のるかそるか(1989年アメリカ)

Let It Ride

愛する妻との取り決めで、ギャンブルに興じることを一切やめたタクシー運転士が、
盗み聞きが趣味の同僚から、「絶対、勝てる情報」を得たことから、
神頼みまでして、強烈なまでの強運を発揮し始める姿を描いたギャンブル・コメディ。

主演は猛烈なドラッグ中毒に苦しんだリチャード・ドレイファスが
映画出演を活発化し始めた頃の作品であり、実に楽しそうに演じているのが印象的だ。

実はこの映画、僕はかなり昔に観ていたのですが、
かなり記憶が不確かなものになっており、つい先日、某レンタル・ショップの復刻企画で
DVDとして復刻されていたのを発見して、「どんなんだったかな?」って気持ちで観てみました。

全く初めて観る感覚だったのですが...
確かにこれはギャンブルが好きな人には、共感する部分のある映画でしょうね。

しかしながら、あくまで映画というメディアとして冷静に観たら、
僕は正直言って、そこまでの出来ではないと思いますね。まずはコメディ映画として、
どうしても手落ちな部分が多くあるように思えてならず、どうしてもノレません。
リチャード・ドレイファスは前述したように、実に楽しそうに芝居しているのですが、
さすがに映画はそれだけでは苦しく、特に中盤以降の展開はかなり苦しいものではないかと思えました。

まぁ楽観的に考えると、
主人公がアレよアレよという間に“小金持ち”になっていく姿を描いた前半は、
語り口も悪くなく、映画のテンポ自体がなかなか悪くないものだったと思うのですが、
次第に手持ち金が多くなり、本格的に成金化してくる中盤からの展開は一部、中ダルみしてしまう。

テリー・ガー演じる主人公の妻とのエピソードなどは、
映画の流れを考えれば、必然とも言えるエピソードではあるのですが、
言ってしまえば、ただの夫婦ゲンカを無理矢理、ギャンブルの中に持ち込んでしまうわけで、
手厳しい言い方かもしれませんが、良くも悪くも映画の流れを完全に阻害しているように思えます。

これが妻の言う正論を覆すかのように、主人公が次々と奇跡的な強運を発揮することで
半ば否定してしまうことに等しくなるのですが、一方でもう少し工夫して描いて欲しかったですね。

主人公の強運の始まりは、タクシーでの盗聴を聞いたことからですが、
2回目も同じ連中からのリーク、3回目以降は自分の直感のみを頼りに、
ありったけの財産を全て50ドル馬券につぎ込んでしまうのですから、これは豪快なお金の使い方ですね。

彼が強運を発揮して、次第に馬券発売所へ向かう主人公には、
それまでソッポを向いていた連中が、次から次へと主人公の取り巻きへと回ってしまうのも面白い。
(しかし、それでいながら映画の最後に描かれる主人公の提案には誰も同意しない・・・)

もう少しドッと笑えるシーンが欲しかったなぁ、せっかくのコメディ映画なのですから。
映画の中盤で、ジェニファー・ティリー演じるダイナマイト・ボディのコメディエンヌが登場するのですが、
彼女の役割にしても中途半端で、明確に笑いをとりにくるシーンもなく、実に勿体ない感じになってしまっている。

映画を最後まで観て、強く感じるのは...
この映画はギャンブルの闇の部分を描いていないのではないかということ。
えてして、この手の映画はギャンブルの恐ろしさも教訓的に描くものだと思っていたのですが、
この映画は「当たり続けると、ギャンブルって、こんなに素晴らしいものなんだぜぇ!」で終わってしまう感じです。

まぁ見方次第では、ツキまくって喜び狂喜する姿そのものが
主人公の物悲しい部分を描いているという解釈もできなくはないのですがねぇ。。。
個人的には、もっとギャンブルの多様な姿を描いて欲しかったと思いますね。

監督のジョー・ピトカはどこまでも楽天的な雰囲気を尊重しており、
おそらくギャンブルの闇の部分を描いて、映画が暗くなることを避けたのでしょうが、
逆に各エピソードの広がりを阻害してしまい、映画が小じんまりとしてしまいましたね。
これは結果的に中盤以降の流れの悪さ、起伏の乏しさにつながってしまったと僕は思いますね。

この時期のリチャード・ドレイファスは活発に俳優活動をしていた時期であり、
『スタンド・バイ・ミー』、『オールウェイズ』、『ローゼンクランツとグルテンスターンは死んだ』など、
ひじょうに質の高い作品にも数多く出演しており、コメディ映画にも何本か出演しています。
その中でも、『ビバリーヒルズ・バム』、『ティンメン/事の起こりはキャデラック』、
『パラドールにかかる月』、『ハリウッドにくちづけ』あたりは、是非ともDVD化をお願いしたいですね。

ちなみに主人公の妻を演じたテリー・ガーは、
77年にリチャード・ドレイファスが出演した『未知との遭遇』でも、彼の妻役を演じた女優さんで、
『未知との遭遇』では映画の最後の最後まで、夫に懐疑的だった役柄だったのに対し、
本作では『未知との遭遇』よりも、ずっといい加減な夫であるにも関わらず(笑)、
色々と紆余曲折を経ながら、最終的には夫のだらしなさに押し負ける妻を演じています。

僕は競馬場に行ったことがないし、馬券も買ったことはないんだけど・・・
主人公の妻が「そんなに競馬が好きなら、走る馬を見ればいいじゃない!」と主張して、
多くの人々から笑われ、夫から「金をかけなきゃ、競馬じゃないじゃん!」と一蹴されてしまいますが、
僕も馬券は買わずとも、猛スピードで走る馬を鑑賞するというのも、“アリ”だと思うんだけどなぁ。

事実、いつか競馬場のゴール付近で見てみたいと、僕は思っていますもん。

(上映時間90分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

監督 ジョー・ピトカ
製作 デビッド・ガイラー
原作 ジェイ・クロンリー
脚本 アーネスト・モートン
撮影 カーティス・ウェア
音楽 ジョルジオ・モロダー
出演 リチャード・ドレイファス
    テリー・ガー
    デビッド・ヨハンセン
    アレン・ガーフィールド
    ジェニファー・ティリー
    ロビー・コルトレーン
    リチャード・ディミトリ
    ミシェル・フィリップス
    リチャード・エドソン