ブロンド・ライフ(2002年アメリカ)

Life Or Something Like It

持ち前のブロンド・ヘアーを武器にシアトルで人気テレビ・キャスターとなったレイニーが、
かつて一夜を共にしたものの、性格的に全く合わないカメラマンのピートと現場でいがみ合いながらも
なんとか仕事をやり遂げる中で、再び惹かれ合いながらも、レイニーが念願のニューヨークでの仕事に抜擢され、
シアトルでの生活を諦めて、ニューヨークでの新たな仕事へと向かう姿を描いたロマンチック・コメディ。

当時はハリウッドでも人気絶頂と言っていいレヴェルの人気であったアンジェリーナ・ジョリーが
珍しくラブコメに挑戦した作品であったものの、全米はじめ日本でも全くと言っていいほどヒットしませんでした。

いざ本編を観てみると、その興行収入の結果がよく分かるほど、映画の出来は良くないですね。
監督は95年に『陽のあたる教室』で高く評価されたスティーブン・ヘレクですが、ラブコメはあまり合ってないのかも。

アンジェリーナ・ジョリーもラブコメにあまり合ってないのだけれども、それでもよく頑張っていたとは思う。
相手役となったエドワード・バーンズは、僕は映画監督としての才能に溢れている人だと思っていたので、
どちらかと言えば俳優活動よりも、映画監督として頑張って欲しかったのですが、00年代入ってからの活動をみると、
監督としてよりも俳優としての活動に重きを置いていたようで、本作のような映画にも出演したがっていたのでしょう。
ただ、正直...エドワード・バーンズもあんまり本作のようなライトな感覚で観るラブコメには合っていないと思ったなぁ。

この映画で描かれるレイニーは、冴えない学生時代を経て、美貌を武器に地元シアトルで人気キャスターとなり、
いろいろな現場でレポートすることで彼女なりのプロフェッショナルとしてのプライドを作り上げ、地元球団である
シアトル・マリナーズの人気選手と婚約し、リッチな部屋に暮らして、誰もが羨むような生活を送っている女性。

家族との関係性はあまり良くはないが、仕事は極めて順調であり、
ニューヨークでの全米放映する人気テレビ番組のキャスターに抜擢されることを夢見て頑張り続けているものの、
カメラマンのピートが知っていたホームレスの“予言士”から、「ニューヨークの夢は叶わない。来週、あなたは死ぬ」と
予言されたことで、彼女の生活は一変する。予言が気になって仕方がない彼女は、なんとか予言内容を撤回させようと
方々に手を回しますが、彼女の死以外の予言内容が次々と当たっていく現実を前に、より精神的にナーバスになる。

そりゃ、これだけ予言が当たれば誰だってナーバスになりますよ。これでもレイニーはマシな方。
それ以前に普通は、いくら有能な“予言士”であったとしても、ここまで具体的な予言はしないものだと思うけど、
ここまで唐突に、事実上の余命宣告を受けてしまえば、誰だってうろたえるもの。健康上の不安もないのだから。

何が原因でそうなるのか、何がなんでも予言が外れていることにしたい・・・など、
誰しも様々な思いにかられ、パニックになって当然なわけで、予言を信じない性格であっても、あれは気になるだろう。

だから、現実にある占いなんかも、あまりハッキリとしたことを明言しないのがセオリーだと思います。
別に僕は運命論者ではありませんが、予言とは事実上の運命を象徴しているわけで、仮に予言されたことが
当の本人にとって大きなマイナスなことであれば、そうならないように必死になるわけで、運命が変わるかもしれない。
それも含めて運命だ、ということであれば、このようなラブコメは成立しないわけで、この“予言士”は何とも罪深い(笑)。

ヤケになったレイニーが、ピートらを連れて、路線バスのドライバーのストライキを
取材したときに、すっかり感化されてレイニーが (I Can't Get No) Satisfaction(サティスファクション)を先導して、
ストライキ参加者全体を巻き込んで踊って歌い始めるシーンも良いけど、それでも本作にはキチンとした軸が無い。
せっかく良いシーンが撮れたというのに、単発的な感じで勿体ない。個人的にはこの躍動感を利用して欲しかった。

言いたくはないけど、アンジェリーナ・ジョリーのブロンド・ヘアーもそこまで似合っているように見えなかったし、
ピートを演じたエドワード・バーンズも彼の恋愛映画に於けるスタンスなのだろうが、どこか冷めた態度に見える。
彼に良い意味での熱さが感じられない。そうなってしまうと、映画のラストもなんだか盛り上がらないのですよね。
だって、カップルの双方が熱くなっていくのだから、お互いを求め合うもので、本作の終盤は全くそんな感じに見えない。

そうなってしまうと、恋愛映画としての盛り上がりなど感じることは、ほぼほぼ不可能ですね。
まぁ・・・エドワード・バーンズの持ち味もあるのだろうから、途中までは別にいいけど、最後くらいは熱さを見せて欲しい。

だいたい、このピートって男にしたって、レイニーが念願のニューヨーク進出が決まって、
すぐにでも行かないといけないってときになって、「お前は現状では満足できない女なんだな」なんて、
最低の言葉でしょう。お世辞にも良い性格している男とは、言い難いと思うのですが、こんなんで良かったのかなぁ?

おそらく、アンジェリーナ・ジョリーのブロンド・ヘアーはマリリン・モンローを意識したものだろうけど、
正直、映画を観ただけでは、何故、レイニーがブロンド・ヘアーにこだわっていたのかが、よく分からない。
これではダメだと思う。彼女の行動力の原動力となるべきところなので、ここはもっとこだわって撮って欲しい。

とは言え、本作に出演したアンジェリーナ・ジョリーの魅力は十分なので、ブロンドにこだわらなくても良かったと思う。
このキャスティングもそうですが、本作はそれなりに費用のかかった企画だったと思うのですが、どこかシックリ来ない。
シナリオもオーソドックスなものに近いので、しっかり作り込まないと魅力的なラブコメにならないと思うのですが、
細部に渡って作り込みが甘いので、全体的に噛み合わず、どこか上手くいっていない映画という感じで終わってしまう。

ただ、個人的には映画の終盤にある、ストッカード・チャニング演じるベテランの女性インタビュアーに
独占インタビューするシーンで、予定された質問しか受けないとレイニーが言われていたにも関わらず、
レイニーが個人的に聞きたかった極めてパーソナルな部分の質問をぶつけて、お互いのバリアを取っ払って、
心が通い合ったようなインタビューができたとレイニーが感動していたにも関わらず、相手女性が激怒して、
「追い出せ!」と言い放ってスタジオから足早に去って行くシーンは面白かった。あれは現実世界でもありそう。

元々相手女性もプロのインタビュアーとして、大物政治家などにプライベートな部分を
“ゲロ”させていたにも関わらず、同じことを自分がされると、強烈な拒否反応を示すことが多いですからね。
良くも悪くも、人間って都合のいい生き物ですからね。現代ではこういうタイプはいなくなったと思いますが。。。

個人的な意見ですが、せっかくのアンジェリーナ・ジョリー初めての本格的ロマンチック・コメディの
出演作だったので、余命宣告を受けるとか深刻な要素は入れずに、もっと明るく恋愛だけにフォーカスした
内容にして欲しかったなぁ。本作の主題は分かるんだけど、この“予言士”の予言内容がどこか暗い影を落とす。
ピートの子どもとの交流なんかもアッサリとしか描かないし、レイニーがピートとの恋愛に本気になる過程が弱い。

やはりラブコメって、こういう過程を楽しむジャンルの映画だと思うので、ここが弱いのはいただけない。
そういう意味では、スティーブン・ヘレクにこういう映画の経験が薄く、ポイントを押さえられていないと思いますね。

まぁ・・・要するに、常に日々後悔しないように生きることが大事だということでしょう。
と言っても、人間は後悔しながら生きるものなのですが、いつ最期を迎えるかは分からないですからね。
本作のヒロイン、レイニーも自分の“余命宣告”受けちゃったものだから、大きく動揺してしまうわけですが、
色々と振り切ってしまったレイニーからは、本音を隠して後悔するような人生にはしたくないとする、強い意思を感じる。

往々にして開き直った人のマインドって、こういう境地に達したものだと思います。
なかなか、ここまで開き直ることは難しいので、僕にはまずできないところですけど...こうなると強いですね。

妙なシリアスさを全て捨てて、レイニーがピートにどうして惹かれていくのかを
もっとしっかりと描けていれば、映画の印象はガラッと変わっていただろうし、もっと魅力的な作品になっていたでしょう。
ところで...脚本の都合上、仕方ないとは言えレイニーのブロンド・ヘアーにこだわった映画にするならば、
アンジェリーナ・ジョリーはミスキャストではないかと思うのですが、例えばキャメロン・ディアスとかだったら、
この映画はどうなっていたかが気になりますね。そう考えると、ラブコメってヒロインの配役がスゴく大切ですね。

まぁ・・・アンジェリーナ・ジョリーだってラブコメのヒロインは十分に出来ると思うし、
本作での彼女のチャレンジは素晴らしいのですが、残念ながら本作のレイニー役には合っていないような気がしました。

(上映時間103分)

私の採点★★★★☆☆☆☆☆☆〜4点

監督 スティーブン・ヘレク
製作 ジョン・デイヴィス
   トビー・ジャッフェ
   アーノン・ミルチャン
   チリ・ウォン
原案 ジョン・スコット・シェパード
脚本 ジョン・スコット・シェパード
   ダナ・スティーブンス
撮影 スティーブン・H・ブラム
音楽 デビッド・ニューマン
出演 アンジェリーナ・ジョリー
   エドワード・バーンズ
   トニー・シャルーブ
   クリスチャン・ケイン
   ジェームズ・ギャモン
   メリッサ・エリコ
   ストッカード・チャニング

2002年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト主演女優賞(アンジェリーナ・ジョリー) ノミネート