007/死ぬのは奴らだ(1973年イギリス)

Live And Let Die

混迷を極めた3代目ボンドの配役に、ロジャー・ムーアが決定し、
それまでの潮流を変え、主題歌にはポール・マッカートニーにお願いするという英断を下し、
それまでショーン・コネリーらが作ってきたシリーズのイメージを変えようとした、心機一転の第8作。

気になる部分もあるけど、映画は総じて面白いと思います。

少しシリーズもマンネリ化してきていたところで、
やはりボンド役をロジャー・ムーアに交代させたことは大きく、見事に新しいシリーズになったと思いますね。
この英断をプロダクションも評価し、結局、ロジャー・ムーアは10年もボンド役として君臨します。

監督はガイ・ハミルトンで、以前はチョット、大雑把な部分があったディレクターでしたが、
今回はそう大きな粗を見せないようにしようと、結構、細部にわたって凝っている。

が、とは言え、これは時代性の影響でしょうが、
映画はそれまでボンドが対決を繰り返してきたスペクターの手下との攻防ではなく、
ジャマイカに本拠地を置く、麻薬王カナンガを退治するというストーリーなせいか、どうも緊迫感が薄い。
これは原作の問題でもあるのでしょうが、黒人たちの勢いを強く意識したような内容でもあり、
ボンドが不用意にハーレムをウロ付いたり、延々とボート・チェイスを見せられたりと、
映画全体として、若干、意味不明な演出があったことも否めないあたりが、この映画の難点かなぁ。

ついでに言えば、僕はロジャー・ムーアになってからの“007シリーズ”って、
不必要にコメディに走ってしまった部分があって好きになれないのですが、それは本作の時点で出ていますね。

特にボート・チェイスのシーンでは、“ペッパー警部”に関するエピソードが
まるでドタバタ劇のようなギャグに傾倒してしまっていて、エピソード自体が無駄に長い。
たいへん申し訳ない言い方ではありますが、作り手が新たな要素としてトボけた妙味みたいなものを
期待していたのでしょうが、この狙いは完全に外しているような感じで、僕にとっては余計なんですよね。。。

でも、この映画はまだ魅力があると思うんですよ。
勿論、新たなチャレンジをしているということに意味はあるのですが、
キャスト、プロダクションが一体となって、シリーズの新しい魅力を出そうとしている意図が
よく伝わってくる内容で、ブードゥー教の儀式をモチーフにしたりと、工夫がハッキリと見えるのが嬉しいですね。

まぁ・・・前述したように、世界征服を企むスペクターのような巨大組織との対決ではなく、
一介の麻薬組織の策略を撲滅するという時点で、スケールダウンした感は否めないのですが、
それでも何とか3代目ボンドこと、ロジャー・ムーアを輝かせようとする意図が感じられて、良いですねぇ。

欲を言えば、映画の前半は悪くないのに、
前述した、映画の後半にあるボート・チェイスのシーンが長過ぎて、完全に中ダルみしてしまい、
挙句の果てには、ボンドがカナンガの秘密基地に侵入するクライマックスが盛り上がらないという、
なんとも間抜けな映画の仕上がりが、なんとかなれば、僕はもっと評価されてもいいと思っています。

当然のようにボンドはラストに、ヤフェット・コットー演じるカナンガと対決するわけなのですが、
このクライマックスの対決では、相変わらずのボンドの秘密道具が活躍するのですが、
これが何ともギャグのようなオチが付いていて、思わず笑ってしまうぐらいの違和感全開(笑)。
こういう言い方はあまり良くありませんが、演じたヤフェット・コットーが可哀想になるぐらいのチープさなんです。

それと、半ばお約束のラスト間近にボンドが長距離列車の中で襲撃されるシーンは、
まるで『007/ロシアより愛をこめて』のようで、ハッキリ言って、二番煎じのようで芸がない。

しかし、ある意味でそんな厚かましいぐらい定番な演出を、
堂々とやってのけるガイ・ハミルトンのズ太さが、本作のアピールポイントなのかもしれません(笑)。

それまではネットリとしつこく歌い上げるナンバーばかりを主題歌に採用してきた潮流と異なり、
今回はジョージ・マーティンが大袈裟なオーケストレーションで盛り上げるポール・マッカートニーに
主題歌を依頼し、これは未だに彼のファンの間では愛される、ライヴの定番曲になったし、
ショーン・コネリー曰く、ボンドはビートルズ′凾「らしいのですが(笑)、これはそんなに悪くないと思う。

どうやらオールドな“007シリーズ”ファンからはブーイングを浴びたらしいのですが、
僕はまだ本作は、新たなシリーズの魅力を模索している発展途上としての魅力はあると思いますけどね。

いつも上手くいくとは限らないし、さすがにこれだけのシリーズですから、
いつまでもショーン・コネリーに頼るわけにもいかず、少しずつ時代の流れを採り入れて、
その時代に合わせたシリーズの魅力を模索しなければ、これだけの長寿シリーズにはなりえなかったことを
理解する必要はあって、ボンド役が交代した以上、さすがにショーン・コネリー時代のシリーズの迷走も、
ここで一旦、断ち切れていると言っても僕はいいのではないかと思いますけどねぇ。

まぁ御法度だったのかもしれませんが、珍しくボンドのイギリスの部屋でのシーンがあって、
そこのマネーペニーも来るなど、新たな試みもあったりして、かなりオールドなファンに対抗してます。
(ボンドの私生活は映すべきえはなかったという意見も分かるけど・・・)

ガイ・ハミルトンは前作『007/ダイヤモンドは永遠に』のメガホンも取っていますが、
少なくとも本作は、今一つだった前作よりも魅力的な出来にはなっているのではないかと思いますね。

というわけで、“007シリーズ”が一つの転換期を迎えた、
ターニング・ポイントとなった作品として、再度、評価を促したい作品であることは間違いなく、
シリーズ通してのファンであれば、新たなボンド像を構築した作品としても、外せない一本でしょう。

(上映時間121分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 ガイ・ハミルトン
製作 ハリー・サルツマン
    アルバート・R・ブロッコリ
原作 イアン・フレミング
脚本 トム・マンキウィッツ
撮影 テッド・ムーア
特撮 デレク・メディングス
音楽 ジョージ・マーティン
出演 ロジャー・ムーア
    ジェーン・シーモア
    ヤフェット・コットー
    クリフトン・ジェームズ
    バーナード・リー
    ロイス・マクスウェル
    ジェフリー・ホールダー

1973年度アカデミー歌曲賞(ポール・マッカートニー) ノミネート