アラビアのロレンス(1962年イギリス)

Lawrence Of Arabia

確かにデビッド・リーン特有の大作主義のおかげで、
3時間を超える時間を贅沢にたっぷりと使いながら構成しただけあって、
これだけコッテリと見せられたら、納得せざるをえない、ある意味でズルい映画だが...

少なくとも僕が今まで観てきた映画の中では、間違いなく3本の指には入る名画だ。

最初にことわっておきます。
チャンスがあるのであれば、本作は88年に再発表された完全版を観るべきでしょう。
(あまりに長過ぎたため、劇場公開当時、カットされた約20分を復元しております)

この映画には大きなキー・ポイントが幾つかある。
一つ目は「異文化との交わり合い」である。これは言うまでもなく、主人公のロレンスが英軍の命を受け、
異文化であるアラブ人の世界に飛び込むわけで、衣装はおろか、考え方まで倣おうとします。
しかし、これは映画の終盤、ロレンスが吐露するように、彼自身、大きな限界を悟ってしまったわけで、
見た目の肌の色が違うという点が、彼にとって想像を遥かに超える大きなハードルであったのです。

もう一つは、「教育」である。
これは実に大きなウェイトを占めているテーマなのですが、
ロレンスはアラブ人の世界に飛び込みながらも、あくまで彼が取る戦術は英国仕込みなわけで、
さすがに英国にとっての利害が彼の行動の動機となっていたことは、ほぼ間違いありません。

しかし、率先して士気を高めるロレンスであっても、
彼にとって大きな悩みであったであろうと思われるのは、アラブ人たちが戦い方を知らない点です。
ですから、彼はオフェンスとディフェンスを必死にコントロールしようとしますが、どうしても上手くいきません。
これは安直な言い方をすれば、「規律」という言葉に集約されますが、それ以上にチームで闘うことの重要性を
如何にしてアラブ人に理解させるかが、ロレンスにとって大きなテーマであったはずなのです。

事実、この「教育」がなかなか上手くいかないからこそ、
彼の闘いは、より厳しい展開となり、望まない仲間の死や苦戦を強いられるのです。

結果として、このファクターは映画の終盤でロレンスに重くのしかかります。
彼が精神的に歯車が狂ってしまったことには、仲間を処刑したり、助けられなかったり、
そもそもそんなシチュエーションをロレンスの意図しないところで作られてしまうことにあります。
まるで統率の取れない陣営のリーダー的存在となったロレンスも、大いに苦しんだはずなのです。

もう一つは、間違いなく当時、タブーであったはずの「ホモセクシャル」である。
おそらくデビッド・リーンが主演にマーロン・ブランドを据えるという案に猛反対したのは、ここにある。

確かに本編を観て思ったのですが、この映画のピーター・オトゥールは凄い。
もの凄い執念を感じさせる芝居なのですが、拷問を受けるシーンにしても、
それまでは意識させられなかった、ホモセクシャルのニュアンスが急激に漂い始める。
これは女性が一切、登場してこない映画には必要不可欠(?)なテーマですが、
ピーター・オトゥールの目が良いですね。この映画のホモセクシャルなニュアンスの全てを物語っています。

これはオマー・シャリフ演じるアリ酋長との交流でも、軽く“匂わせている”のですが、
当時はあまり露骨に描くことを禁止されていたため、深くは言及されておりませんが、
デビッド・リーンなりに当時のタブーに挑戦しようとした感があり、少し前衛的なテーマを内包していますね。

それと、この映画のカメラはホントに驚異的だ。
いずれのシーンにしても、驚かされるのですが、特に海辺の町アカバを攻略するシーンにしても、
砂漠地帯を疾走する機関車を小型爆弾を使って襲撃するシーンにしても、いずれも凄く緻密な撮影だ。
と言うのも、驚くことにワンカットで実にダイナミックに多くを見せているのです。

当時は合成技術も発達していたとは言い難く、当然、CGもありませんので、
これらは全て、映像スタッフ、美術スタッフ、音響スタッフ、エキストラの技術力と気合の賜物である。
おそらく失敗の許されない撮影だったでしょうから、現場の空気は想像を絶するものがある。

そして色使いの上手さ、望遠の上手さも特筆に値する。
前者は製作から約50年経った今でも、マスターテープのリマスターが行われているとは言え、
驚くほど鮮明かつ美しいフィルムとして残されており、とても50年近く前の映画とは思えない美しさだ。

特に第二班の撮影監督がニコラス・ローグであったこともあってか、
アカバ攻略後に、ロレンスがラクダに乗って、夕暮れの海辺にたたずむシーンがこの上なく素晴らしい。
これは数多くの映画にある絵画的な美しさを誇るシーンの中でも、最上の美しさと言っていいだろう。
これこそ映画の成せる業(わざ)であり、映画化することに価値を見い出していると言えるのです。

ニコラス・ローグのカメラマンとしての能力の高さを見い出したというのも、
後発的な意味合いではありますが...本作は価値があると言っていいと思いますね。

後者である望遠の上手さは、映画の序盤、アリ酋長が遠方から出現するシーンで証明している。
これは実に数多くの映画で取られている手法ではありますが、本作で初めて、ここまで鮮明な望遠ショットを
実現したのではないだろうか(...ひょっとしたら、本作以前にもあるかもしれませんが...)。

今でも、スピルバーグは新作の撮影に入る前に、
必ず本作を観直すらしいのですが、思わずそうしたくなるのも、よく分かる一本だ。

メチャメチャ長いから、やっぱり躊躇するとは思うけど(苦笑)・・・
いつかは映画館の大きなスクリーンで味わいたい、極上の一本ですね。

(上映時間207分)

私の採点★★★★★★★★★★〜10点

監督 デビッド・リーン
製作 サム・スピーゲル
原作 T・E・ロレンス
脚本 ロバート・ボルト
撮影 フレデリック・A・ヤング
    ニコラス・ローグ
音楽 モーリス・ジャール
出演 ピーター・オトゥール
    アレック・ギネス
    オマー・シャリフ
    アンソニー・クイン
    ジャック・ホーキンス
    アーサー・ケネディ
    ホセ・ファーラー
    クロード・レインズ
    アンソニー・クエイル

1962年度アカデミー作品賞 受賞
1962年度アカデミー主演男優賞(ピーター・オトゥール) ノミネート
1962年度アカデミー助演男優賞(オマー・シャリフ) ノミネート
1962年度アカデミー監督賞(デビッド・リーン) 受賞
1962年度アカデミー脚色賞(ロバート・ボルト) ノミネート
1962年度アカデミー撮影賞<カラー部門>(フレデリック・A・ヤング) 受賞
1962年度アカデミー作曲賞(モーリス・ジャール) 受賞
1962年度アカデミー美術監督・装置賞<カラー部門> 受賞
1962年度アカデミー音響賞 受賞
1962年度アカデミー編集賞 受賞
1962年度イギリス・アカデミー賞作品賞 受賞
1962年度イギリス・アカデミー賞助演男優賞(オマー・シャリフ) 受賞
1962年度イギリス・アカデミー賞監督賞(デビッド・リーン) 受賞
1962年度イギリス・アカデミー賞撮影賞<カラー部門>(フレデリック・A・ヤング) 受賞
1962年度ゴールデン・グローブ賞作品賞<ドラマ部門> 受賞
1962年度ゴールデン・グローブ賞主演男優賞(ピーター・オトゥール) 受賞
1962年度ゴールデン・グローブ賞脚本賞(ロバート・ボルト) 受賞