新しい人生のはじめかた(2008年アメリカ)

Last Chance Harvey

時代遅れというレッテルを貼られたベテランCM音楽家ハービーが、
離婚をキッカケに離れ離れになり、ロンドンに暮らす愛娘の結婚式に出席するために、
ロンドンへ訪れるが、居心地の悪い結婚式と仕事でピンチに陥ったために、
すぐにニューヨークへトンボ帰りしようとするも、現地の女性との素敵な出会いに心が動く姿を描くロマンス。

ミニシアター系での劇場公開であったにも関わらず、
日本でも話題となった作品でありますが、映画の出来としてはまずまずといったところかな。

ダスティン・ホフマンとエマ・トンプソンの自然体なカップルのシルエットがなかなか良く、
これまでの映画界には無かったタイプの恋愛を描いているだけに、新鮮に映ったのでしょうね。
少々、厳しい意見ではありますが...個人的には絶賛するほどの内容ではなかったと思います。

この映画の何処に難点を抱えているかと言うと、
主人公2人の出会いの弱さなんですよね。さすがにヒースロー空港のランチだけでは、不十分だと思う。

言いたくはないけど...
さすがに主人公が突如として、“押し”が強くなって、恋愛に目覚めてしまって、
エマ・トンプソン演じるケイトに執着して、ロンドンの街中で彼女と散歩をするのですが、
僕にはあんだけ“押し”が強いとなると、もうダスティン・ホフマンがストーカーに見えて仕方ないんですもん(苦笑)。

できることなら、ハービーがあれだけ“押し”が強かったのに、
やや恋愛に食傷気味だったケイトが何故、ハービーを受け入れるのか、もっと説得力を持たせて欲しかったですね。

僕には、どうも2人の恋愛の“入口”が引っかかって今一つノレなかったんですよねぇ。
シナリオは比較的、丁寧に書かれている印象で、映画の序盤はまずまず上手く描けているようですので、
この映画の大きなポイントである、恋愛の“入口”さえキッチリ描けていれば、もっと良くなったと思います。

確かにケイトも決して若くはないのですが、どう見たってハービーとは
年齢の大きな差があることは明白であり、恋愛に対して一種の恐怖すら感じていたケイトにとって、
ハービーが陽気に近づいてきて、ゴリ押ししてくる様子は奇異に感じられる方が自然な気がしますけどね。。。

だって、ハービーはケイトが勉強会に出るためにと、
ヒースロー空港から乗った鉄道の離れた車両まで追ってきて、いきなり「付いて行っていい?」ですよ(笑)。
そりゃ、あんなに必死になってるハービーを見ちゃったら、誰だって警戒しますって(笑)。
まぁ・・・ああいったシーンそのものがマズいというよりも、ハービーの必死さにケイトが何故惹かれ、
どういう風にしてハービーを受け入れていくのか、この映画はそれをもっとしっかり描くべきだったと思いますね。

まぁこの映画の上手さと言えば、映画の序盤でハービーとケイトが2人とも、
それぞれの環境の中で強烈な疎外感を味わっている点で、これは地味ながらも、実に巧みに描けていると思う。
ジョエル・ホプキンスはあまり有名な映像作家ではありませんが、基本だけはしっかり押さえている作品で、
その中でも特に映画の序盤に於ける、2人の強烈な疎外感を演出できたのは、大きな収穫だと思いますね。

ああいう感覚って、ひょっとしたら誰しも一回は経験したことがあるのかもしれません。
色々なことが上手くいかなくなって、目の前にある出来事に全く集中できなくなってしまう。
あの感覚をシーン演出の中で、しっかりと表現できたことは本作の大きな特長だと思いますね。

主人公ハービーの“上手くいかない感”は半端なもんではありません。
仕事も上手くいっていないわけで、時代遅れというレッテルを貼られていて、仕事も“干されて”きていて、
ハービーも薄々、それに気づいているのですが、本人も頑として認めようとはせず、
仕事のパートナーから軽くあしらわれても、必死に食い下がって、猛烈な執念を燃やします。

そして愛娘の結婚式に出席するためにロンドンへ行くのですが、
元妻と会いたくないことに加えて、元妻の再婚相手ともできれば顔を会わせたくはない。
そんな中でも、ロンドンに着いてもどこか居心地が悪く、仕事の連絡が来る携帯電話は手放せません。

それにしても、この愛娘もいくら自分の結婚式だからとは言え、
個人的にはハービーに対する配慮ゼロな空気づくりに、チョットした違和感を感じていたのですが、
ジェームズ・ブローリン演じる彼女の義理の父親が、ハービーが突如として割り込んだ結婚式での挨拶を
許容したシーンで、なんとなく救いがあったような気がしますね。ああいう瞬間こそが、ハービーが人生を前向きに
進めていく良いキッカケになっているはずであって、この映画にとってはとても重要なシーンだと思うんです。
(ハービーの娘も、バージンロードを一緒に歩くのは継父であることを、結婚式の前日に伝えるなんて・・・)

あまりこういう言い方はしたくないのですが、
ハービーもケイトにしても人生の終わりを意識する年頃になってきて、老後の心配がある。
ケイトは母親が健在であり、母親の存在によって、日常生活が左右されてしまっていることは否めない。

そんな中で、2人は恋に落ちるわけですから、この世代に訴求する力はあるのかもしれません。

そういう意味で、どちらかと言えば、本作は年配の方々にウケたのかなぁ。
正直、僕は映画の出来としては、称賛するほどの出来ではないと思ったのだけれども、
前述したように、劇場公開時に評判が良かったのは、同じ世代の人々が共感する部分が多く、
ハービーとケイトの境遇や恋愛に共感する人が多かったことの裏返しではないかと思うんですよね。

特に日本でも、団塊の世代の方々に映画ファンって、多いですから、上手くフィットするものがあったのでしょうね。

それにしても、ダスティン・ホフマンは若いなぁ〜。
そりゃ、エマ・トンプソンよりは明らかに年上なんだけれども(笑)、撮影当時70歳とは思えぬ若々しさ。
いつまでも少年のような笑顔を忘れず、まだまだ役者としても元気なのは嬉しいですね。
本作のような映画で、チョットしたロマンスをも演じられるというのは、実に息の長い役者であることの証明ですね。

ロンドンの市街地の抜群のロケーションの良さはしっかりカメラに収まっています。
まるで観光PRフィルムみたいですが(笑)、ロンドンが好きな人には是非ともオススメしたいですね。

(上映時間92分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ジョエル・ホプキンス
製作 ティム・ペレル
    ニコラ・アスボーン
脚本 ジョエル・ホプキンス
撮影 ジョン・デ・ボーマン
編集 ロビン・セイルズ
音楽 ディコン・ハインクリフェ
出演 ダスティン・ホフマン
    エマ・トンプソン
    アイリーン・アトキンス
    ジェームズ・ブローリン
    キャシー・ベイカー
    リチャード・シフ
    リアーヌ・バラバン