かけひきは、恋のはじまり(2008年アメリカ)

Leatherheads

禁酒法下の1920年代、斜陽になりかけていたアメフトのプロチームで活躍していた、
ベテラン選手がアメフト界再興に期待をかける、戦争の英雄でもあるスター選手に着目し、
フットボール・チームの再生に奔走する過程で、一人の女性新聞記者を奪い合うことになる恋愛映画。

人気俳優ジョージ・クルーニーが02年の『コンフェッション』、
05年の『グッドナイト&グッドラック』に続く、監督第3作で映画の出来としてはまずまず。

05年の『グッドナイト&グッドラック』はホントにシビれるぐらいカッコ良い映画で、
いきなり凄い映画を撮ったもんだなぁと感心させられたものですが、一転して本作ではロマンチックな内容で、
ジョージ・クルーニーも映像作家として幅を広げていきたいとする、彼なりの意図がよく伝わってくる。

おそらく彼の作家性からいけば、
政治的な内容の映画を好んではいるのでしょうけど、
彼の映画に対する姿勢として、その根底にあるのは古き良きハリウッドを追究することであり、
そのスタンスはずっと変わらず、彼が映画を撮り続ける上での命題となっているのでしょうね。

本作も贅沢に5分近くもオープニング・クレジットに時間を費やすのですが、
その作り方が往年のハリウッド名画を想起させる構成で、思わずニヤリとさせられる。

僕は彼の映画の作り方自体は間違えてはいないと思うし、
シナリオ選びという意味でも、彼の嗜好性に合った脚本を書かせることがホントに巧いと思いますねぇ。
また、キャスティングも彼のイメージ通りにできているようで、彼自身も上手く主演を務めている。
特にこの映画の場合は、嫌味なエージェントのCCを演じたジョナサン・プライスが良いですねぇ。

映画の音楽は全編、ランディ・ニューマンが担当しているのですが、
さり気なく映画の終盤のシカゴの酒場のピアノ弾きとして出演しており、
周囲でケンカしている最中、ピアノを弾きながら、ドサクサに紛れて瓶で殴るという芝居まである。

ランディ・ニューマンって、映画音楽の分野にフィールドを広げてから久しく、
数多くの映画音楽で評価されながらも、ずっと不遇な存在だっただけに、こういう活躍は嬉しいですね。

欲を言えば、映画のテンポが今一つかな。
もう少し全体として、映画のリズムは活かして欲しかったし、必要以上に尺が長く感じられます。
『グッドナイト&グッドラック』でも、一シーン毎に構図のカッコ良さを意識していたジョージ・クルーニーですから、
たぶんに本作でもそういった狙いはあったのだろうと思うのですが、そこまで目を引くシーンは無かったですね。
(やはり主役がジョージ・クルーニー自身ですから、自分をカッコ良く映すのは抵抗があったのかな・・・)

そういう意味では、クライマックスのアメフトの試合のシーンも迫力不足かな。
映画は基本、恋愛映画ですから、そこまで迫力を出すことに注力する必要はないけど、
もう少し試合の臨場感を出して、映画の醍醐味を引き出して欲しかったところ。

それにしても、この邦題は映画の内容とチョット違う気がしますね。

主人公とレニー・ゼルウィガー演じる女性新聞記者の間で、もっと恋の駆け引きがあるのかと思いきや、
どちらかと言えば、主人公とスター・プレイヤーが彼女を奪い合うことにフォーカスしている印象があって、
いい歳こいたオッサンが、若者と女性を奪い合って、殴り合いのケンカをするなんてシーンもある。

どことなく、発想が古臭いのも、ジョージ・クルーニーが映画を撮る上で、
一つのテーマとしている、ハリウッド・クラシックの追究ということと、リンクしているのでしょうね。

本作、日本でも当然、劇場公開されているのですが、
僕もいつ上映されていたのか記憶しておらず・・・そんな、ヒッソリと劇場公開され、
気づけばDVDとしてリリースされていたという扱いの悪さが残念なのですが、
2000年代後半に入ると、日本でもハリウッド映画の観客動員も落ち込んでいったこともあるし、
何より、この内容は日本人には馴染みづらい内容であることはあるかもしれませんね。

正直言って、ジョージ・クルーニーとレニー・ゼルウィガー共演の
恋愛映画という触れ込みにしても、本作が製作された5年前だったら、もう少し話題性はあったと思いますが、
さすがにこの時期になったら、彼らの共演というだけでは観客を呼ぶこともできるほど力は無かったですね。

とは言え、映画はしっかり作り込まれた、まずまずの出来です。
レニー・ゼルウィガー演じるヒロインをオシャレに形作って、丁寧に描いているのも良いし、
主人公とヒロインの恋心が逃走の過程で盛り上がっていくという展開も、実に上手く描けている。

この辺のコミカルさは良かったと思うし、禁酒法を破っていることがバレて、
警察に追われるシーンでは、テンポがグッと良くなって、良い意味でのリズム感がありましたね。

しかし、映画で一番の争点となったところは“武勇伝”。
いつの時代でもヒーローの登場を世間が求めるというのはセオリーであって、
時代が動いた瞬間にはヒーローがいるという美談が好まれることによって、話しに“尾ひれ”が付く。
この“尾ひれ”が肥大化し、色々な人々の都合の良いように脚色され、事実が捻じ曲げられることはよくある話し。
しかし、必ずと言っていいほど、その裏側で祭り上げられた人や、騒動が振り回された人が傷つけられるんですね。

この映画も、そんな苦悩を取り上げているのですが、
もっとこの苦悩についてクローズアップしても良かったとは思うのですが、
敢えてジョージ・クルーニーは程よく描いた程度で、映画が変に深刻になり過ぎないようにしたのかもしれません。

このままいけば、ジョージ・クルーニーは力量高い映像作家として、
ハリウッドでも高い地位を築けるのではないかと思いますが、今後、いろんなタッチの映画を観たいですね。

まぁ・・・あまり、こういう言い方は良くないかもしれませんが、
ジョージ・クルーニーは資金力もあることですから、もっともっと映画を撮って欲しい人ですね。

(上映時間113分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

日本公開時[PG−12]

監督 ジョージ・クルーニー
製作 グラント・ヘスロヴ
    ケイシー・シルヴァー
脚本 ダンカン・ブラントリー
    リック・ライリー
撮影 ニュートン・トーマス・サイジェル
美術 クリスタ・マンロー
    スコット・ライトナー
編集 スティーブン・ミリオン
音楽 ランディ・ニューマン
出演 ジョージ・クルーニー
    レニー・ゼルウィガー
    ジョン・クラシンスキー
    ジョナサン・プライス
    スティーブン・ルート
    ウェイン・デュバル
    ジャック・トンプソン