欲望のバージニア(2012年アメリカ)

Lawless

禁酒法下のバージニア州の田舎町で、密造酒を大量生産して生計を立てていた、
ボンデュラント兄弟の暴力に満ちた、検察官との抗争を描いたバイオレンス・アクション。

どうやら映画化の構想が出てから、資金難にあって、企画が進まず頓挫しかけていたようで、
当初予定していたキャスティングから大幅に変更して映画化が実現したようで、いろいろと大変だったようです。

正直な感想としては、僕はそこまで出来の良い映画だとは思わなかった。
まぁ、ギリギリ及第点レヴェルといったところかな。確かに力作ではある。でも、これは訴求しない。
原作は未読だけど、あくまでこの映画は原作の概略を、“なぞった”だけのように見えるほど、表層的に映った。

個別に見ていけば、良い部分も無いわけではない。例えば露骨に田舎町を蔑視し、
執拗にボンデュラント兄弟を狙って、地元警察を従える特別捜査官レイクスを演じたガイ・ピアースは、
体型や髪型(カツラ?)を変えてまでの大熱演で、これは本作で最も強いインパクトを残すところだ。
劇中、幾度となく描かれる乾いたガン・アクションもなかなかの迫力と臨場感で、まずまずの出来だ。

でも、映画全体として観たら、全体を統率するものが上手くいっていない印象だ。
つまり、パーツ・パーツに良さはあるが、それらがあくまで点でしかなくって、線になっていない。

地域に名を轟かせる、複数の警察に追われる犯罪者フロイト・バナーを演じたゲイリー・オールドマンは中途半端。
彼が何のために出演してくれたのか、その意義を作り手がしっかりと生かし切れなかったように見える。
個人的には彼にはもっと助演として、映画の中でインパクトを残して欲しかったし、映画の序盤にある、
フロイト自らが襲撃しに町の真ん中で、車を銃撃するシーンは良かっただけに、これが後に続かなかったのが勿体ない。

原作のマット・ポンデュラントは、実在の自分の祖父と大叔父をモデルにした原作を書いたようで、
ということは、本作の多くは実話を基にしているということなのかもしれません。完全にアウトローというか、
犯罪者としての生きざまを描いているので、内容的には賛否両論かもしれませんが、タフなストーリーですね。

ただ、それでも僕には何をこの物語を通して主張したかったのか、
それとも表立った主張がないのかも、よく分からなかった。小説と映画をセットで楽しんだ方がいいのかもしれませんが、
そうなってしまった時点で、この映画はダメですね。映画単独では成立しえないというのは、僕は賛同できません。

「オレたちは不死身なんだ...」...強いて言えば、この映画はこのフレーズを象徴的に描いたのかもしれない。

誰しも若い時は、自分の死を身近に感じていることの方が圧倒的に少ないでしょうから、
えてして、「自分たちが死ぬ」というを現実味帯びて感じることは少ないかもしれません。勿論、病床に伏していれば
それは別な話しですが、あくまで健康であればということです。しかし、それも年をとれば、そうでなくなるでしょう。

不死身を豪語していても、敵の激しい襲撃にあえば、瀕死の重傷を負うわけだし、
命を落とすことだってありえます。ポンデュラント兄弟の次男フレデリックは、近所では「不死身の男」と評されますが、
この映画のユニークなところは、彼の強さをあまり積極的に描きません。ケンカは強いし、キレたら何をするかは
分からないし、殴られてもそう簡単に倒れない。恐怖を制するという考えを持ち、闘う勇気に溢れている男だ。

そんなフレデリックの屈強さは具体的には表現されませんが、敵の罠にハマって首を切られるし、
銃撃戦になっても、結構簡単に撃たれる。しかし、それでも生き延びるというのは、身体が強いのか、
運が良いのか、定かではありませんが、僕にはこのフレデリックは実に不思議なキャラクターに映りましたね。

寡黙なフレデリックは、この時代の男らしさの象徴でしょうけど、
彼と“静かな恋愛感情”が交錯していたマギーからは、「あんまり女を待たせないで」と言われ、
女性側からのアプローチを待つという、ある意味、現代的な晩熟(おくて)な部分があるのは、なんとも不思議な男だ。

ポンデュラント兄弟の絆は固く、現代では考えられないくらいの結束力で、
密造酒取締官との対決を繰り返しますが、簡単に尾行されて窮地に陥るなど、結構ドジ(笑)。
次第に怒りに身を任せ、違法行為や殺人をも躊躇しない常軌を逸したレイクスが、手段を選ばなくなり、
ポンデュラント兄弟は危機に瀕しますが、取締官側に買収されていたはずの近所の住人たちも立ち上がります。

クライマックスは完全にレイクスvs地域住民みたいな構図になるのですが、
これがノンフィクションとすると、当時はトンデモない大事件だったことでしょうね。どこまで真実かは分かりませんが。

時代が時代なだけに、シカゴから逃げて来た女性マギーを演じたジェシカ・チャスティンなど、
主要な女性キャラクターが登場しますが、かなり「女性は添え物」みたいな扱いで、賛否はあるでしょうね。
まぁ・・・この時代なら、女性がこういう扱いを受けていたのは、現実だったのでしょうけれどもね。。。

でも、やっぱりどこか歯車が噛み合っていない映画だなという印象が拭えない。
監督のジョン・ヒルコートも頑張って演出はしているが、訴求しないせいか、映画自体に骨が無い。
やはりタフなストーリーなだけに、個人的には映画自体は骨太であって欲しいし、力強いあって欲しい。
この程度の後日談で何か訴求するかと言われると、なんとも微妙なところでして、何がしたかったのは主張し切れず。
思わず、映画を観終わった後に感じたのが、「作り手には、もっと出来ることがあったはず・・・」ということでしたね。

それでも、及第点レヴェルかなと言えるのは、前述したようにパーツ・パーツでは良いものがあるからでしょう。

フレデリックは神格化されていきますが、そもそも首を切りつけられて、
血まみれで倒れていたのに、30kmもの夜中の道のりを歩いて、自力で病院へ行ったなんて“都市伝説”を
あたかも事実であるかのように信じろという方が無理な話しで、近所の人々もフレデリックを意図的に神格化して、
密造酒の取り締まりを弱くさせて、自分たちも酒を入手できるように彼を利用しているように見えます。

実際に禁酒法の時代も、酒を飲みたい人々は密造酒を買い、検挙された人も大勢いましたし、
密造酒を販売する連中に買収された警察官もいて、より腐敗した社会になっていたようで、
有名なのは密造酒の裏市場をギャングのアル・カポネが取り仕切っていたわけで、大変な時代だったようです。

ですから、ポンデュラント兄弟のような密売酒製造に投資して儲けていた人は数多くいたでしょうね。
しかし、当時は醸造の技術もそう高くはなかったと思いますので、よく独学で頑張ったと思いますよ(笑)。

映画はさり気なく、そんなことを描いているのですが、あくまでバイオレンスに満ちた日々を描くことがメインです。
もう少し、こういったポンデュラント兄弟を取り巻く環境を深掘りして描いた方が、僕は良かったと思いますね。
これは原作があるがゆえに難しかったのかもしれませんが、映画を俯瞰的に振り返って、作り手が気付くべきところ。
そういう意味では、映画全体で考えると、もっと訴求力のある骨太な映画にビルドアップできたと思うのです。

ちなみに原題は「無法者」という意味ですが、ポンデュラント兄弟も「無法者」と言えばそうですが、
彼らを執拗に追い、なんとか痛めつけてやろうと手段を選ばない特別捜査官のレイクスも、十分に「無法者」ですね。

そういう意味では、この映画も原作に従って、ポンデュラント兄弟の目線で描いた内容なのですが、
これがレイクスの目線を中心に描いた映画にしていたら、どんな仕上がりになったかが凄く気になります。
演じたガイ・ピアースが良かっただけに、レイクスを主人公に据えた方が良かったような気もしています。

(上映時間115分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 ジョン・ヒルコート
製作 ダグラス・ウィック
   ルーシー・フィッシャー
   ミーガン・エリソン
   マイケル・ベナローヤ
原作 マット・ボンデュラント
脚本 ニック・ケイヴ
撮影 ブノワ・ドゥローム
編集 ディラン・ティチェナー
音楽 ニック・ケイヴ
   ウォーレン・エリス
出演 シャイア・ラブーフ
   トム・ハーディ
   ゲイリー・オールドマン
   ジェシカ・チャスティン
   ジェイソン・クラーク
   ガイ・ピアース
   ミア・ワシコウスカ
   デイン・デハーン
   ノア・テイラー