リトル・ミス・サンシャイン(2006年アメリカ)

Little Miss Sunshine

愛娘が美少女コンテストのアルバカーキ代表に選ばれた“崖っぷち家族”が、
様々な困難に立ち向かいながらも、1台のボロ車に乗り込んでカリフォルニアを目指し、
何とかして愛娘をステージで躍らせてあげようと奮闘する姿を描いたロード・ムービー。

まぁスゴい映画というほどでもありませんが、
一つ一つのプロットをとても丁寧に作っており、従来のハリウッド映画のセオリーでは考えにくい、
ブラックなユーモアもあったりして、今までありそうで無かったユニークな作品には仕上がっていると思います。

この映画にはそれなりにメッセージ性があって、
相変わらずミス・コンの類いで、痩せ型の女性ばかりが選出され、
それが美少女コンテストなどにも波及している現実を皮肉っているのは、あまりに強烈ですね。
そのためにアビゲイル・ブレスリン演じるオリーブの体型はスリムにしなかったのですが、
そんなオリーブを実に活き活きと、可愛らしく描けたというのは、ひじょうに大きいですね。

フーバー家の父リチャードは、人間を“勝ち組”と“負け組”に分け、
“勝ち組”になるための理論を方法論として確立させようと知的財産を販売しようとしますが、
彼自身、何をやっても上手くいかないせいか、この方法論も契約を取ることができません。

学者として成功しながらも、自殺未遂をしたフランクのことを
露骨に憐れんだりするものの、実際はリチャードの方が成功者とは言い難いのが妙なんですね。
“勝ち組”、“負け組”の前にリチャードは他人の心情を思いやることができないという欠点がありました。

フーバー家で一番のネックは実はリチャードだったのですが、
そんなリチャードが次第に今までの考え方では上手くいかないということを反省し、
爺ちゃんが言っていた、「“勝ち組”になるには、チャレンジし続けることなのだ」という言葉を、
そのまま体現するかのように決断していくように変化するのは、人間らしい成長の側面ですね。
僕はこの映画で一番良かったのは、リチャードの変容を描けたことだったと思いますね。

但し、問題を抱えているのはリチャードだけではない。
難しい年頃を迎えた長男のドウェインは9ヶ月も喋っていないという荒行にでるし、
爺ちゃんは60歳を超える年齢でヘロイン中毒というジャンキーだし、
前述した学者のフランクは学者として行き詰まり、自殺未遂をしたばかり。

大小はあれど、皆、何かしらの悩み・痛みを抱えながらの旅行になっているのが
本作の大きなエッセンスとなっていて、いつ崩れるか分からない不安定さを表現できているのが良いですね。

この映画のチョットしたスパイスになっているのがアラン・アーキン演じる爺さん。

これがオリーブのコンテストの踊りの指導を行なっていたのだから、
映画の終盤で披露されるオリーブの踊りがトンデモない内容になってしまうのですが、
これが爺さんの性格とクロスオーヴァーするというのが、何とも絶妙なネタで面白いですね。

ジョナサン・デイトンとバレリー・ファリスは実生活での夫婦とのことで、
本作は当初、低予算で製作され、サンダンス映画祭で上映されたらしいのですが、
これが大好評でフォックス・サーチライトが高額な契約を結び、当初は7つの映画館で上映が開始され、
僅か1ヶ月あまりで1500を超える映画館で上映されるほどのヒットとなったという快挙を成し遂げた作品です。

おそらく夫婦生活の悩み、子育ての悩み、親との関係に於ける悩みなど、
パーソナルな問題を反映させた内容にしたのでしょうが、上手くブラック・ユーモアを交えて、
あまり過去に無かった類いのロード・ムービーに仕上げることに成功しましたね。

おそらく2人は夫リチャードと妻シェリルの関係を
自分たちと重ね合わせて描いていただろうと思えるのですが、
リチャードに変容が見られるにつれて、夫婦関係も良くなっていくのが印象的ですね。
(これは旅行途中の病院で、リチャードが大きな決断をするシーンから、大きく変わっていきます)

アメリカはさすがに東西南北に広いせいか、
ロード・ムービーが数多く発表されておりますが、やっぱりゆっくり進む車旅行が似合いますね。
実際にシナリオを書いたマイケル・アーントも幼少時代に車旅行をしたことがあるらしく、
その体験から想を得てシナリオ化したものの、映画化には5年近い月日を要したらしい。

北海道なんかも日本ではドライブ・スポットが多いのですが、
ロケーションの問題なのか、砂漠地帯がないせいか、どうにもアメリカのような雰囲気は出ませんね。

映画はオーソドックスな作りではありますが、
コミカルで各プロットのテンポも良く、チョットしたアクセントある作品となっております。
子役をメインに押し出した映画としても、他作品との差別化は十分に図っており、
これが小規模で公開されたものの、全米で注目されることのキッカケであったことは間違いありません。

忘れてはいけませんが、確かにポッチャリしてましたけど、
オリーブを演じたアビゲイル・ブレスリンの可愛らしさも前述の通り、特筆に値しますね。
彼女はこれから女優として活動していくようなので、今後の活躍に期待したいです。

ただ、あくまで蛇足的になってしまうこと覚悟で言いますが...
この一家の後日談を作っても良かったのではないかと思えるのが、惜しいですねぇ。。。

(上映時間102分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

日本公開時[PG−12]

監督 ジョナサン・デイトン
    バレリー・ファリス
製作 アルバート・バーガー
    デビッド・T・フレンドリー
    ピーター・サラフ
    マーク・タートルトーブ
    ロン・イェルザ
脚本 マイケル・アーント
撮影 ティム・サーステッド
編集 パメラ・マーティン
音楽 マイケル・ダナ
出演 グレッグ・キニア
    トニ・コレット
    スティーブ・カレル
    アラン・アーキン
    アビゲイル・ブレスリン
    ポール・ダノ
    ブライアン・クランストン
    マーク・タートルトーブ

2006年度アカデミー作品賞 ノミネート
2006年度アカデミー助演男優賞(アラン・アーキン) 受賞
2006年度アカデミー助演女優賞(アビゲイル・ブレスリン) ノミネート
2006年度アカデミーオリジナル脚本賞(マイケル・アーント) 受賞
2006年度全米映画脚本家組合賞オリジナル脚本賞(マイケル・アーント) 受賞
2006年度ワシントンDC映画批評家協会賞オリジナル脚本賞(マイケル・アーント) 受賞
2006年度サウスイースタン映画批評家協会賞オリジナル脚本賞(マイケル・アーント) 受賞
2006年度ダラス・フォートワース映画批評家協会賞オリジナル脚本賞(マイケル・アーント) 受賞
2006年度フェニックス映画批評家協会賞オリジナル脚本賞(マイケル・アーント) 受賞
2005年度カンザス・シティ映画批評家協会賞オリジナル脚本賞(マイケル・アーント) 受賞
2006年度アイオワ映画批評会協会賞助演女優賞(アビゲイル・ブレスリン) 受賞
2006年度ノース・テキサス映画批評家協会賞作品賞 受賞
2006年度トロント映画批評家協会賞助演男優賞(アラン・アーキン) 受賞
2006年度イギリス・アカデミー賞助演男優賞(アラン・アーキン) 受賞
2006年度イギリス・アカデミー賞オリジナル脚本賞(マイケル・アーント) 受賞
2006年度インディペンデント・スピリット賞作品賞 受賞
2006年度インディペンデント・スピリット賞監督賞(ジョナサン・デイトン、バレリー・ファリス) 受賞
2006年度インディペンデント・スピリット賞助演男優賞(アラン・アーキン) 受賞
2006年度インディペンデント・スピリット賞新人脚本賞(マイケル・アーント) 受賞