キューティ・ブロンド(2001年アメリカ)

Legally Blonde

リース・ウィザースプーンを一気にハリウッドのトップ女優へ押し上げた、
カリフォルニア出身の金持ち一家のブロンド娘が、自分をフッた彼氏を追いかけて、
ハーバード大学のロースクールで、弁護士資格を得て学位を取ろうと奮闘する姿を描いた全米大ヒットのコメディ。

謎なくらいに底抜けに明るく、パワフルな映画で観ているこっちが元気になってくる作品だ。
こういうのが嫌いな人って、結構いるとは思うんだけど僕はアリ。いつの時代も、こういう映画は必要ですよ。

確かにストーリー的にも甘いし、「こんなことはありえないだろう」と冷静に否定されるだろうし、
現実はこんなに甘くない。ファッション・ビジネスの学士を取得したものの、そんな勉強をしていなかったヒロインが
何故、一夜漬けのような勉強でハーバード大学の法科大学院に合格できたのか、という点も納得性に欠けるし、
厳しい関門をくぐり抜け、更に弁護士になるために勉学に励む学生を前に、ヒロインの姿が模範的なのかは微妙。

だけど、そんな疑問点を吹き飛ばすほど、この映画は良い意味で向う見ずに突っ走る!
そんなパワフルさが、たまらなく心地良いのだ。それくらい、ヒロインの超ポジティヴ・シンキングな姿が良い。

本作の全米劇場公開の時期が、実は「9・11」の前だったんですよね。そこで大ヒットしました。
ひょっとしたら、「9・11」の直後の世相だったら、この内容ではそこまでヒットしなかったかもしれませんね。
そういったタイミングも追い風だったと思う。監督はオーストラリア出身のロバート・ルケティックで、本作がデビュー作。
色々と難しさもあっただろうけど、トコトン前向きに考えるヒロインに執着して、コミカルに描いたのが大正解でしたね。

ただ、僕が感じたのはヒロインのリース・ウィザースプーンも良いんだけど、
この映画の中で目立ったのは、ヒロインの恋敵を演じたセルマ・ブレアでしたね。彼女の方が印象に残った。
本作はリース・ウィザースプーンの出世作になりましたが、セルマ・ブレアももっと注目を浴びても良かったなぁ・・・。

本作は全米をはじめ、世界規模で大ヒットしたために、勢いに乗って続編も製作されました。
続編はリース・ウィザースプーンが製作総指揮も兼務して、続編もヒットし日本ではミュージカル化もされたらしい。

それだけの人気を誇ったのは、やはりヒロインの底抜けに明るく前向きな姿が観ていて清々しいからだろう。
観て元気をもらえる映画、そんな位置づけなのだろうと思います。本作が劇場公開された2001年は、
レニー・ゼルウィガーの当たり役となった『ブリジット・ジョーンズの日記』が世界的にヒットした年でもあって、
明るく前向きに頑張る女性を描いた映画というのが、当たり易い年でもあって、本作はその中の一つでもありました。

まぁ、強いて言えば、本作はラブコメとしては少々弱い。
ヒロインはかねてからのカレシである富豪のドラ息子ワーナーから求婚されるものだと思っていたら、
まさかまさかの別れ話だった・・・というところから映画が始まるわけで、彼女も一体どこからそんな自信が湧いてたのか
正直よく分からなかったのですが、それでもこのワーナーという男も、結構な侮辱的表現でヒロインを形容している。

そんな中でセルマ・ブレア演じる恋敵も、なんだか感じ悪いって雰囲気なので、
あくまで本作はヒロインが不純な動機とは言え、全く志望していなかった弁護士を目指して頑張る姿がメインとなる。
一応は恋愛エピソードも無くはないのだけれども、ハッキリ言って、途中からサブ・エピソードみたくなってしまう。
途中から登場してくる、ルーク・ウィルソン演じる弁護士がその役割を担うはずだったのでしょうが、なんだか弱い。

作り手も彼との恋愛を真剣に描こうとしている感じでもなく、なんだか悪い意味で中途半端になってしまう。
セオリーを踏めば、彼との恋愛ももっとキチッと描いて、ヒロインとワーナーと取り合うくらいの勢いが欲しかったが、
そもそものストーリーがそういう方向に向かずに、恋愛劇としては一歩引いたような立ち位置になってしまいました。

これが正解だったのかは、僕にはよく分からない。よくあるタイプの映画にはならなかったけど、
少なくともクライマックスのニュアンスを観ると、ヒロインの恋愛もそれなりのウェイトを持っていたはずなので、
個人的にはもっとしっかりと描いた方が良かったとは思います。それがヒロインの原動力にもなったのだろうから。

まぁ、本作はどちらかと言えばサクセス・ストーリーということなのだろう。
偏見めいた意見ではあるけど...どこからどう見ても、ハーバード大学の法科大学院を目指す学生に見えないし、
大学側もヒロインの弁護士としての能力よりも、セルフ・プロデュースの能力を評価したようなニュアンスだ。

丁度、2001年頃は日本でも自己PRみたいなことが大事だとされだしたときで、
僕がこの前年である2000年に高校3年生として過ごして、大学受験を目の前にしていた時期でして、
チラホラとAO入試(現代で言う、選抜型入試に近い)や自己推薦入試が複数の大学で採用されだした時期でした。

面接での対話重視であったり、論文形式であったりして、入学試験の多様化の表れでもあったと思いますが、
基礎学力が低いまま進学したりとか、ずっといろんな議論はありました。要は人物重視という入試制度なんで、
本作のヒロインのような自分で切り開いていける力のある人には向いているのでしょう。ある意味、即戦力かも。
でも、最近はどうなんだろう・・・? ここまで自分で自分の道を切り開ける芯の強い人って、少ないんじゃないかな。

だから、“そういうタイプじゃない人”がこういう入試制度を使って進学すると、批判の対象になりやすいのだろう。

ヒロインに美容の知識があり、業界の人脈があったからこそ、
ハーバード大学に入ってからの弁護士修行が上手くいったというのはありますが、これはこれで彼女の運。
そして、その運を絶好の機会として、見事にクライアントの信頼を勝ち得ていくのもヒロインの才覚なのだろう。

よく、プロのアスリートの世界でも「チャンスは一瞬。しかし、その一瞬を逃さなかった者が一流に駆け上がる」と
言われるけど、それが現実なのだろう。そのチャンスの在り方も人によって違うだろうし、求められる結果も異なる。
しかし、いずれにしても求められる結果を残せた者が、次のチャンスを与えられるというのは、世の常だと思います。
そういう意味でも、本作のヒロインのサクセス・ストーリーとしてチャンスを逃さなかったというポイントがあるのです。

どんなに大きな期待を浴びていようが、どんなに素晴らしい素質があろうが、
どんなに頭脳明晰で知識豊富だろうが、このチャンスをモノにする能力が無ければ、評価されることはないですしね。

それにしても、一部の映画ではブロンドをアドバンテージとしていることもあり、
女性のブロンド・ヘアーって一つのステータスであり、男を吸い寄せるのかなと勝手に思っていたのですが、
本作の中では「ブロンド過ぎて、その髪では議員の妻にはなれない」と勝手なレッテルを貼られているようで、
個人的には少々意外でした。しかも、ナチュラルであれば仕方ないですしね。ブルネットに染めたりするのでしょうか?

あまりにブロンド・ヘアーが強調され過ぎると、“軽い”と見なされるのかとも思いますが、
そんな偏見にも負けずヒロインは頑張るわけで、ブロンド・ヘアーを変えたりもしません。あくまで自分らしさで闘います。
だからこそ、本作のヒロインの姿は当時支持されたのでしょうが、それでも日本人にとってこのレッテルは意外ですね。

そういう意味では、西海岸の人と東海岸の人、という地域差もギャップの一つとして描いている気もするし、
やはりアメリカに在住経験がある人の方が、本作のコメディとしての価値を分かってもらえるのかもしれませんね。

勝手な先入観からいけば、確かにアメリカ西海岸の人って、どこか大らかそうというか、
ロサンゼルスのイメージが強いせいか、温暖な気候環境のもと、東海岸の気質とは違うような気がします。
そのせいか、ヒロインの持っている“地”がハーバードの同級生とは違う感じで、そのギャップもコメディにしている。

たださ・・・いくらヒロインが大らかなところがあるとは言え、
さすがに学内の寮で仮装パーティーがあるとウソをつかれたら、そりゃさすがにキレますよね・・・(苦笑)。

いきなり、そこまで交友があるわけでもない人の集まりに対して、バニー・ガールの服装をしていく
ヒロインもヒロインだけど、いくら気に食わないからと言って、普通のパーティーを仮装パーティーというのはやり過ぎ。
それがヒロインを落胆させる一つのエピソードとなるのですが、それでもめげないヒロインの姿もなんだか眩しい(笑)。

こういったエピソードは嫌味にならない程度に、上手く描けており作り手も上手でしたね。
こういう映画がコンスタントに製作される時代って、なんとなく景気が良さそうな時期にあると思います。
思えば、やっぱり2001年頃ってハリウッドの勢いが、今とは全然違うものでしたから。個人的には懐かしいですね。

(上映時間96分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ロバート・ルケティック
製作 ロジャー・ジョーンズ
   リック・キドニー
   マーク・プラット
原作 アマンダ・ブラウン
脚本 カレン・マックラー・ラッツ
   キルステン・スミス
撮影 アンソニー・B・リッチモンド
音楽 ロルフ・ケント
出演 リース・ウィザースプーン
   ルーク・ウィルソン
   セルマ・ブレア
   マシュー・デービス
   ビクター・ガーバー
   ジェニファー・クーリッジ
   ホーランド・テーラー
   アリ・ラーター
   ラクエル・ウェルチ