小さな巨人(1970年アメリカ)

Little Big Man

67年に『俺たちに明日はない』を撮って、
一躍、アメリカン・ニューシネマの旗手として名を上げたアーサー・ペンが
白人で生まれながらも、その後、何度もインディアンと白人の間を行ったり来たりしながら生き延び、
歴史に残る壮絶な“リトル・ビッグホーンの戦い”も生き残ったジャック・クラブの物語を映画化。

映画の冒頭で、いきなり当時としては奇抜な発想であったであろう、
特殊メイクを駆使したダスティン・ホフマンが老け役でスクリーンに映るのですが、
ハッキリ言って、若き日のダスティン・ホフマンとはまるで見えない姿でビックリさせられる。

そんな老いたジャック・クラブが、とある病院の病棟で、
歴史学者のインタビューを受けて、彼の話しをテープに録音するという流れなのですが、
そもそもが彼が121歳で、110年前の話しから始まるというあたりが、どうにも胡散臭い(笑)。

ある意味で、この映画の胡散臭さをアーサー・ペンは明らかに利用している感があって、
色々と波乱万丈なジャック・クラブの人生を次から次へと、コミカルに展開するのですが、
壮大なホラ話しかもしれないストーリーを、あたかも雄大なドラマであるかのように描く。

僕なんかは、どうしてもひねくれた見方をいてしまいますから、
この映画のスタンスって、凄いシニカルだなぁと感心させられてしまうのですが、
これって、やっぱりアメリカン・ニューシネマの時代が到来していたからこそ製作できたと思うんですね。
これが50年代までのような時代性であれば、ほぼ間違いなく、製作にストップがかかっていたと思いますね。

例えば、72年にシドニー・ポラックが監督した『大いなる勇者』なんかは、
本作からの強い影響を受けていることは明らかで、あとは『ソルジャー・ブルー』が好きな人にもオススメしたい。

この映画のストーリーはとてつもなく波乱万丈だ。

主人公のジャックは、10歳のときに家族で移動していた際に、
インディアンの襲撃に遭い、姉と隠れていたところ、違う部族のインディアンに保護され、
途中で姉が脱走してしまったために、一人でインディアンに育てられ、酋長に溺愛されて育つ。

しかし、騎兵隊との戦いの中で、命の危機に瀕したジャックは自分が白人であると主張し、
白人社会に保護され、何故か神父の養子として受け入れられ、神父の妻に羨望の眼差しを向けられる。
裏では欲望に忠実に生きる神父の妻の姿を知り、人間社会の業を悟り、ペテン師に師事して金を稼ぐことを覚え、
集落から集落へと転々とするものの、彼らが販売していた特効薬が全く効かないことに怒った連中に拉致される。

しかし、その拉致したリーダーが自分で姉であると分かり、しばらく生活を共にするものの、
銃は上手く使えても、人を撃つことができないことが分かり見捨てられ、結婚して新たな生活を見つけるも、
今度はインディアンに妻を誘拐され、奪還するためにと騎兵隊の隊長に取り入るも、彼らはインディアンの部族を
片っ端から殺害することしか考えておらず、ジャックはやはりインディアンでの生活に戻る。

そこでは妻と、彼女の4人の姉妹と夜を共にするという責務があり、
すっかり妻を奪還するという当初の目的を忘れ、インディアンとしての生活に勤しむものの、
騎兵隊の奇襲にあい、妻を目の前で惨殺されたことに怒り、騎兵隊に復讐しに行くという二転三転するストーリー。

この映画で特にコミカルにクローズアップされるのは、
ジャックが性生活に目覚め、次から次へと女性が彼に近づいてくるという点で、
ここまでコミカルに描けたというのは、アメリカン・ニューシネマという時代ならではですかね。

アーサー・ペンが映像作家として鋭さを持っていたのは、本作までという気がするのですが、
日本ではあまり有名な映画監督とは言えないものの、66年の『逃亡地帯』の時点で凄かったですからね。
先見の明があったとしか思えず、前述した『俺たちに明日はない』で映画界を劇的に動かしたわけです。
映画の出来としては、『俺たちに明日はない』よりも本作の方が良いんじゃないかなぁと思うんですよね。
個人的にはラストシーンで、ジャックと酋長が織りなす、シュールなシチュエーションがたまらなく好きなんです。
(酋長は死ぬつもりで山頂に上がって、ジャックがそんな酋長を看取るはずだった・・・)

欲を言えば、やはり上映時間が長くて、若干の中ダルみが感じられるところかな。
内容的に言えば、仕方のない部分ではありますが、ストーリーテラーである121歳になるジャックを
もっと強く観客に意識させるように、定期的に登場させて、画面にメリハリを持たせて欲しかった。

ちなみにジャックが成長の過程で、複雑な環境に置かれながらも、
人間社会の中でも生き抜いていく処世術を、さり気なく獲得していっているのが実に面白い。

フェイ・ダナウェー演じる神父の妻との駆け引きもそうですが、
映画の後半で重要なポイントとなるカスター将軍との絡みなども、さり気なく生き残るための処世術を使っている。
おそらくインディアンに育てられただけということであれば、彼はここまで上手く生き抜けられなかっただろう。
(映画の序盤にある、ダスティン・ホフマンがフェイ・ダナウェーに体を洗ってもらうシーンは貴重だ...)

それと、登場時間は僅かですが、マーチン・バルサム演じるペテン師とのエピソードも印象的だ。
本来的にはジャックの人生の選択肢として、ペテン師としての人生なんてありえなかったはずですが、
彼自身もまるで「生きるためなら仕方がない」と言わんばかりに、ペテンの腕を磨いていきます。

この映画、一連のジャックの描き方なんかを観ても、一つ一つはなかなか上手いんです。

ただ、やっぱり観ていて気になるのは、アーサー・ペンはこの映画で全てを出し切ったということ。
彼は本作を手掛けた後に、急激に創作ペースが衰え、ハリウッドの第一線から退いた感があります。

75年に『ナイトムーブス』なんて、規模の大きな作品を手掛けてはいるのですが、
映画のインパクトそのものは、60年代後半から本作にかけての作品群には遠く及ばず、
どことなく一気に勢いが弱体化してしまった感がありますね。それは本作が一つの転機だからでしょう。

チョット変わった映画ではありますが、アメリカン・ニューシネマ期の映画が好きな人には是非オススメしたい。

(上映時間139分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 アーサー・ペン
製作 スチュアート・ミラー
原作 トーマス・バーガー
脚本 カルダー・ウィリンガム
撮影 ハリー・ストラドリングJr
音楽 ジョン・ハモンド
出演 ダスティン・ホフマン
    フェイ・ダナウェー
    マーチン・バルサム
    チーフ・ダン・ジョージ
    リチャード・マリガン
    ジェフ・コーリイ
    ケリー・ジーン・ピータース

1970年度全米映画批評家協会賞助演男優賞(チーフ・ダン・ジョージ) 受賞
1970年度ニューヨーク映画批評家協会賞助演男優賞(チーフ・ダン・ジョージ) 受賞