レモニー・スニケットの世にも不幸せな物語(2004年アメリカ)

Lemony Snicket's A Series Of Unfortunate Events

『キャスパー』、『ムーンナイト・マイル』のブラッド・シルバーリングが、
両親を火事で失い、あまりに過酷な仕打ちばかりに遭う子供たち3人の活躍を描いたファンタジー映画。

確かにジム・キャリーがいつもの調子で出演した映画という印象は残りますが、
個人的にはそこまで映画の出来は悪いとは思わないし、むしろ予想外と言っていいほど、面白かったですね。
ダークな世界観を徹底できたことと、子供たちの好演が完全なる追い風となった作品になったことが大きいかな。
特に既に子役から、女優として活動の場を広げているようですが、ヴァイオレットを演じたエミリー・ブラウニングの
存在感が大きくって、彼女の弟クラウスを演じたリーアム・エイケンもよく頑張っており、好感を持ちましたね。

ブラッド・シルバーリングは決して下手な映像作家だとは思いませんが、
本作に限って話せば、子役の彼らに大きく助けられたと言っても過言ではないでしょうね。

何故か、メリル・ストリープとダスティン・ホフマンという、
79年の『クレイマー、クレイマー』の離婚夫婦を想起させるベテラン俳優の2人が脇を固めたり、
カメオ出演とは言え、映画の全編にわたって、ストーリーテラーとして登場したジュード・ロウなど、
とにかくプロダクションの力が働いたのか、キャスティングも上手く機能した仕上がりになりましたね。

ちなみにタイトルにあるレモニー・スニケットとは、
僕は本作を観る前は、でっきりジム・キャリー演じる遺産狙いの後見人オラフ伯爵の名前なのかと
勘違いをしておりましたが、実はそうではなく、本作のストーリーテラーである原作者なのですね。

映画ではありますが、シルエットだけ登場させて(演じるのは前述の通り、ジュード・ロウ)、
まるで眠る前の子供たちに読み聞かせるように、観客に向かってストーリーを語りかけます。

まぁ・・・残念ながら本作は、世界的な大ヒットには至りませんでしたから、
未だに続編は製作されておりませんが、この映画のストーリーテリングや結末のあり方を見るに、
製作サイドも「本作がヒットすれば続編を製作する」という気持ちはあったのかもしれませんね。

まぁこの辺は、おそらくジム・キャリーのやり過ぎ演技が賛否を分けたのでしょうが、
確かに本作、ジム・キャリーがいつもの調子でアドリブ入れまくって、好き放題に演じたがために、
彼のいつものコメディ演技に嫌気が差している人には向かない作品なのでしょうね。
僕は別にそこまで嫌悪感は無いのですが、日本でも彼のコメディに対する評価は賛否が分れ易いので、
その現実を考慮すると、やはり結果として商業的な成功を収めづらい企画にはなっていたように思います。

でも、変幻自在に変装してまで、執拗に子供たちを追い続け、
彼らの両親の遺産に執着するオラフ伯爵を、ここまで嬉々として演じることができるのは彼ぐらいでしょう。

当初、ティム・バートンが監督して、主演のオラフ伯爵をジョニー・デップが演じ、
ジョセフィーンにはグレン・クローズが演じる予定だったですが、最近のティム・バートンの映画を観る限り、
僕は本作の最終的なスタッフ、キャストで正解だったと思いますね。本作の題材で必要以上にダークにしても、
映画がキワモノ系になるだけだし、ジョニー・デップがここまでのコメディ演技に徹したとは思えないのですよね。

昨今は『ハリー・ポッター』シリーズの大ブームのおかげで、
こういったゴシック調の映画も増えた気がしますが、暴論覚悟で主張しますが、
僕は本作、少なくとも『ハリー・ポッター』シリーズよりも、映画としての魅力に溢れていると思っています。
そりゃ、映画のテーマが違うから単純比較できませんが、単に大人と闘う子供を描いた映画としてです。

本作なんかは、例えば『ハリー・ポッター』シリーズのように、
アイテムをやたらと繰り出したりして、パーソナルな内容にすることはできただろうし、
もっとストーリー上の広がりも出そうと思えば、出せた気がする。しかし本作は、変な色気は出さなかった。
僕はこのブラッド・シルバーリングの、「無理なことは描きません」とする姿勢はもっと評価されてもいいと思う。

少なくとも本作の単純明快、かつシンプルな内容で十分に映画が成立している事実を
『ハリー・ポッター』シリーズのスタッフは、少しでも見習って欲しいと、マジで思っています(笑)。
(↑なんか、我ながら『ハリー・ポッター』の世界に共感できなかった、ヤッカミみたいになってるな・・・)

まぁ・・・他作品との比較は後回しにするとして、
本作のシンプルに観客を魅了するという志向は、この手のエンターテイメントとしては、もっと褒められるべきだ。

最近は娯楽映画にあっても、ホントに小細工に走る映画が多くって...
それらが成功しているならまだしも...小細工が余計な方向に機能してしまう作品が多くって...
やはり最近の映画界が、なにやらおかしな方向へと進んでいるような気がするのが、気になるんですよね。
個人的には、映画人は基本に立ち返って、もっと映画本来が果たすべき役割について、見直すべきだと思います。

この映画を観る限り、ブラッド・シルバーリングは案外、その基本を心得ているような気がするんですよねぇ。

強いて言えば、前述した「本作がヒットすれば続編を製作する」というスタッフの意図があってか、
映画のラストが中途半端になってしまっているような気がするのが、ひじょうに勿体ないですね。
これは例え、「本作がヒットすれば続編を製作する」という意図がホントにあったとしても、
いくらなんでも、もっとしっかりとした結末を描いて欲しかったし、いっそのことブラックなオチでも良かったと思う。

エンド・クレジットのアニメーションも素晴らしく、
エマニュエル・ルベッキのカメラも悪くないのに、このラストの中途半端さはホントに残念ですね。

ジム・キャリー主演という色眼鏡を外せば(笑)、そんなに悪い映画ではないと思うし、
仮に自分に子供がいても、安心して見せられる内容なので、優れたファミリー向け映画だと思う。
映画という娯楽の性格を考えると、やはりこういう映画は大切にすべきだと僕は思うんですよね。
やはり映画産業が活発な時代というのは、こういう類いの作品も充実していると思うので。

でも、ジム・キャリーがもう少し抑えた芝居をしていれば、更に映画の印象は良くなっただろうし、
この映画の作り手は、結構、良い仕事をしていると思う。そういう意味で、本作自体が“不幸せ”なのかも(笑)。

(上映時間106分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 ブラッド・シルバーリング
製作 ローリー・マクドナルド
    ウォルター・F・パークス
原作 レモニー・スニケット
脚本 ロバート・ゴードン
撮影 エマニュエル・ルベッキ
衣装 コリーン・アトウッド
編集 マイケル・カーン
音楽 トーマス・ニューマン
出演 ジム・キャリー
    エミリー・ブラウニング
    リーアム・エイケン
    カラ・ホフマン
    シェルビー・ホフマン
    メリル・ストリープ
    ダスティン・ホフマン
    ティモシー・スポール
    ビル・コノリー
    ルイス・ガスマン
    ジェニファー・クーリッジ
    キャサリン・オハラ
    セドリック・ジ・エンターテイナー
    ジェーン・アダムス
    ジュード・ロウ

2004年度アカデミー作曲賞(トーマス・ニューマン) ノミネート
2004年度アカデミー美術賞 ノミネート
2004年度アカデミー衣装デザイン賞(コリーン・アトウッド) ノミネート
2004年度アカデミーメイクアップ賞 受賞