恋に落ちたら…(1993年アメリカ)

Mad Dog And Glory

市街地の店に押し入った殺人犯を追った気弱な警察官が、
偶然にも人質に取られていたマフィアのボスを助けたことから、彼に慕われたことから
彼の情婦を家に派遣されて1週間にわたって“もてなし”を受けたことで、彼女と恋に落ちるラブ・コメディ。

デ・ニーロが気弱な警察官というのもナンですが、
まぁ彼の力量からすると、実に簡単にサラッと演じることができていますが、どことなく恋愛には晩熟という設定で
子供と言っても過言ではない年齢のユマ・サーマンが相手役のヒロインなので、なんだか微妙な感じだ。

そうそう、ヒロインのユマ・サーマンがキレイ!
ぎこちないキスシーンから、夜中のお出かけを挟んで、デ・ニーロともベッドシーンがありますけど、とにかく映える。

まぁ・・・この映画は冴えない中年男と、若い女性のロマンスというコンセプトであって、
最初は拒否感でいっぱいだった男の方が、“もてなされた”ことで彼女を真剣に愛し始め、一方でヒロインは
マフィアのボスとの腐れ縁を切れずにいて困っていたことから、彼に対する本音が不透明なまま映画が進む。
たぶん、本作で描かれるロマンスの面白いところはここで、男は真剣になり、ヒロインはどこか裏があるように感じる。

だって、デ・ニーロ演じる中年男だって、対して若く見えるわけでもないし、
警察官としても冴えないし、たいした業績があるわけでもない。腕っぷしが強そうなわけでも、
スタイルが良いわけでもないすっかり恋愛を諦め、恋する気持ちを忘れていた中年男ですよ。

いくら、火傷させてしまう粗相をしてしまったとは言え、そう簡単に恋するとも思えんでしょ(笑)。
この辺は本作の弱いところでもあるのですが、逆の言い方をすれば、ヒロインの本音が見えにくい、
つまり、本気で相思相愛と言っていい男女の仲なのかは、敢えてボヤかして描くことで、ミステリアスな部分ができる。
この映画はそのミステリアスさを利用していると言っていい内容で、これで映画を最後まで引っ張っている。

映画の結末は少々甘いところはあるが、褒められた出会いではないにしろ、
どんなキッカケであったって、他者を愛する気持ちを取り戻し、勤務中もウキウキしちゃう人間らしさ。
それまでの主人公の警察官は、どこかナヨナヨしていて、自分を上手く主張することもできないもどかしさがあった。

ただ、この映画、ラブコメとしては観終わった後の爽快感が今一つ。
それには理由がある。まずは、マフィアのボスを演じたビル・マーレーがどこか不発なのです。
彼特有のユーモアは賛否あると思いますが、せっかく映画をかく乱する役割を担うのかと思いきや、
映画の最後の最後まで思いのほか大人しい役柄で、クライマックスのデ・ニーロとのケンカもなんだか物足りない。

全く観客にとってストレスになる存在ではないし、笑いをとりにくるわけでもない。
要するに中途半端な存在になってしまっている。これは作り手の問題も大きいと思います。これは致命的ですらある。

それゆえか、映画のラストにスカッとするものが一つも無い。
作り手に言わせれば、「あくまで恋愛映画だから・・・」と言われるのかもしれないけど、それにしても物足りない。
コメディとしての見せ場ももっとしっかりと作った方が良かったと思いますね。全体的に映画のテンポが良くないです。
このテンポの悪さこそ、本作の足りない部分を象徴しているものであって、これは作り手の問題も大きいです。

監督はジョン・マクノートン、86年の『ヘンリー/ある連続殺人鬼の記録』でマーチン・スコセッシに評価され、
本作で監督するチャンスを得たそうなのですが、ジャンルの問題もあるのかもしれないが、力を存分に発揮できず。
やっぱり、ジョン・マクノートンは98年の『ワイルドシングス』が彼の監督作で最大のヒット作でしょうけど、
ああいう映画の方が自分の得意分野だという自覚はあるのかもしれません。確かにラブコメの撮り方が分かってない。

それからこの映画、ビル・マーレー演じるマフィアのボスの描き方がチョット上手くない。
ひたすら無表情で皮肉屋なキャラクターを生かしてか、副業がスタンダップ・コメディアンということにしているが、
これがまた、ズルいところで「そら、マフィアのボスのギャグは笑わないわけにいかんでしょ」と思えてしまう。

そんなボスが勝手にバーテンダーである若い女性を、自宅に送り込むのですから、なんだかキナ臭い(笑)。

それをイザコザがありながらも、最終的に受け入れてしまうのだから、主人公はそうとうなお人好しだ。
もっとも、主人公は警察署内で“マッド・ドッグ(狂犬)”と嫌味なあだ名を付けられても、ヘラヘラしているのだから、
どんだけ気弱なんだよ・・・って感じですが、居候する女性に恋してしまった気持ちの高ぶりを抑えられないのか、
公園でドラッグ販売を持ちかけてきた若者には、突然、銃を向けて怒鳴りつけるし、なんだか行動がハチャメチャ。

そう思って観ると、この映画、主人公の同僚である警察官たちも変。
だいたい正当な理由で訪問してきたとは言え、マークしているはずのマフィアのボスが来て、
彼のギャグに聞き入ったり、差し入れのスイーツを楽しみしているなんて、現実的にはありえな関わり方だ。
温かい仲間たちというコンセプトなのでしょうが、いくらなんでもアットホーム過ぎるでしょう(笑)。

何故に本作にマーチン・スコセッシがプロデューサーとして参加したのかは分かりませんが、
ジョン・マクノートンにチャンスを与えたかったのかもしれません。ただ、マジックは起きませんでしたね。
色々と描き方に難があり過ぎて、酷い出来とまでは言わないけれども、観終わった後の満足感は弱いかなぁ。

やはり、もっと主人公とヒロインの恋愛にしても丁寧に描いて欲しかったし、
映画の終盤でもいいので、ヒロインの主人公に対する想いも、「やっぱり本物なんだ!」と思わせて欲しかった。
映画の中で描かれていることだけでは弱い。「どうせ、すぐに(主人公が)捨てられそう・・・」と思えてならない。

主人公の気弱な性格を、もっと良い意味で利用して、もっと彼にとって困ったシチュエーションを作って、
彼がドギマギするシーンを描いて、映画にリズムを与えるようなコミカルさを演出して欲しかった。

だって、これはあくまでコメディですからね。恋愛の描き方も中途半端、コメディとしても中途半端では、
この映画が本来果たすべき役割を全く果たしていないということで、特にコメディ色は希薄に映ったから。
何が気になるって、ジョン・マクノートンはこれでラブコメとしては十分だと思って、演出しているような気がすることで、
どうしても映画の最後に無理矢理、主人公とヒロインを結び付けたようにしか見えないところが、とっても残念。

僕はこの映画を観ながら、例えば『プリティ・ウーマン』を撮ったゲイリー・マーシャルなら
どういう仕上がりになっていただろう?とか、ずっとそんなことばかり考えていた。そう思わせた時点で、ダメ。

題材としては面白かったと思うんですがねぇ。
臆病な警察官が、よりによってマフィアのボスの情婦を真剣に愛してしまい、相思相愛な状況になって
逆にボスからは「返せ!」と迫られるというわけですから、コメディ映画のシナリオとしては実に魅力的なはず。

それがこの結果になってしまったのだから、やっぱり作り手の“料理”の仕方の問題ですよ。
マーチン・スコセッシが撮っていても、あんまりフィットしないような気はしますが、ジョン・マクノートンは人選ミス。
もっとこの分野で経験のあるディレクターに任せた方が、もっと良いアレンジを施して、良い仕上がりにしたと思う。

ところで、シリアスに考えると、この映画の最後のあり方からすると、
下手したら主人公とヒロインって、命を狙われかねない状況のような気もするのですがね。。。

まぁ・・・日本の警察でも捜査のためにと、反社会的組織とかなり近い関係の警察官も
いるのかもしれませんが、やっぱり深く足を踏み入れてしまうと、大変なことになってしまうという教訓ですかね。
なんか、僕にはそう簡単にマフィアのボスが諦めるとも思えず、なんとも微妙なラストでしたね。

(上映時間96分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

監督 ジョン・マクノートン
製作 バーバラ・デ・フィーナ
   マーチン・スコセッシ
脚本 リチャード・プライス
撮影 ロビー・ミュラー
音楽 エルマー・バーンスタイン
出演 ロバート・デ・ニーロ
   ユマ・サーマン
   ビル・マーレー
   デビッド・カルーソ
   マイク・スター
   トム・トウルズ
   キャシー・ベイカー