LAUNDRY(2001年日本)

劇場公開時、ほとんど話題にならなかったけれども、
僕はこの映画の姿勢を断固として、支持したいと思いますね。

ストーリーにはやや難があるような気がしますが、
単純に映画の作り方としては極めて丁寧で好感が持てるし、実に堅実な映画だと思う。
ストーリーそのものを考えると、同じサンダンス映画祭で選出され、映画作りの支援を受けた企画としては、
00年の『Go!』の方が構成力において優れていたような気がします。

まぁ「満点の映画!」なんて言っちゃうと、「チョット褒め過ぎかなぁ」とも思うけど、
こういった映画のあり方に、明るい将来性を感じる分だけ、過大に評価したくなりますね。

主人公のテルは住宅街にあるコインランドリーで下着泥棒を見張る青年。
風変わりな街の人々に愛されながら毎日を過ごしますが、彼はやや自閉症気味。
一方でヒロインの水絵は郵便配達人と恋人関係になりながらも、彼に裏切られて以来、
万引きをすることにより彼女の中にあったストレスを解消し続けていた。

そんな水絵がコインランドリーに立ち寄り、覇気が感じられない様子でいながら、
テルは彼女に興味を抱き、彼女がコインランドリーに忘れた忘れ物を彼女の家まで届ける。

久しぶりに他人に話しかけられたことを、まるで水絵は喜ぶかのように、
そしてまるで彼女は魂が救われたかのように、嬉しそうにテルを無警戒にも部屋へ招き入れる。

水絵みたいな女性が、初めて会ったその日に「ウチに寄って、お茶でも飲んでいかない?」なんて言って、
いざ部屋に入って緊張して、さっさとお茶を飲んで帰ろうとすると、今度は手を握られて、
挙句、「5分だけでいいから、まだ居て」なんてうつむきながら言われちゃう光景を見て、
思わず「こんな上手い話しが、この世にあるわけがない」と思ってしまうのは、僕がモテないから?(笑)
何かに間違って、こんな羨ましい状況になったら、僕は“ハニー・トラップ”ではないかと疑うかも...(笑)。

窪塚 洋介もこの映画が製作された頃は、映画俳優としてのキャリアも伸びていた頃で、
いろんな意味でピークに到達しつつあった頃なだけあってか、存在感は異様に強いですね。

ただ難しかったかもしれないけど、彼の繊細な表現が前面に出たがゆえ、
テルの感情表現が曖昧になってしまったのは、賛否が分かれるところかもしれませんね。
確かに彼は「こういのは愛って言うんだよ」なんて簡単に言っちゃってますけど、
本質的にテルが水絵を愛していたかについて、この映画は言及し切れていません。
僕はこの点については、もっと明確にすべきだったと思うんですよね。

それでこそ、鳩を飼育する男から、突如として家などの固定資産を譲り受けた後、
2人っきりで生活を続けようとできたことに説得力を持たせられたと思いますね。
やや閉じこもったような性格のテルと、後ろめたい過去のある水絵。
この2人が何一つ感情が無い状態で、共同生活を送るなんてことは、どだい無理な話しだ。

そんな2人をつなぐものが何であったのか?
友情? 愛? それは、後者でなければ説明がつかないわけです。

台詞で表現することは簡単だけど、僕はもっと積極的に彼らの恋愛を描いて欲しかったですね。
どうにも微妙なニュアンスの中で、揺れ動くという繊細さに固執し過ぎてしまい、
結果的にテルと水絵の恋愛に、説得力を持たせられなかったような気がしています。

そこが本作唯一の大きな弱点と言っても、いいかもしれません。

過大評価かもしれませんが、僕はやはり本作の作り手の姿勢に感銘を受けましたね。
特に水溜りに関する一連の描写や、鳩の登場など、視覚的に非凡なセンスを感じさせられる。
それから水絵が悩まされる万引き癖に関する描写についても、鋭さがあり、緩急が上手く利いている。
この辺は、如何にこの映画の作り手が全体のバランスを意識しながら撮っているのかが分かります。

90年代以降、僕は日本映画の低迷が明確になった感があって、
極めて残念なのですが、映画の撮り方としては本作なんかは、お手本となるべき作品だと思いますね。
こういう好感の持てる作り方をした作品というのは、応援してあげなければ、更に向上していきません。

嬉しいことに、この映画を撮った森 淳一は本作の後にも数本の映画を撮っているようで、
創作活動は継続されています。やはりそうでなければ、日本映画界の活性化はありえませんね。

また、現代社会ではすっかり数が少なくなり、
その存在感が薄れつつあるコインランドリーをモチーフにするあたりも良いですね。
コインランドリーって、みんな着衣を洗濯するために訪れるわけで、
“物質的な洗濯”と“精神的な洗濯”をシンクロさせているのかもしれませんね。

完璧な映画とまでは言いませんが、これは価値のある映画だと思います。
期待値も含めて、個人的には絶賛したくなる作品の一本。

(上映時間126分)

私の採点★★★★★★★★★★〜10点

監督 森 淳一
製作 堀部 徹
    安藤 親広
原作 森 淳一
脚本 森 淳一
撮影 柴崎 幸三
美術 佐々木 尚
音楽 渡辺 善太郎
出演 窪塚 洋介
    小雪
    内藤 剛志
    田鍋 謙一郎
    村松 克己
    西村 理紗