ジェリー・ゴールドスミス
出演 アンソニー・ホプキンス
    アン・マーグレット
    バージェス・メレディス
    エド・ローター
    E・J・アンドレ
    ジェリー・ハウザー
    デビッド・オグデン・スタイアーズ