大いなる陰謀(2007年アメリカ)

Lions For Lambs

ロバート・レッドフォード、メリル・ストリープ、トム・クルーズ...
この3人が1本の映画の中で1度に観れるという、何ともお得な映画であるにも関わらず...
僕もすっかりこの映画の存在を忘れていました(苦笑)。いや、しかも劇場公開しても、ほとんど話題にならず。。。

「どんな映画なのだろうか?」と何故か不安に感じながらも(笑)、
いざ実際に本作を観てみると、驚くほどにタイトにまとまった出来は悪くない映画だ。

ただ観ていて、なんでほとんど話題にならなかったのか、その理由がよく分かりました。
端的に言うと、ひじょうに分かりにくい映画なのですけど、それ以上に映画のスタンスが微妙なんですね。

どういう風に微妙かと言うと...
ストレートな政治映画というわけでもなく、シニカルな社会派映画というわけでもない。
どちらかと言えば、政治問題を通して、人生観を訴える内容で、それも少し斜めな角度から描きます。

さすがはニューシネマを体現してきたロバート・レッドフォードなだけあってか、
多様化した映画界において、更に変わった視点から映画が撮れるなんて、そりゃ凄いことなんですよね。
ただ本作の内容では、おそらく取っ付き難い部分があるのも事実で、チョット映画の世界観に入りにくい。
決して悪い映画ではないけど、予想以上に変わったスタンスの映画で、映画のペースがつかめなかったり、
映画の調子になかなか合わせられないまま、アッという間に上映時間が終了というケースも少なくはないだろう。

事実、恥ずかしながら...僕も予想していた内容と違って、かなり戸惑いました。

ロバート・レッドフォードの演出家としての手腕が確かなものというのは分かっていましたが、
本作のようなアプローチはホントに変わっていると思いますね。確かに『普通の人々』や『クイズ・ショウ』など、
特徴ある映画を撮ってきた経緯があるけど、それでも更にこれらを上回る斬新さだと思いますね。

ロバート・レッドフォードは熱烈な民主党支持者ですから、
内容的には「9・11」以降のブッシュ政権が進めた対テロ政策を痛烈に批判しているのですが、
共和党の支持率向上のためにと、過激なアフガニスタン政策を進めようとするアービング上院議員に
そんな批判の対象を描き出します。このアービング上院議員をトム・クルーズが見事な好演を見せています。

上昇志向の強いアービング上院議員はアフガニスタン侵攻を最終目的に、
様々な情報操作を行い、積極的な軍事政策に対する国民からの支持の獲得を目論見ます。
言ってしまえば、彼のスタンスはいわゆる保守派で、ハッキリ言えば、この映画の中では批判の対象です。

揶揄的に言ってしまうと、これはプロパガンダと言われても仕方のない内容で、
元来、僕はそういう映画は好きじゃないのですが、この作品の見落とせなかったところは、
従来のプロパガンダ映画とは少し異なっていて、政界だけではなく、メディアや一般人レベルに目線を落として、
今までの考え方に対する反省を促したところで、ありそうで無かったスタイルだと思いますね。

ロバート・レッドフォード演じるマレー教授も、ベトナム戦争を引き合いにして、
教え子2人がアフガニスタンへ出征することを否定はできません。ところが大きな戸惑いもあるのです。
多少、恣意的な部分があるのは残念な映画なのですが、あくまで結論は観客に求める映画なわけです。

本作の大きなテーマは、何事にも責任を負うことなんですね。

マレー教授は、彼が指導する内容によって教え子たちが感化され、
彼らの人生にとって大きな決断を下したことを受け、日々の職務に大きな責任があることを改めて自覚します。

そしてアービング上院議員にしても、自身が打ち出した軍事政策の展開に大きな責任があるわけで、
彼を取材する女性記者が、その軍事政策のリスクを質問するシーンに、その責任が示唆されています。

その女性記者にしても、「9・11」直後は報復措置を後押しするようなリベラルな発言を続け、
世論を誘導し続けているかのような自身のジャーナリストとしての立ち位置に気づき、
世論や政局に動かされるのではなく、自身のジャーナリストとしての信念に立ち返ろうと責任を感じます。

おりしもベトナム戦争以上の泥沼化と思われた対アルカイダ軍事政策なのですが、
本作が劇場公開される頃にアメリカ大統領選があり、民主党からオバマ政権が誕生しました。
まぁロバート・レッドフォードもこのタイミングを狙っていたのかもしれませんがね。

そういえば、ロバート・レッドフォードって、いつまでも若いって印象があったのですが、
さすがに本作では、より顔のシワクチャ度が増していましたね(笑)。
そりゃ撮影当時、70歳でしたから仕方ないかとは思いますが、やはり彼も年をとっていましたね(←当たり前)。
まぁそれでも、一般的な70歳と比べると、かなり若々しい容姿ではありますがね。

それと、ストーリーテリング上の時制の取り方が面白い映画ですね。
幾つか複数の時制が入り混じった映画で、これがなかなか面白い見せ方ができていますね。

そういう意味では、この映画の時間軸の取り方に戸惑う人がいるかもしれませんね。
これが意外に効果的に使えているので、他の社会派映画との差別化が図れているのかもしれません。

こういう映画を観ると、強く思うことがあって...
ロバート・レッドフォードには是非とも撮ってもらいたい企画があって、
76年に彼自身が出演した『大統領の陰謀』を凌ぐようなセンセーショナルさを持った、
ウォーターゲート事件を検証するような映画を製作して欲しいですんですよね。

(上映時間92分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ロバート・レッドフォード
製作 ロバート・レッドフォード
    マシュー・マイケル・カーナハン
    アンドリュー・ハウプトマン
    トレイシー・ファルコ
脚本 マシュー・マイケル・カーナハン
撮影 フィリップ・ルースロ
編集 ジョー・ハッシング
音楽 マーク・アイシャム
出演 ロバート・レッドフォード
    メリル・ストリープ
    トム・クルーズ
    マイケル・ペーニャ
    デレク・ルーク
    アンドリュー・ガーフィールド
    ピーター・バーグ