ラブ・アクチュアリー(2003年イギリス・アメリカ合作)

Love Actually

『ノッティングヒルの恋人』、『ブリジット・ジョーンズの日記』などのシナリオを書いた、
リチャード・カーティスがやはりロンドンを舞台にして、クリスマスを控えた頃に於ける、
複数の男女の様々な愛の模様を描いた、群像劇風に仕立てたラブ・コメディ。

まぁ映画の出来は、正直言って、そこまで良いとは思っていないのですが、
初っ端から、実に手堅い出来の映画を発表してきたことに、驚かざるをえないのですね。

この映画、2時間を大きく超えてしまう尺の長さを何とかすれば、
もっと映画が引き締まって、最終的な印象も良くなったであろうし、
特に日本では、上映時期をクリスマス・シーズンに合わせることができれば、
もっと大きな話題となって、商業的にヒットしたであろうと思えるだけに、チョット勿体なかったなぁ。

数多くの恋愛模様が描かれますが、
映画の序盤は特に、売れなくなってしまったポップ・スターを演じたビル・ナイの怪演が目立つ。

往年のヒット曲をクリスマス・ヴァージョンに勝手に変えられた曲を無理矢理歌わされ、
「クソみたいな歌詞だ!」と憤慨しながらも、次第に曲がヒットしていき、チャート・アクションが大きくなるにつれ、
テレビへの露出が増え、出演するたびに悪態を加速させていく姿があまりに強烈で、インパクトがあります。

しかし、彼が映画の終盤でエルトン・ジョンのパーティーに行って、
何故か10分でマネージャーの家へ来て、「一緒にポルノ観ようぜ!」と誘う“くだり”は説得力がなかったかな。

彼曰く、「ヤツのパーティーに行けば、裸同然の若い娘(こ)がたくさんいるぜ」
「だけど考えたんだ・・・今までオレにとってなくてはならない存在は、お前だってことを!」と言うのですが、
正直言って、この映画を観る限り、そう彼の考えが変わっていくことの説得力って、ゼロに等しいんですよね。
できることならば、何か一つでいいから、彼の心が変わっていくキッカケを描いて欲しかったですね。

あと、イギリス首相を演じたヒュー・グラントは今回、
首相という役柄もあってか、彼の個性を活かしたチャラい感じは、かなり控え目だ。
『ブリジット・ジョーンズの日記』のようなキャラを彼に求めると、今回は肩透かしを喰らうかもしれません。
(しかし、映画の終盤で見せた、“一人ダンス”のインパクトは絶大だが・・・)

一方で、エピソードとしては、子供いる中年夫婦で会社のミステリアスな女性社員の
不倫の誘惑にメロメロになる亭主とその妻のエピソードはまずまず良かったと思いますね。
演じるアラン・リックマンとエマ・トンプソンはお互いにベテランで安定感がありますし、
すっかり落ち着いていたはずの夫婦が、夫のチョットした浮気心からバタバタする様子を巧みに表現しています。

特に映画の後半にデパートにプレゼントを買いに行くシーンで、
“ミスター・ビーン”が登場してきて、ジュエリー・コーナーで延々とラッピングする店員に
思わず夫が苛立って、「頼むから早く包装してくれよォ〜」と懇願するシーンは面白かったですね。

あのシーンでの“ミスター・ビーン”(ローワン・アトキンソン)は面白くって、
多くの観客も「早くしろォ!」と思ったことでしょうが(笑)、現実にあんな店員がいたら、
すぐにいろんな意味でトラブルになってるだろうなぁ。客のこと、全然、考えてないもん(笑)。

それにしても、映画の序盤でいきなり妻を失った悲しみにくれながらも、
難しい年頃の義理の息子の面倒を看る中年男性を演じたリーアム・ニーソンが可哀想に見えた。
いや、と言うのも、彼は映画の中の葬儀シーンで、若くして妻を失った痛みを語っているのですが、
実は彼、この映画の後に私生活で妻のナターシャ・リチャードソンをスキーの事故で失っているんですね。
まさかこれが映画の撮影の5年半後に、現実のものになるとは、誰も思っていなかったことだろう・・・。
(ちなみに悲しみに打ちひしがれた彼は、葬儀で自力で歩行できない状態だったとか・・・)

ただ、個人的にはこの映画を観て、
直感的にリチャード・カーティスはシナリオ・ライターとして優れているだけであって、
ディレクターとしての手腕は、そこまでではないのかなぁとは思いましたねぇ。

そりゃ、これだけの豪華キャストが集結して映画が完成するわけで、
いざ本編を観てみると分かりますが、出演者全員が彼の監督デビュー作を支援したいとする
気持ちが凄く強いということが伝わってくる映画になっていますので、人望は凄く厚いのでしょう。

ただ、まだ「設計」の感覚を感じさせないあたりに、
ストーリーを語るのに精いっぱいという印象を受け、ただ漫然と映画を撮っている印象を受けます。
凄い映像作家というのは、しっかりと映像でも語ろうとしますし、ある程度の作為があるものです。
ところがこの映画って、様々な愛を描いて、そこに何があるのか、追及し切れていないのですよね。

ハッキリ言って、なんでもいい。
例えば、「幸福」でも「奇跡」でもいい。何かカタルシスに匹敵するものがあれば・・・という気がします。

それがないせいか、どうにも長い映画の割りに、物足りないんですよね。
エピソードの比重も、群像劇調にしたために、悪い意味で分散してしまっていますし。

とまぁ・・・あまりに注文を並べ過ぎましたが(苦笑)、
基本路線としては僕は好きな映画ではあるんですけどね。あと一押しあれば、満点だったのに・・・って感じです。
つまらないミステイクは犯していない、キッチリした映画になっていますし、ひじょうに手堅い内容です。

しっかし、花嫁ジュリエットを演じたキーラ・ナイトレイって、キレイですね!
ひょっとしたら、『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズよりは、この映画の方がずっとキレイに撮れてるかも。

(上映時間135分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

日本公開時[PG−12]

監督 リチャード・カーティス
製作 ティム・ビ−ヴァン
    エリック・フェルナー
    ダンカン・ケンワーシー
脚本 リチャード・カーティス
撮影 マイケル・コールター
編集 ニック・ムーア
音楽 クレイグ・アームストロング
出演 ヒュー・グラント
    リーアム・ニーソン
    エマ・トンプソン
    アラン・リックマン
    コリン・ファース
    ローラ・リニー
    キーラ・ナイトレイ
    ビル・ナイ
    ビリー・ボブ・ソーントン
    ローワン・アトキンソン
    アンドリュー・リンカーン
    マルティン・マカッチョン
    ジョアンナ・ペイジ
    クリス・マーシャル
    ルシア・モニス
    マーティン・フリーマン
    トーマス・サングスター
    ロドリゴ・サントロ
    ハイケ・マカッシュ
    キウェテル・イジョフォー
    アブダル・サリス
    グレゴール・フィッシャー
    オリヴィア・オルソン
    シエンナ・ギロリー
    デニース・リチャーズ

2003年度イギリス・アカデミー賞助演男優賞(ビル・ナイ) 受賞
2003年度ロサンゼルス映画批評家協会賞助演男優賞(ビル・ナイ) 受賞