リトル・チルドレン(2006年アメリカ)

Little Children

この映画のタイトルはどう解釈すれば良いのだろうか・・・

分かり易く解釈してしまえば、「大人になり切れない大人たち」を描いていると言えるのですが、
実にこの映画は複雑な要素を内包した作品で、観る人によって、賛否が大きく分かれるだろう。

映画は閑静な住宅街に暮らす一人娘の母親であるサラを主人公に、
彼女が“公園デビュー”後、退屈な奥様たちとのお付き合いの最中、颯爽と現れた、
「プロム・キング」とあだ名される、一人息子を連れた長身なイケメンのブラッドに複雑な感情を抱き、
いつしか2人は不倫の恋に燃え始めるものの、2年間服役していた性犯罪者が帰ってきたことによって、
閑静だった住宅街がにわかに騒がしくなり始める様子を描いたヒューマン・ドラマです。

さりとて、ストーリー自体が大きく2つに分かれ、それが同時進行するので、
当然のように最後に交わり合うのですが、これがまた微妙な感じのラストなんですね(苦笑)。

正直言って、映画の出来は及第点レヴェル。
おそらく原作はかなり良く書けているのでしょうが、その下地の良さを映画は活かし切れなかった感じで、
まず初歩的な部分として、映画のクライマックスで上手くまとめ切れていないのは残念ですね。

確かにそれなりの落とし所を見つけてはいるのですが、
残念ながら観客の心に訴求するラストとは言い難いオチになってしまっているのですよね。
それは何と言っても、性犯罪者のロニーの扱いがイマイチ、上手くできなかったところだろう。
(ちなみに演じたジャッキー・アール・ヘイリーは一世一代の怪演でいながら、名演!)

但し、反面に映画の半分以上のウェイトを占める、
サラとブラッドの不倫の恋の描写は、とっても良く出来ている。だからこそ勿体ないんですよね。

サラが煽る形で、不思議とブラッドがサラを抱き上げ、キスまでしてしまう。
映画でも語られている通り、実はブラッドはサラが好みのタイプというわけではない。
サラは正直言って、絶世の美人というわけでもないし、モデルのようなシルエットでもない。
子育てに疲れたように見受けられる部分もあったりして、印象もそこまで良くはないかもしれない。

しかし、ブラッドは不思議とサラにキスをしてしまうのです。
これはおそらくブラッドの心の奥底に存在していたであろう、大きな穴を上手く表現できているシーンです。

そんな彼にとっては、チョットした心の隙から始まったキスに、
サラとブラッドは不思議と考えが離れなくなり、彼らにとって強烈な体験であったかを物語ります。
心にポッカリと大きな穴が空いたかのように、ボーッとしながら暮らす毎日の中で、
いつしか彼らの不倫の恋心は燃え上がり、理性でストップをかけることは不可能になってしまいます。

さぁ、こうなると大変です(笑)。
お互いにとって、完璧なパートナーというわけではない。
しかし、少なくとも現状の生活を打破したいと願う心が一つになり、こういう結果を生んだのでしょう。

それがいつしか後戻りのできない不倫になってしまい、
泥沼から抜け出せなくなり、2人が会うチャンスのない週末が地獄に感じられる始末で、
やがては“失楽園”状態になってしまう様子は、実に巧みに描けていると思いますね。

ただ、一つだけ言わせて欲しい。
おそらくトッド・フィールドは演出スタイルが完成された映像作家だろうし、それなりに力もある。
しかし、この映画の場合はナレーションに頼り過ぎなのである。これが大きく足を引っ張る。
映像として表現できる部分はもっと多くあるので、ここまでナレーションに頼らないで欲しい。
これはあくまで映画というメディアなわけですから、もっと映像で語って欲しいと感じましたね。

それと付け加えるなら(笑)...
この内容で2時間を越えてしまうのは、いただけないですね。
個人的には特に映画の終盤は、もっと要点を絞って、整理して描いて欲しかったですね。

せっかく基本的な部分は出来ている映画なのですから、
全ての要素を集約した結果、何が言いたいのか、よく分からない展開になってしまった
終盤のエピソードも含めて、もう少し違った形で表現できていたのなら、
映画はもっと大きく変わっていただろうし、訴求力のある映画になっていたと思いますね。
(やはりあまりに中途半端なラストの処理は、賛否両論だろう・・・)

それにしても、サラを演じたケイト・ウィンスレットは上手かったですねぇ。
ここ数年でかなり芝居が上手くなったと思うのですが、イメージを作るのが上手い。

特に本作では、複雑な環境を持ちながらも、
子育てに熱心というわけでもなく、夫との関係も微妙な感じで、自身の趣味も中途半端、
学生時代から勤しんできた文学に没頭することにも、今一つ身が入らない。
それは全て、現状の生活に何とも言えない空虚さを感じていたがゆえであり、
(決して満たされぬ欲求なのかもしれないが・・・)今の生活に疲れ切ってしまい、
現状を打破したい、生活を変えたいという気持ちを暴走させる姿を、見事に表現できていますね。

まぁ08年に『愛を読むひと』でオスカーを獲得したけれども、
本作でもっと賞賛してあげても良かったのでは?と思えるほど、本作での熱演は素晴らしかったと思います。

あぁ、そうそう。
せっかくだから、ブラッドの妻を演じたジェニファー・コネリーももっと目立たせて欲しかった。
こんな中途半端な役で出演させる女優さんじゃないと思うんだけどね・・・。

(上映時間136分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

日本公開時[R−15]

監督 トッド・フィールド
製作 アルバート・バーガー
    トッド・フィールド
    ロン・イェルザ
原作 トム・ペロッタ
脚本 トッド・フィールド
    トム・ペロッタ
撮影 アントニオ・カルヴァッシュ
編集 レオ・トロンベッタ
音楽 トーマス・ニューマン
出演 ケイト・ウィンスレット
    パトリック・ウィルソン
    ジェニファー・コネリー
    ジャッキー・アール・ヘイリー
    ノア・エメリッヒ
    グレッグ・エデルマン
    フィリス・サマーヴィル
    ジェーン・アダムス
    セイディー・ゴールドスタイン
    タイ・シンプキンス
    トリニ・アルバラード

2006年度アカデミー主演女優賞(ケイト・ウィンスレット) ノミネート
2006年度アカデミー助演男優賞(ジャッキー・アール・ヘイリー) ノミネート
2006年度アカデミー脚色賞(トッド・フィールド、トム・ペロッタ) ノミネート
2006年度ニューヨーク映画批評家協会賞助演男優賞(ジャッキー・アール・ヘイリー) 受賞
2006年度シカゴ映画批評家協会賞助演男優賞(ジャッキー・アール・ヘイリー) 受賞
2006年度サンフランシスコ映画批評家協会賞作品賞 受賞
2006年度サンフランシスコ映画批評家協会賞助演男優賞(ジャッキー・アール・ヘイリー) 受賞
2006年度サンフランシスコ映画批評家協会賞(トッド・フィールド、トム・ペロッタ) 受賞
2006年度サウスイースタン映画批評家協会賞助演男優賞(ジャッキー・アール・ヘイリー) 受賞
2006年度ダラス・フォートワース映画批評家協会賞助演男優賞(ジャッキー・アール・ヘイリー) 受賞
2006年度オクラホマ映画批評家協会賞助演男優賞(ジャッキー・アール・ヘイリー) 受賞
2006年度アイオワ映画批評家協会賞作品賞 受賞
2006年度アイオワ映画批評家協会賞助演男優賞(ジャッキー・アール・ヘイリー) 受賞