マッド・シティ(1997年アメリカ)

Mad City

日本でも派遣切り問題など、昨今、様々な話題を提供し続けている雇用問題。
さすがに本編で描かれているほど、過激な事件は発生していないが、非正規雇用の人数が増え、
仕事が減りつつある昨今、雇用問題が何時、犯罪へ発展してもおかしくない状況だ。

監督は社会派監督コンスタンチン・コスタ=ガブラス。
彼は独特な映画を撮り続けているが、69年の『Z』、73年の『戒厳令』、82年の『ミッシング』は絶品だった。

で、本作。
物語の発端は、ある地方都市の博物館で警備員を勤めるサムがリストラに遭ったことから始まります。
彼は解雇撤回を求め、ライフル銃とダイナマイトをバッグに詰め、博物館へやって来ます。

一方、かつてキー局のレポーターを勤めていたとき、キャスターのケビンとカメラの前で衝突し、
この博物館がある地方都市に左遷され、たまたま博物館へ取材に訪れていたマックスは、
ライフルを片手に館長を脅すサムの姿を目撃し、マックスは緊急レポートを敢行。

しかし、アッサリとサムに見つかり、マックスはサムの独占取材を申し込む。
気の弱いサムはマックスを次第に受け入れ、独占取材は世間からの注目を浴びるようになる。
視聴率稼ぎのために彼らを利用しようとするTV局と、事件の脚色を始めるライバル局。
いわゆるマスメディアを強烈に批判する映画なのですが、表面的にはサスペンス映画だ。
こういったスタンスはコンスタンチン・コスタ=ガブラスは昔から持っていました。

ただ、僕にはこの映画における彼の姿勢というのは、少し中途半端に感じたかな。
確かに映画の題材としては悪くないと思うし、見せ方も決して下手ではない。
しかしながら、シニカルにマスコミを描くというスタンスが中途半端で、映画が一向に盛り上がらない。

やるなら、もっと徹底して描いて欲しいと思う。
確かにこの映画のクライマックスはかなり衝撃的なラストになっていますが、
ダスティン・ホフマン演じるマックスが群集に囲まれて「オレたちが殺したんだぁ〜!」と絶叫しても、
映画のメッセージとしては弱いと思いますね。もっと皮肉な構図を描いて欲しい。

この映画で感心したのは、サムを演じたジョン・トラボルタですね。
こんなに器用に不器用な男サムを演じられるとは思ってもいませんでしたね。
これはそう易しい役柄ではなく、とても複雑な背景を抱えている役ですね。
ここまで上手い役者だとは思ってもいませんでいたので、正直言って、驚きました。

ただ、本作の新鮮味溢れた驚きと言えば、これだけ。
ベテラン俳優ダスティン・ホフマン主演作とは言え、彼は残念ながら凡庸な芝居に終始している。

ほぼ限定された空間でしか描かれない映画ですので、
ただでさえ移動感に乏しいのですが、更に工夫がないため、映画にスピード感が感じられない。
これではさすがに映画は向上しませんね。コメディ的なニュアンスも中途半端で余計なだけ。

ただ視聴率を稼ぐためなら、手段を選ばないマスコミの恐ろしさは映画の中で活きていますね。
かつて76年の『ネットワーク』などで、同様のテーマが映画の中で描かれていますが、
日本でもプライバシー無視や、事実とは異なる内容が報道されたりと、メディアを凶器としてしまう、
マスコミによる社会問題は消えてなくなりません。それは好奇心むき出しに行動する、
私たちの姿勢が問題の根底にあるのですが、マスコミのモラルも求められます。

それはマスコミが本気になってしまうと、どんな身分の人間でも、人生を変えられてしまうからです。
それだけ責任のある職務だし、同時に社会の脅威となり得る存在であることは否めないのです。

どんなに便利な道具、あるいは媒体であっても使い方を誤れば、トンデモない凶器になってしまいます。
コンスタンチン・コスタ=ガブラスはこういった無意識的な狂気の恐ろしさを、象徴的に描いていると思いますね。

かつてテレビ・レポーターが偶然、事件に遭遇したというハプニングは現実世界にもあったと思うけど、
この映画で描かれるマックスというリポーターは自身のキー局へと復帰のためにと事件を利用しようと、
気が小さく、オドオドしている篭城犯サムを徐々に手なずけようとする姿が面白いですね。
そんなマックスの姿には、ある意味で人間の狂気的な側面が息づいていると思います。

しかし、マックスも人道的な側面を失っていなかったためか、次第にサムに感情移入を始める。
映画の前半では冷静さを失っていたのはサムだったのですが、映画が進むにつれて、
次第にマックスの方が落ち着きを完全に失ってしまうのです。人気番組『ラリー・キング・ショー』に出演する
シーンなんかでは、マックスが必死に主導権を握ろうとするし、サムの心情を代弁しようとします。

この映画のクライマックスは何とも呆気なく、唐突に訪れる。
実に派手なラストシーンなのですが、僕はこの映画最大のウィーク・ポイントはこのラストシーンだと思う。

確かに理屈としては成り立つラストなのですが、これでは訴求しない。
映画の大きなテーマであったマスメディアに対する強烈な皮肉というのも、これでは薄まってしまいます。
まるでサムの人間的な弱さだけが強調されてしまったかのようで、チョット残念でしたね。

まぁこのラストさえどうにかなっていれば、
もっと好印象を残して終われていた可能性があるだけに、とても残念な仕上がりだ。

(上映時間114分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 コンスタンチン・コスタ=ガブラス
製作 アーノルド・コペルソン
    アン・コペルソン
脚本 トム・マシューズ
撮影 パトリック・ブロシェ
音楽 トーマス・ニューマン
出演 ダスティン・ホフマン
    ジョン・トラボルタ
    アラン・アルダ
    ミア・カーシュナー
    ロバート・プロスキー
    ウィリアム・アザートン
    ブライス・ダナー
    テッド・レビン