ラスト・アクション・ヒーロー(1993年アメリカ)

Last Action Hero

これは実に説明しづらい映画だ(笑)。

人気映画シリーズとしてシュワちゃんが抱える『ジャック・スレイター』シリーズのファンである、
ニューヨークに暮らす映画大好き少年ダニーが、いつも通う映画館の館主からもらった、
謎の映画チケットの半券の不思議な魔力によって、突如として映画の世界に入り込んでしまい、
ダニーは夢のような映画『ジャック・スレイター』の世界を味わうものの、主人公と共に追っていた、
悪党がダニーの秘密を知ってしまったことから、現実世界をも巻き込んで大騒動になるアクション映画。

監督は『ダイ・ハード』のジョン・マクティアナンで、
悲しいかな、本作は今となっては忘れ去られてしまったような存在で実に残念なのですが、
僕はこの映画、ある意味で夢の集合体のような企画であり、遊び心溢れる、とっても楽しい映画だと思う。

映画の中では、コメディ色も豊かにしており、
子供たちもしっかり楽しめるように配慮されているのですが、おそらくこれが賛否両論だったのでしょう。

どうやら、劇場公開当時、ゴールデン・ラズベリー賞[ラジー賞]に大量ノミネートされたらしいのですが、
個人的にはそれほど映画の出来が悪いとも思えず、エンターテイメントとしては十分に楽しめることから、
アクション映画が飽和状態になってしまった90年代前半に製作されたということが不運だったなぁと思いますね。

日本ではあまり有名な映像作家ではないのですが、
かつて『ダイ・ハード』など世界的ヒット作を数多く手掛けたジョン・マクティアナンなだけあって、
しっかりと映画のツボを分かっているようで、キチッとセオリー通りに楽しませてくれるのはさすがですね。
最近のハリウッドでもそうそう多くはいない、とっても貴重な人材なんですがねぇ〜・・・。
やはり、ジョン・マクティアナンにはもう一度、ハリウッドのメインストリームで活躍して欲しいですねぇ。

この頃のジョン・マクティアナンは文字通り、絶好調の時期で
『ダイ・ハード』から始まって、『レッド・オクトーバーを追え!』、『ダイ・ハード3』など
次々と大きな企画を任されるなど、ある程度のヒットが見込める確実性のある映像作家でした。
おそらくハリウッドのプロダクションからの信頼度も高く、ヒット・メーカーとしての地位を確立していましたね。
やはり彼のキャリアを考えれば、01年の『ローラーボール』のリメークに挑戦して失敗したのが痛かったかな。
21世紀に入ると、それまでの活躍がウソのように彼の創作活動は低迷してしまいましたね。

本作は遊び心ばかりが炸裂してしまったせいか、あまり評価されませんでしたが、
彼なりのサービス精神を炸裂させて、エンターテイメントに徹したあたりは、とても立派な姿勢だったと思う。

本作なんかも、見事にシュワちゃんを使いこなしていますもんね(笑)。
こんなんできるのは、ジョン・マクティアナンぐらいなもんでしょ。これは実に凄い職人芸ですよ(笑)。

結構、贅沢に予算を投じたと思われるハブリーな内容の映画で、
おそらくジョン・マクティアナンもヤケになって製作したんじゃないかと思えるほど豪華で、
勢い余って、ティナ・ターナー、シャロン・ストーン、ジャン=クロード・ヴァン・ダムらがカメオ出演しています。

世評では本作は失敗作扱いされているらしいのですが、
これだけ贅沢に遊び心を生かして作られた作品ってほとんど無いせいか、
どうしても映画の出来以上に、ひょっとしたら僕の基準が甘くなっているのかもしれませんね(笑)。
でも・・・やっぱり僕はこういう映画も大切にしたいと思うんですよね。だって、そうそうできないですもん。

そういう意味では、B級映画が大好きな人には是非ともオススメしたいですね(笑)。
とてもチープな部分にこだわりを持っているかのような映画で、B級映画好きにはたまらないと思います。

欲を言えば、上映時間が長くて、この内容で2時間超えるのは少しキツい。
もう少し編集でも工夫して、割愛できる描写は割愛して、映画全体をスリムにするべきですね。
映画を通して観ると、もっとカットできるエピソードなどは確実にあったと思うんですよねぇ。

それともう一つ言えることは、せっかく映画自体は楽しいのだが、
あくまで映画はシュワちゃん映画の大ファンであるダニー少年の視点で描いて欲しかった。
ダニー自身を描くことはいいのですが、映画の視点はダニーでなくてはならない。
本作を観ていると、映画の視点がシュワちゃんでもなければダニーでもない第三者になっていて、
「ダニーと一緒に映画の世界を冒険する映画」ではなく、「映画の世界を冒険するダニーを描く映画」になっており、
これでは映画で描かれるアドベンチャーが主観的なものではなく、どこか客観的なものになってしまう。

そうなると、どうしても映画が熱くならないというか、盛り上がらないんですよね。
シュワちゃんと冒険することが楽しむではなく、シュワちゃんの冒険を楽しむ少年を映しているのですから。

それから、本作のようなタイプの映画によくいる、ヒロインが登場してこないのも賛否両論かなぁ。
確かにどの人物との恋愛を描くのかという問題はあるけど、映画に“華”がないのは勿体ない。
シュワちゃんの娘役でブリジット・ウィルソンが出演していたのですが、彼女もなんだか中途半端でしたね。

おそらく当時のシュワちゃんはマネーメイキング・スターとしての地位と確立しており、
88年の『ツインズ』から本格的にコメディ映画に進出するなど、徐々にキャリアを広げていましたが、
決してシリアスなドラマにチャレンジすることはなく、おそらく彼自身、それはできないと考えていたのでしょう。
とすれば、おそらく俳優としての可能性の限界を悟っていたであろうと予想されるわけで、
ひたすら肉体を酷使し続けるアクション・スターとして活躍することは先細りすることは見えていました。

本作劇場公開当時、シュワちゃんは既に50歳を目の前に迎えており、
おそらく彼のエージェントも一緒になって、今後のキャリアについて方向を模索していたのだろう。

その中で本作に出演したのは、可能性を広げる一貫というよりも、
それまでのキャリアを総括するようなパロディ要素がいっぱいな映画に出演することで、
やはりそれまでのキャリアに一つの区切りを付けようと、意識していたのではないでしょうかねぇ。
当時の妻、マリア・シュライバーを出演させ、映画の中で私人アーノルド・シュワルツェネッガーを登場させたり、
映画俳優としての表情をのぞかせるあたり、本作にかける想いは結構、強かったのではないかと思います。

まさか当時、シュワちゃんの次のステップがカリフォルニア州知事だったなんて、
思いもよらなかったことではありますが、意外に将来について悩んでいたのかもしれません。

しかし、断言してもいい。僕はこの映画を過小評価だと思う。
遊び心ある“お祭り映画”として、見直されるべき一本だと言っても過言ではないと思う。

(上映時間130分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 ジョン・マクティアナン
製作 スティーブ・ロス
    ジョン・マクティアナン
原案 ザック・ペン
    アダム・レフ
脚本 デビッド・アーノット
    シェーン・ブラック
撮影 ディーン・セムラー
音楽 マイケル・ケイメン
出演 アーノルド・シュワルツェネッガー
    オースティン・オブライエン
    アンソニー・クイン
    フランク・マーリー・エイブラハム
    チャールズ・ダンス
    ブリジット・ウィルソン
    アート・カーニー
    トム・ヌーナン
    マーセデス・ルール
    ロバート・プロスキー
    ジョアン・プローライト
    アンジー・エバーハート
    ノア・エメリッヒ

1993年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト作品賞 ノミネート
1993年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト主演男優賞(アーノルド・シュワルツェネッガー) ノミネート
1993年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト監督賞(ジョン・マクティアナン) ノミネート
1993年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト脚本賞(デビッド・アーノット、シェーン・ブラック) ノミネート
1993年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト音楽賞(マイケル・ケイメン) ノミネート