ロード・オブ・ウォー(2005年アメリカ)

Lord Of War

これは実に惜しい映画ですね、あとチョットで傑作になったかもしれません。

『トゥルーマン・ショー』の脚本家アンドリュー・ニコルが描く武器密売人の世界。

世界平和を脅かす武器や弾薬を、内戦・紛争・戦争の続く世界各国へ大量に売りさばき、
莫大な資産を築いていたアメリカ在住のウクライナ出身のユーリが暗躍する姿を描いたサスペンス映画。
かなり題材的には社会的タブーに迫った感がありますので、「9・11」の頃だったら上映されなかったかも。

主人公のユーリは銃や弾薬を大量に売りさばく武器密売人ですが、
法の網をかいくぐって、上手く合法スレスレのラインで商売を繰り返すため、
インターポールから目を付けられるものの、逮捕拘束され刑罰に処されるには至りません。
何故、アメリカ国家をはじめとし、世界各国が彼の存在を容認したかというと、
彼がいないと戦争が成り立たないからである。言わば、彼は戦争を裏で支える重要人物なのです。

だからこそ彼は殺されないためにと、用心には用心を重ねていました。
そしてどんな暴君であれ、脅迫はしても彼を拉致したり、殺害したりすることはありませんでした。

80年代に差し掛かり、裏の世界で暗躍し始めたユーリは米ソ冷戦で武器密売の世界を知り勉強し、
湾岸戦争間近、中東諸国を商売相手にすることによって、彼はその名を上げていきます。
ウソか真か分かりませんが、そこでビン・ラディンについても触れられており、
「ビン・ラディンは不渡り手形を出していたため、取引はしなかった」とユーリはコメントします。

この映画、基本的にはフィクションですが、
実在する武器密売人への取材をモデルに考案されたストーリーなわけですから、
事実に基づく話しが混ざっていると思われますので、ビン・ラディンの話しは真実かもしれませんね。

ユーリは美しい妻エヴァと家庭を築きますが、見た目の裕福さとは裏腹に経済事情は不安定なものでした。
支出は安定して積み重なっていくものの、収入は莫大なときもあれば皆無に等しいときもあります。
何とかしてエヴァと結婚しようとユーリはウソで塗り固めたもてなしを提供し、大富豪のように装います。

何とか彼女を口説こうとレンタルした飛行機を、プライベート機と思わせるために
自分の名前を尾翼に書くのですが、離陸時の風でペイントがにじんでしまうのは面白かったですね。

とにかく金遣いは荒くなっていくユーリなのですが、
それはエヴァとの関係が進み、莫大な収入を手にするにつれて、より悪化していきます。
そう、彼は案外、見栄っ張りなところがあったのです。そういう意味では、“成り金”なのかもしれませんね。
「金を止めてどうする。稼いだ分は遣わねば」みたいに信念を持って、散財していたわけでもありません。
つまり、ユーリは真の金持ちってわけじゃなかったんですね。子供に資産を残そうとしていたわけでもないし。

ユーリ自らナレーションで語っているように、
この映画のもう一つのキー・ポイントとして「ウソ」ということがあります。
そんな「ウソ」は時によっては自分の利益を生みますが、時に損害をもたらします。
結果として、妻への欺きを疑われ、更に妻を裏切ったため大きな代償を払うこととなってしまいます。

映画はこうしたユーリの武器商人としての成功と、家庭人としての破滅を対比的に描き、
もどかしくも完全なる幸せを手にすることができないユーリの不器用さを象徴させます。
ただ、そんな現実を別に否定的に描くわけではなく、むしろ成功の味わいを強調するかのようです。
こうした一連のユーリの描写というのは、とっても上手かったと思いますねぇ。

映画の冒頭でユーリが言い放つ台詞が妙に印象的です。
「世界に流通する銃は5億5000丁、つまり12人に1丁の計算になる」
「オレの夢は...1人1丁の世界」

それでも最初に「惜しい映画」と前述した理由は、
イーサン・ホーク演じるインターポールの捜査官ヴァレンタインの扱いが決定的に上手くないこと。
これはホントに勿体なかったですね。えてして、この手の映画は追う側の存在は強調しなければなりません。
残念ながら本作で描かれたヴァレンタインの存在感は極めて薄いですね。

せっかくイーサン・ホークをキャスティングできたというのに、ホントに勿体ない扱いに終始してしまいましたね。

確かに今まで幾多の戦争映画が発表されてきましたが、
過去に戦争を操る人々、戦争の裏側で繰り広げられる政治的攻防、実際の戦場での殺し合い、
戦禍がもたらす人々の苦悩など様々な側面から戦争を描いてきましたが、
戦争を繰り広げる上で必要不可欠とも解釈できる武器・弾薬を供給する姿というのは、描かれていませんでした。

そういった盲点をアンドリュー・ニコルも上手く突いてきますねぇ。
『トゥルーマン・ショー』も独特な世界観で、初監督した『ガタカ』も面白い映画でした。
02年の『シモーヌ』もなかなか面白い映画になっていて、そろそろグレイト・ムービーかと期待していたのですが、
今回も惜しいところで、グレイト・ムービーになり損ねてしまった感が強く残ってしまいましたね。

何とかして次の企画では、傑作と手放しで賞賛できるような素晴らしい作品となるよう期待しています。

(上映時間122分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

日本公開時[R−15]

監督 アンドリュー・ニコル
製作 ニコラス・ケイジ
    ノーマン・ゴライトリー
    アンディ・グロッシュ
    アンドリュー・ニコル
    クリス・ロバーツ
    テリー=リン・ロバートソン
    フィリップ・ルスレ
脚本 アンドリュー・ニコル
撮影 アミール・M・モクリ
編集 ザック・ステーンバーグ
音楽 アントニオ・ピント
出演 ニコラス・ケイジ
    イーサン・ホーク
    ジャレット・レト
    ブリジット・モイナハン
    イアン・ホルム
    イーモン・ウォーカー
    サミ・ロティビ