007/消されたライセンス(1989年イギリス)

Licence To Kill

前作に続いて、4代目ボンドことティモシー・ダルトンの2作目にして、
不遇にも最後の作品となってしまった、南米のリゾート地を舞台にしたシリーズ第16作。

未だに、すこぶる評判の悪い作品であり、
商業的にも世界各国で散々たる不振ぶりだったのですが、僕は嫌いになれないんだよなぁ(苦笑)。
(製作費を上回る興行成績ではあったが、プロダクションの期待を大きく下回った・・・)

確かに本来、スパイであるはずのボンドが
いくら旧知の仲のフェリックス・ライターが結婚式の晩に襲われて、新婚の妻を惨殺され、
フェリックス・ライター本人が鮫のエサにされかかったなんて凄惨な出来事があったからと言って、
イギリス諜報局本部の意見を無視してでも、個人的な恨みを晴らしにいくなんて、ご法度なお話しだ。

今回のボンドは個人的な恨みを晴らすためか、やたらと直情的で暴力的になっている。
一つ一つのアクションにも彼特有の計算高さは感じられず、とことん行き当たりばったりに対処する。
ボンドを取り巻くようにキャリー・ローウェルとタリサ・ソトと2人のボンド・ガールを登場させますが、
まるで本作ではボンド・ガールは“添え物”であるかのような存在感の弱さで、かなり強引な映画になっている。

おそらくそういったボンドの自分勝手な部分が目立つ作品に仕上がっているせいか、
賛否が分かれたことと、残酷描写が敢えて挿入されたことに起因して、興行的不振に陥ってしまったのでしょう。

でも、個人的には『007/リビング・デイライツ』と同様に、
ロジャー・ムーア後期の時代の頃のような、アクション半分とギャグ半分の“和み系”なボンド映画ではなくって、
どこか切れ味鋭い、危険な香りが漂うボンドを新しく構築しながらも、基本、アクションありきの原点に戻って、
ロジャー・ムーア時代のスタント・アクションの面白さを継承するという、作り手がこれまでのシリーズを
良いとこ取りしたかのような方法論で、僕はこれはこれで好きですね。悪くない発想だと思います。

しかし、前述したプロダクションの予想を大きく下回る興行成績であったことから、
“007シリーズ”は見直しを迫られることになり、本作の後は6年間にも及ぶ最長のブランクが空いてしまいます。

その見直しの余波を受けてか、ティモシー・ダルトンも降板せざるをえず、
95年のシリーズ第17作『007/ゴールデンアイ』では、5代目ボンドとしてピアース・ブロスナンが
キャストされることになるのですが、ティモシー・ダルトンは結構、ボンドに合っていると思いますね。

もっとも、ティモシー・ダルトンは69年の『女王陛下の007』の時点で、
2代目ボンドのオファーを受けていたそうで、当時は「自分には若すぎる」という理由で辞退しており、
87年の前作『007/リビング・デイライツ』の4代目ボンドのキャスティング時点では、
後に5代目ボンドに就任するピアース・ブロスナンがTVドラマとの契約の関係で辞退したために、
ティモシー・ダルトンの4代目ボンドの座が回ってきたことを考えると、なんだか気の毒な感じがしますね。

結局、監督のジョン・グレンも降板することになって、シリーズの方向性を大きく変えざるをえなくなるのです。

前作も良かったけれども、本作にしても、「金にモノ言わせて、忠誠心を植え付けさせる」という方針で、
忠誠心を確信したら、どんな悪どい奴でも信用するという、信頼関係を重視するという人間臭い設定の
サンチェスを演じたロバート・ダヴィも素晴らしく、怒ったら、手段を選ばないという残忍さが良い。

この辺は前作『007/リビング・デイライツ』でジョー・ドン・ベイカーが演じたウィテカーが
あまりに小さな悪党であったことに反省してか、本作では悪役の造形には力が入っていますね。

そして、このサンチェスとボンドの関係性は面白くって、
僕が知る限り、ボンドが悪党の屋敷に潜入するにあたって、悪党がボンドの素性を誤解していて、
ボンドがそれを利用して、クライマックスの攻防になってバレるという展開は、本作だけではないでしょうか。

そこから展開される、クライマックスの峠道でのトラックを使ったカー・チェイスも見応えたっぷりで、
少々、破天荒なチェイス・シーンになりかけますが、なかなかスリリングな展開で上手く撮れていると思う。

血気盛んなサンチェスの手下として、駆け出しの頃のベニチオ・デル・トロが出演していることでも有名で、
最終的には残酷描写の提供者になってしまうのですが、なかなか嫌な存在感を上手く出せている。

初代ボンドであるショーン・コネリー時代の名残りを感じさせる“007シリーズ”は、
本作で終わりを告げることになり、次作からはシリーズは新たな映像感覚をもって展開していきます。
それゆえか、オールドな“007シリーズ”のファンに受け入れられるのは、ギリギリ、本作までかもしれません。
やはり次作『007/ゴールデンアイ』からは、全く新たなシリーズが始まったと、切り替えて観ないといけません。

何故か“ラスベガスの帝王”こと、ウェイン・ニュートンがサンチェスに利用されている、
集金を呼びかける瞑想ピラミッドにいるテレビ・スターとして出演していますが、これはご愛嬌。
正直言って、あっても無くても、大勢に影響がない役どころではあるのですが、これは許してあげて欲しい(笑)。

ちなみに本作では、冒頭からフェリックス・ライターの結婚式会場へ向かう途中で、
突如、ヘリコプターが並走し始めて、フェリックス・ライターに「サンチェスが現れた!」と告げ、
ボンドと共にサンチェスを検挙するエピソードに突入するという、スピード感溢れる展開なのですが、
セスナで逃亡しようとするサンチェスを上から、更にヘリコプターで捕獲するという発想が面白い。
いつもオープニング・シーンでいきなりアクセル全開の“007シリーズ”ですが、本作は特に良いと思う。

いつになく、デスモンド・リュウェリン演じるQも大活躍する作品となっており、
独特な雰囲気を持つはずの南米の小国でも、自由自在に動き回るQという展開も面白い。

まぁ“007シリーズ”としては初めてレイティングの指定を受けただけに、
さすがに異色とも言えるぐらい、残酷描写が施されており、これに違和感を感じる人もいるだろうと思う。
従来のタブーを打ち破ってでも、スパイ映画としての醍醐味を表現しようとした製作者サイドの心意気を、
今一度評価し直してあげて欲しい作品であり、一つの時代の終わりを告げた一作ですね。

(上映時間133分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ジョン・グレン
製作 アルバート・R・ブロッコリ
    マイケル・G・ウィルソン
脚本 マイケル・G・ウィルソン
    リチャード・メイボーム
撮影 アレック・ミルズ
音楽 マイケル・ケイメン
出演 ティモシー・ダルトン
    キャリー・ローウェル
    ロバート・ダヴィ
    タリサ・ソト
    アンソニー・ザーブ
    グランク・マクレー
    エヴェレット・マッギル
    ウェイン・ニュートン
    デスモンド・リュウェリン
    ベニチオ・デル・トロ
    ロバート・ブラウン
    ケイリー=ヒロユキ・タガワ
    キャロライン・ブリス