リーサル・ウェポン(1987年アメリカ)

Lethal Weapon

後に第4作まで製作されることになった、
この時代のハリウッドを代表する人気アクション・シリーズになるキッカケを作った大ヒット作。

さすがは職人的な監督リチャード・ドナーの監督作品という感じで、
映画は独特なテイストがありながらも、とってもテンポを良く、時にコメディ的でやはり面白い。
後にシリーズ化されることになる理由がよく分かるぐらい、魅力に溢れた作品と言っていいと思います。

リチャード・ドナーはこの手のアクション映画の成功のレシピを持っているかのようで、
プロデューサーのジョエル・シルバーの影響力も大きかったとは思いますが、
本作でやったことは、90年代のアクション映画の一つのフォーマットになったような気がしますね。

さすがに高齢のためか、06年の『16ブロック』が実質的な最後の監督作品となりましたが、
日本での知名度はイマイチ高くはないディレクターとは言え、実に確実性の高い映像作家であると思いますね。
僕はリチャード・ドナー自身は、日本では不当なほどに評価が低いような気がしてなりませんね。

まぁ・・・ヤケにくだけたコメディ映画と化した第2作以降と比較すると、
どこか破滅的なほどにダークなカラーがある内容になっていることは異色ではあるため、
どことなくシリーズ全体として見たとき、一貫性を失わせているのが第1作というのが気になりますが、
妻を亡くした主人公の刑事リッグスの自殺願望が、一つのキー・ポイントとなっているのが一種のスパイスだ。

破天荒な刑事リッグスと、ベテラン黒人刑事マータフの出会いは、
リッグスの破滅的な行動に危険を感じた管理側が、精神分析医から自殺願望を指摘されながらも、
それを否定しつつも、麻薬捜査課から殺人課へ異動させたことから始まります。

それまでは『マッドマックス』の印象が強かったメル・ギブソンがハリウッドを代表する、
タフガイなアクション・スターとして名をはせるキッカケとなった作品でもあります。

メル・ギブソンがとことん悪を追っていく執念が上手く反映されていて、
特に映画の中盤から、ゲーリー・ビジー演じる元傭兵らが次から次へと狂気的かつ、
卑劣極まりない手段で警察組織を翻弄していきますが、そこに襲い掛かられる次から次へとやって来る、
リッグスらにとっての逆境に対しても、全く諦めずに対抗していくリッグスの執念が映画の大きな魅力でもある。

また、危険な香りが漂うリッグスとは対照的に平和を愛する、
善良な市民の典型で、良きマイホーム・パパとして生きるマータフ刑事にしても、
映画の後半で次第にそんなニュアンスを出していくのですが、実は銃の腕前は良いというのも面白いですね。

欲を言えば、リッグスとマータフのやり取りは既にコメディ的ではあるのですが、
続編と比べると、二人の会話がまだギャグの応酬というほどではないのが、どこか続編と比べると物足りない。

オマケに映画のクライマックスはいつもの如く、
リッグスが肉体に鞭打って悪党との肉弾戦になるのですが、これがまた何故かマータフの自宅前で
マータフ公認で取り巻きの刑事たちを「手を出すな!」と制して、殴り合いのファイトで映画が終わります。
この終わり方はこのシリーズの恒例と言えば恒例ですが、これだけ卑劣な悪事の限りを尽くした、
悪党を追い詰めたというのに、何故かリッグス一人が殴り合って事件を解決させるというのは、強烈な違和感がある。

とは言え、最後にリッグスと対決するゲーリー・ビジーの熱演もあってか、
大雨の中でドロドロになりながら、ただただひたすら殴り合う姿は、映画の緊張感を持続させるのに貢献してますね。

映画のタイトルになっている“リーサル・ウェポン”とは、
日本語直訳すると「人間凶器」という意味らしく、これはリッグス自身のことを意味しているのでしょう。
しかし、シリーズが進むほどにリッグスも精神的にキビしさが解かれて「人間凶器」らしさが無くなっていき、
それが第1作のファンにとっては、賛否が分かれるところではあるのですが、僕は続編の方が好きなせいか、
やはり第1作だけは別な映画として考えた方が、どこかすんなりと受け入れられるような気がしますね。

この辺はリチャード・ドナーも続編になればなるほど、リッグスが破滅的な行動を
減らしていくこと自体を意識して描いていたようで、考え方によってはまるでファミリー的な感覚で
第1作でここまで追い詰められていて、本気で自殺願望の塊であったリッグスが立ち直っていく姿を描く
シリーズとして描き続けたわけで、ある意味で古き良きアメリカの発想が根付く作品と言えると思います。

一方で、リチャード・ドナーは後に語っていることで、
未公開シーンとして公開しているのですが、実はこの第1作は2パターンのエンディングを撮っていて、
編集段階でどちらにするか選んだようだ。もう一つのエンディングは、リッグスとマータフがコンビを解消して、
映画が終わるというパターンで、もしこれが採用されていれば、続編への入り方は変わっていたかもしれません。
(おそらく作り手も試写を観た段階でヒットを確信して、映画会社の意見などを聞き、ラストを選んだのだろう)

結果的にこのラストは正解でしたね。このラストで映画が活路を見い出せた印象があります。

リチャード・ドナーも描きたいことをピンポイントに描けている感じで、
往々にしてこの手の映画って、余計なエピソードにやたらと時間を費やしている無駄があったりするけれども、
本作はコンパクトによくまとまっていて、次から次へとテンポ良く映画を進めていくのが気持ちいいくらいだ。

そしてこの時期のハリウッドに多かった、無意味な破壊行為や過剰なまでに
ド派手なアクション・シーンが横行しているわけではなく、更にCGを一切使わずにスタント・アクションに
こだわってアクションを撮り続けたことに、このシリーズの成功の秘訣があると思いますねぇ。

本シリーズのコンセプトとして、白人刑事と黒人刑事のコンビという点に
大きな意義があります。本作以前で類似した映画と言えば、エディ・マーフィとニック・ノルティの『48時間』が
ありましたが、コメディ映画としてではなく、あくまでアクション映画の王道を行く形の映画の中で、
人種差別というテーマとは無縁な内容で描くことに、作り手の一つの統一意識があったはずです。

それまでは、殊更、人種差別との闘いの中に、
描かれていたコンビの在り方でしたが、敢えて全く触れずに、普通のこととして描くことによって、
アクション映画の一つのフォーマットを作るという、大きなコンセプトがあったように思いますね。

勿論、人種差別については、リッグスとマータフのコンビの在り方ではなく、
あくまで社会問題の一つとして、後のシリーズで触れられていますので、まるで無視するということもないのですがね。

(上映時間109分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 リチャード・ドナー
製作 リチャード・ドナー
   ジョエル・シルバー
脚本 シェーン・ブラック
撮影 スティーブン・ゴールドブラット
音楽 マイケル・ケイメン
   エリック・クラプトン
出演 メル・ギブソン
   ダニー・グローバー
   ゲーリー・ビジー
   ミッチェル・ライアン
   トム・アトキンス
   ダーレン・ラヴ
   トレイシー・ウルフ

1987年度アカデミー音響賞 ノミネート