レ・ミゼラブル(2012年イギリス)

Les Miserables

ヴィクトル・ユゴー原作の名作のミュージカル映画化。
日本でもメガヒットした作品でしたので期待していたのですが、個人的にはどこかノレない作品でしたね。

“ノレない”と言うか、正確に言えば、“入り込めなかった”と言った方が正確かもしれません。
ミュージカル映画は好きですけど、どこか映画全体としてはアンバランスな印象がありましたね。

スケールの大きなセットを組んで、CGもふんだんに使ってフランス革命当時の情景を再現した、
ヴィジュアル・デザインはスゴいんだけど、キャストたちが一生懸命歌っているんだけど、
どこかその気迫溢れる映像と内容がマッチしていないというか、歌が映画に馴染んでいないように感じました。
僕は正直、この映画の場合は普通に見せて欲しいとすら思っていたので、いろいろと合わなかったというのが本音。

映画のスケールとしてはスゴいし、シャベール警部を演じたラッセル・クロウも
ミュージカル初挑戦ではあったものの、歌は上手いし、キャスティングも良かったと思います。
賞賛されたアン・ハサウェイも登場時間は短かったものの、確かにこのインパクトはデカかった。

ただ、これは普通にミュージカルの要素を排して、普通に映画を撮っていたら、
もっとエキサイティングで面白い映画になっていただろうし、特にシャベールの映画終盤での決断にしても、
もっと感情高ぶるものを表現でき、メリハリのついた良い映画に昇華されただろうと思えるだけに、そこは残念。

そう、この映画、個々には良いところはるのだけれども、
映画全体としてはアンバランスと感じた原因として、メリハリに欠けるところが目立ったことだと思う。
歌自体もそうなのですが、盛り上がるのは大合唱に発展して、文字通り“歌い切る”瞬間そのもので、これは良い。
本作は音響も素晴らしく、その効果を最大限出したところは盛り上がるが、それ以外は動きの少ない歌が続く。

全編ミュージカル仕立てとしても、もっとメリハリはあった方が良く、映画がどこか緩慢に映ってしまう。
そのせいか僕にはこの映画の2時間30分越えというのが、異様に長く感じられた。次々と短いカットでつないだり、
戦闘やデモ行進の激しさを表現するために、ミュージカル映画らしからぬカメラワークを見せるシーンもありますが、
どうも映画の中で“浮いて”しまっていて、作り手の狙い通りに噛み合ったとは言えない結果だと思いますね。

画面が基本的にうるさ過ぎる。穏やかな歌が続く映画なのに、どうしてこうもガチャガチャしてしまうのか。
かの有名な原作の映画化ということで気合が入ったのは分かるが、その情熱を向けるベクトルが違う気がします。

これが欧米の方々の美意識と一致するのかまでは分かりませんが、
ガチャガチャした映像に、メリハリのない展開、そこに途切れることなく続く歌の連続では、
いくらキャストが頑張ったところで、どうともならないですね。監督のトム・フーパーも『英国人のスピーチ』で
世界的に高く評価されただけあって、こういった大きな企画を任されたのでしょうけど、もっと全体を見直して欲しかった。

そのせいか、僕には本作、ミュージカル映画というよりもオペラの観劇としか思えなかったですね。
それなら、まともにやってしまったら、劇場で観劇を楽しんだ方が良いとなってしまいます。
そこを敢えて映画にするということならば、映画にする意義を何らかの形や表現で、指し示す必要があるのですが、
僕には本作でトム・フーパーがそこまで出来ていたとは到底思えず、何を狙っていたのか、最後まで疑問でした。

日本でも、何度も舞台劇として上映されており、
世界規模で考えると数え切れないほど上映されている名作でしょう。だからこそ本作はヒットしたのでしょうし、
ハリウッド資本も加わっての規模の大きな映画化とくれば、話題性も十分だったことでしょう。

何が残念って、これは大きなチャンスだったのに、この出来映えだったというのが残念。
自分の嗜好と違うだけという見方もあるでしょうが、欧米ではこの原作は道徳書として使われているとも聞きます。
それが何故に、このような映像センスで仰々しく描かれることになるのか、そのコンセプトは何であったかを
映画の中で示すことができずに、ただただ“見世物市”のようになっていることに、強烈な違和感があったのです。

アン・ハサウェイが治療費を捻出するためにと、髪を切り落とし、歯を強制的に抜かれるなんて、
ほとんど拷問を受けているようなシーンがありますが、これらももっと悲壮感を演出して欲しい。
どこか惨いシーンの羅列というニュアンスに感じられてしまい、もっと感情的な高ぶりを表現するためには、
歌の流れに乗って描くことよりも、もっとここは時間をかけてジックリと彼女の苦悶の声を表現すべきでした。

これは企画、そして脚本を執筆している時点で、大きな岐路があったとしか思えません。
もしヴィクトル・ユゴーが生きていたら、この映画の出来をどう評価したのか、知りたいなぁと思っちゃいます。

子供が戦闘の最中で、前に出ていたら、アッサリと残忍な殺され方をしたり、
それ単一で観ればザワつかせるようなセンセーショナルな描写なんだけれども、僕はどうしてこの企画、
この映画の中で敢えてそういった描写をしたのか、作り手に問いたいと思えるシーン、そんなのが多々あったのです。

それは全て、映画を最後まで観ても、「あぁ、なるほどなぁ〜」と思わせられる納得感が欠けているからです。
これは僕の中では、結構致命的なことで本作は評判が良かっただけに、どうしてもギャップが大きくなったかな。

本来、この物語はヒュー・ジャックマン演じるジャン・ヴァルジャンがパン一つ盗んだ罪で、
その後脱獄しようとしたとか、なんとか理由を付けられて19年間もの懲役刑を受けた不条理さから、
たまたま出会ったミリエル司教に影響受けて、改心しようと決め、その行いのものに実業家として成功し、
周囲の人望を集め、行政の市長の座に上り詰めるという、憎悪の念を捨てて、善行に徹することが起こす奇跡を
象徴した人物であるという点が、極めて道徳的でそれだけで一つの物語として成立する魅力があるのです。

でも、それだけではなくって、次にアン・ハサウェイ演じるフォンテーヌとの出会いで、
彼女が言い残した娘コゼットを助け、コゼットの父親代わりになるというエピソードで次のステージに話しは
移行するのですが、そこからは革命の戦火での物語になるわけで、2つの物語があるわけです。

賛否はあると思いますが、僕は前述したように普通にこの物語を映画にした方が良かったと思う。
そしてジャン・ヴァルジャンの境遇にもっと強くスポットライトを当て、オリジナルの良さを引き出した方が良かったと思う。
ミュージカルにするがゆえに、映画の前半の主人公が改心して善行に徹するまでの話しが、アッサリし過ぎている。

しかし、ラッセル・クロウはすっかりベテラン俳優の域に達しましたね。
本作の10年前であれば、主人公のジャン・ヴァルジャンはむしろラッセル・クロウが演じていたでしょう。
それを助演に徹するかのように、シャベール警部として歌っているとは、何故か時代の変遷を感じさせます。

辛口にはなってしまいましたが、映画のクライマックスは大円卓で豪快に歌い上げて終わる
後味は悪くないし、キャストの頑張りはホントい素晴らしいものがあるので、全てがダメな映画だとは思いません。

ただ、アカデミー賞で8部門ノミネートされながらも、受賞は2部門に留まった理由は
なんとなく分かる気がします。映画賞向けの作品であるようですが、そこまで強く訴求するものではありません。
もっと中身が色々と噛み合って、クライマックスがカタルシスを感じさせるくらいになれば、もっと評価されたでしょう。

それから劇場公開当時も話題になっておりましたが、
従来のミュージカル映画では事前にスタジオでキャストの歌を録音しておいて、本編の撮影現場では
テープを流したりカメラの後ろで演奏して、キャストは口パクで演技するというのが主流なのですが、
本作は実際の撮影現場でキャストが地声で歌ったものを録音して、映画の音声として使ったというのだからスゴい。

これは確かに、あまり前例の無い画期的なことかもしれませんね。

(上映時間157分)

私の採点★★★★☆☆☆☆☆☆〜4点

監督 トム・フーパー
製作 ティム・ビーヴァン
   エリック・フェルナー
   デブラ・ヘイワード
   キャメロン・マッキントッシュ
原作 ヴィクトル・ユゴー
   アラン・ブーブリル
   クロード=ミシェル・シェーンベルク
脚本 ウィリアム・ニコルソン
   アラン・ブーブリル
   クロード=ミシェル・シェーンベルク
   ハーバート・クレッツマー
撮影 ダニー・コーエン
編集 メラニー・アン・オリバー
   クリス・ディケンズ
音楽 ベッキー・ベンサム
出演 ヒュー・ジャックマン
   ラッセル・クロウ
   アン・ハサウェイ
   アマンダ・セイフライド
   エディ・レッドメイン
   ヘレナ・ボナム・カーター
   サシャ・バロン・コーエン
   サマンサ・バークス

2012年度アカデミー作品賞 ノミネート
2012年度アカデミー主演男優賞(ヒュー・ジャックマン) ノミネート
2012年度アカデミー助演女優賞(アン・ハサウェイ) 受賞
2012年度アカデミー歌曲賞 ノミネート
2012年度アカデミー美術賞 ノミネート
2012年度アカデミー衣装デザイン賞 ノミネート
2012年度アカデミーメイクアップ&スタイリング賞 受賞
2012年度アカデミー音響調整賞 受賞
2012年度全米映画俳優組合賞助演女優賞(アン・ハサウェイ) 受賞
2012年度イギリス・アカデミー賞助演女優賞(アン・ハサウェイ) 受賞
2012年度イギリス・アカデミー賞プロダクション・デザイン賞 受賞
2012年度イギリス・アカデミー賞メイクアップ&ヘアー賞 受賞
2012年度イギリス・アカデミー賞音響賞 受賞
2012年度ラスベガス映画批評家協会賞助演女優賞(アン・ハサウェイ) 受賞
2012年度ワシントンDC映画批評家協会賞助演女優賞(アン・ハサウェイ) 受賞
2012年度デトロイト映画批評家協会賞助演女優賞(アン・ハサウェイ) 受賞
2012年度カンザス・シティ映画批評家協会賞助演女優賞(アン・ハサウェイ) 受賞
2012年度インディアナ映画批評家協会賞助演女優賞(アン・ハサウェイ) 受賞
2012年度サウス・イースタン映画批評家協会賞助演女優賞(アン・ハサウェイ) 受賞
2012年度フェニックス映画批評家協会賞助演女優賞(アン・ハサウェイ) 受賞
2012年度オースティン映画批評家協会賞助演女優賞(アン・ハサウェイ) 受賞
2012年度フロリダ映画批評家協会賞助演女優賞(アン・ハサウェイ) 受賞
2012年度ユタ映画批評家協会賞助演女優賞(アン・ハサウェイ) 受賞
2012年度オクラホマ映画批評家協会賞助演女優賞(アン・ハサウェイ) 受賞
2012年度ネバダ映画批評家協会賞美術賞 受賞
2012年度セントラル・オハイオ映画批評家協会賞助演女優賞(アン・ハサウェイ) 受賞
2012年度ヒューストン映画批評家協会賞助演女優賞(アン・ハサウェイ) 受賞
2012年度ノース・テキサス映画批評家協会賞助演女優賞(アン・ハサウェイ) 受賞
2012年度デンバー映画批評家協会賞助演女優賞(アン・ハサウェイ) 受賞
2012年度アイオワ映画批評家協会賞助演女優賞(アン・ハサウェイ) 受賞
2012年度ロンドン映画批評家協会賞助演女優賞(アン・ハサウェイ) 受賞
2012年度ゴールデン・グローブ賞作品賞<ミュージカル・コメディ部門> 受賞
2012年度ゴールデン・グローブ賞主演男優賞<ミュージカル・コメディ部門>(ヒュー・ジャックマン) 受賞
2012年度ゴールデン・グローブ賞助演女優賞(アン・ハサウェイ) 受賞