007/死ぬのは奴らだ(1973年イギリス)
Live And Let Die
ついに3代目ボンドのロジャー・ムーアが就任したシリーズ第8作で、
主題歌にもポール・マッカートニー&ウィングス≠起用するなど、かなり様変わりした印象があります。
監督は前作に続いてガイ・ハミルトンが担当したのですが、前作よりは良くなっていますね。
それでも、所々に変な演出があるにはあるのですが、よりエンターテイメントにシフトした感じで、
前作までにあったドンヨリ停滞したような空気感(≒マンネリ感)は、一気に打破したような感じがしましたね。
ショーン・コネリー時代よりはギャグを織り交ぜることがロジャー・ムーアの特徴ではあるのですが、
本作はまだギャグは少な目かな。エスカレートするとスパイという本職そっちのけでギャグに執心してしまうので。
その辺はガイ・ハミルトンは“007シリーズ”の監督経験があることもあってか、
ギャグをエスカレートさせることなく、ほど良くブレンドしている。まぁ、ショーン・コネリーよりは多いですけどね。
ただ、ギャグに執心するあまりシリーズの魅力を損ねるほどではなく、上手く全体のバランスをとっていますね。
ショーン・コネリー時代と比べると、激しいアクション・シーンは少なくはなっていますね。
また、半ば女性蔑視とも解釈されかねないボンドガールの扱い方とかも、かなり時代を意識して改善していて、
おそらく脚本の段階から変わっていたのでしょう。そもそもロジャー・ムーアは62年の『007/ドクター・ノオ』の時点で
初代ボンドとしてキャスティングすることを検討されていたので、本作では遅すぎるくらいのボンド役だったのでしょう。
ロジャー・ムーアは撮影当時、46歳という年齢だったので、さすがに激しいアクションはキツかったのでしょう。
上手い具合にモーターボートを使ったチェイス・シーンを織り交ぜたりして、不足分を補っている印象があります。
本作からはスペクターから離れて、カリブの島国の首相が実は自国で呪いを見せしめ的に使って、
地元民のマインドを支配して、麻薬栽培を進めて、大金持ちになり独裁政治を繰り広げているという噂を聞きつけ、
同国に潜入した英国諜報部員が殺されたことに端を発して、Qから同国の首相であるカナンガを調べるように指示。
ボンドが単身でカリブの島へ飛んで潜入するものの、カナンガも部下たちを手配して、ボンドの命を狙う姿を描きます。
さすがにスペクターから離れて展開すると、少し悪役に“小物感”が出てきてしまいますが、
それでもカナンダを演じたヤフェット・コットーは悪くない。ただ、今回はロジャー・ムーアの持ち味の影響もあってか、
ボンドの色男感が少し弱まったので、ボンドガールのジェーン・シーモアが控え目な感じで終わってしまいました。
少なくとも、前作の露出度の高いファッション(下着姿)で孤軍奮闘したセント・ジル・ジョンとは大違いでしたね(笑)。
前述したポール・マッカートニー&ウィングス≠フ主題歌はカッコ良いんだけど、
肝心かなめの“007シリーズ”のテーマ曲が、少し違ったアレンジに変更されていて、これが自分的には残念。
冒頭のボンドが銃を構えるオープニング・タイトルは、キレ味良くカッコ良く見せて欲しかったのですが、少し緩慢な感じ。
もう一つ言うと、やっぱりクライマックスのカナンガとの決闘のシーンは物足りない。
もっと粘る姿を観たかったし、あのガスを膨満させる弾丸を口に含ませて破裂させるという発想は結構なサイコだけど、
なんかヒーロー戦隊ものの首領の最期みたいな感じで、少々安っぽい。しかも、実にアッサリさせ過ぎですね。
どうでもいい話しではありますが...ボンドがQから与えられたアイテムとして、
ロレックスの時計に強力磁石が仕込まれていて、スイッチを押したら強力な磁力を発生させるので、
弾丸の弾道をも逸らすことができるというアイテムらしいのですが、そんな強力な磁石を使いこなせるわけがない(笑)。
まぁ、ボンドは使いこなせるのかもしれないけど、それにしても映画の中でボンドが活用するのが、
女性の服のファスナーを下ろすためとか、実にくだらないことばかりに使うというのがロジャー・ムーアらしい。
結局、ロジャー・ムーア時代のボンドって、こういうウィットに富んだユーモアを全面に押し出したという感じで、
それまでの強くセクシーな魅力をフルに生かして諜報活動を行っていたボンドというイメージから一転させて、
どちらかと言えば、英国紳士としてのシルエットを生かして、その中で身のこなしの良さを生かして格闘するという感じだ。
しかし、個々のアクション・シーンはショーン・コネリーほどの激しさは無くって、言葉は悪いが、流れ作業のように見える。
ですので、ボンドにタフネスさを求めている人には、このロジャー・ムーアのスタイルは受け入れ難いものがあるでしょう。
ブードゥー教の呪いでどれだけ地域住民を脅し続けられるのかは分かりませんが、
カナンダの組織はそれで島国を支配し続け、麻薬を大量に栽培させて、屈強な部下たちが次々と殺しをするという
展開なだけに、個人的にはボンドの強さや腕っぷしの強さは、もう少し見せても良かったと思うんだけどなぁ・・・。
そういう意味では、ロジャー・ムーアが演じたボンド全般に言えることではあるのだけど・・・
なんか、コミカルに見せようとするがゆえに、ボンドが簡単に相手の罠にハマったり、少々間抜けに見えてしまう。
例えば本作でも、映画の序盤にハーレムに単身で乗り込んでいったボンドが、
とある場末のバーに入って、唯一の白人という環境でウェーターに壁際の席に案内されてアッサリ罠にハマったり、
CIAのフェリックス・ライターと2人でバーに入るも、フェリックス・ライターが離席する僅かな間にまた罠にハメられて、
今度は床下に落とされるというおトボけぶり。ここまでくると、ワザと罠にかかっているとかと錯覚してしまうのですが、
揃いも揃って、ボンドの身柄を拘束したカナンガもすぐにボンドを始末せずに、やたらと勿体ぶるから逃がしてしまう。
まぁ、これが“007シリーズ”のお約束と言えばお約束ですが、それにしても間抜け過ぎる(笑)。
博学である必要はないけど、もう少しスパイはスパイらしくピリッとしたスマートな部分も描いて欲しかったなぁ。
この辺はショーン・コネリー時代のイメージとかけ離れているので、オールドなファンからすれば賛否両論だろう。
見方によれば、それだけシリーズの志向を大きく変える必要があったということなのだろうけど、
このロジャー・ムーアのコミカルな路線というのも、故意にやっているような感じなので、どうにも収まりが悪い。
分かり易いことばで言えば、フィットしないということで、あまりにくだけ過ぎるのも良くないなぁと感じる作品でしたね。
トンデモない人食いワニがいる池の中島にボンドが閉じ込められるシーンはスリリングで悪くないですね。
この危機の回避はロジャー・ムーア演じるボンドらしい、コミカルさを生かした工夫は感じられるのですが、
あんな簡単に脱出できるのかよ!とツッコミの一つでも入れたくなりますけど、まぁ・・・この辺は持ち味なのでしょう。
ちなみに劇中、ボンドとカナンガの部下たちが追いかけっこをやっているシーンを経て、
突如として、田舎町の保安官としてプライドを持って追跡を行う“ペッパー刑事”の存在が終盤に利いてくる。
実はシリーズの常連として出演することになるサブ・キャラクターでしたので、これが彼の初登場作というわけだ。
カナンガがメインの悪役ですが、ボンドにしつこく絡んでくる義手の男の存在も忘れ難いインパクトだ。
彼は映画のラストにも登場してくるので尚更なのですが、前作のラストほどの蛇足感は本作には無かったですね。
ただ、ジェーン・シーモア演じるソリティアも、あんな騒ぎがあればさすがに気付くだろうと思えるところを
寝台のベッドごと折りたたまれたことで危機を回避して、そもそもボンドが何か小芝居打ったくらいにしか思わず、
全くその危険に気付いていない、という状況は無理があるだろう。これも含めて、コミカルな映画なのだろうけど。
こうして、ロジャー・ムーアが主導したのか、作り手が元々用意していたシナリオなのか、
真相は僕には分かりませんが、ロジャー・ムーアが演じるボンドはずっとどこでギャグを入れようかとウズウズしていて、
少しでも余裕があればギャグをかましてくるイメージだ。それくらい、ロジャー・ムーア時代のボンドはコメディっぽい。
これがオールドなファンの気持ちを離してしまったキッカケだったのかもしれませんが、良く言えば...親しみ易い。
しかし、そんなコメディ映画のようなエッセンスをふんだんに含みながらも、
ラストシーンの終わりに、ブードゥー教の呪いを象徴するかのように、黒人男性の高笑いでエンド・クレジットになる。
この高笑いが何を意味していたのかは分かりませんが、それにしても不気味さが際立っている。
悪魔的な魅力を出したかったのでしょうが、ひょっとしたら本作の中で監督のガイ・ハミルトンが最も良い演出を
施したのがこのラストシーンかもしれません。それくらいに少し異様なラストだったと言っても過言ではありませんね。
個人的には少々甘めに、本作は及第点レヴェルかなと思いましたが、
完全に頭を切り替えて観た方が楽しめるでしょうし、シリーズの分岐点となる作品として評価してあげて欲しい。
ちなみに...珍しいことに、映画の冒頭でシリーズ初めてボンドの自宅が描かれるシーンがあり、これは貴重ですね。
(上映時間121分)
私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点
監督 ガイ・ハミルトン
製作 ハリー・サルツマン
アルバート・R・ブロッコリ
原作 イアン・フレミング
脚本 トム・マンキウィッツ
撮影 テッド・ムーア
特撮 デレク・メディングス
音楽 ジョージ・マーティン
出演 ロジャー・ムーア
ジェーン・シーモア
ヤフェット・コットー
クリフトン・ジェームズ
バーナード・リー
ロイス・マクスウェル
ジェフリー・ホールダー
1973年度アカデミー歌曲賞(ポール・マッカートニー) ノミネート