幸せの教室(2011年アメリカ)

Larry Crowne

長年、海軍のコックとして従軍した男が退役し、
その後、真面目一筋でスーパーマーケットで勤勉に働いていたにも関わらず、
学歴が無いから今後の出世が望めないという理由一つで会社から解雇されてしまったことから、
自身の生活・経歴を見直し、60歳を目の前にして大学へ通い始める日々を描いたヒューマン・ドラマ。

人気ハリウッド俳優のトム・ハンクスによる、
第二回監督作品がこんなコンパクトなスケールの映画だなんて、正直言って意外だったんですが、
映画の出来としてはそこまで悪くない。自身で主演もしていて、タイトルになっているラリーを彼が演じています。

一旦は会社を解雇になったせいもあって、妙に暗くなってしまうのですが、
大学に通おうと決心した後からは、何故か主人公はポジティヴ・シンキングになることができて、
スクーター仲間のサポートもあってか、やたらとキャンパス・ライフをエンジョイし始める姿が印象的だ。

日本でも社会人入学なんかがメジャーになって、
僕が大学時代から年齢が大きく離れている方々が大学に通うなんて光景は普通にあったし、
そういう方々って、社会経験が豊富だったりするから、むしろ友人を多く作れている気がしました。
まぁ・・・勿論、人によるだろうし、その環境にもよるのだろうとは思いますが、20歳そこそこの学生にとっては、
ほぼ間違いなく持っていないものを持っているし、年齢的なハンデを埋めようとモチベーションが大きく異なります。

事実、本作でトム・ハンクスが描いた、彼自身が演じた主人公ラリー・クラウンは
ただキャンパス・ライフをエンジョイして終了という大学生活というわけではなく、それ以上に勉強しています。

勉強すればいいというわけでもないけど、やはり誰よりも知識を吸収したいという気持ちが強かったのでしょう。

僕は知識というのは、やたらと持っていればいいというわけではないにしろ、
やはり知識は持っていることに越したことはないと思うし、大きな成果を出すためには必要不可欠だと思う。
但し、その知識を多く付ける“時期”って、確実にあると思うんですよね。それはやはり20歳前後まででしょう。
勿論、それからも知識は付けられるし、それ以上に多くの経験ができるのですが、10代の頃と脳も変わってきます。

知識があってもそれを生かせない人も困るんだけど、
そういう意味では、30代、40代になってから知識を得ようとするのは、かなりの難儀ではある。
結果として、それができるかできないかはともかく、そもそも知識を得ようという気持ちになれること自体が凄いと思う。

90年代なら、トム・ハンクスとジュリア・ロバーツというキャストもありえなかったのですが、
今となっては、こういう共演もあるんですね。おそらく、トム・ハンクスの希望も強かったのでしょうけど・・・。

それだけトム・ハンクスにも強い思い入れがあって実現した作品だと思うのですが、
欲を言えば、この映画では「生涯学び続ける」という姿勢の尊さを描いて欲しかった。
とても大袈裟に聞こえてしまいますが、とっても分かり易く言うと、主人公がスピーチや経済の講義に出て、
何を得たのかということを、もっと具体的に表現して欲しかったということで、何か一つ些細なことでいいので、
映画の中で的確に表現できていれば、おそらくの映画の印象はとても大きく変わったと思いますね。

見方を変えると、ヒロインの女性教師を演じたジュリア・ロバーツも
いくら大学とは言え、教育者であることには変わりはないわけで、彼女が教壇に立ち続けるにあたっての
信念や理念みたいなものを僅かでいいので、映画のエッセンスとして加えて描いて欲しかったですね。

映画を教育的にしろという意味ではなく、
「生涯学び続ける」姿勢の尊さや、ヒロインの教育者としての理念といったものは、
彼らの人物像を浮かび上がらせるために必要不可欠な描写であり、映画の説得力に関わる部分ですから。

映画の序盤で描かれていたように、どうやらヒロインは大学内にも彼女に一目置く存在があったようですが、
そういった部分が何故、彼女が得ているのか、本作で描かれたヒロインの大学での日々を観る限りでは、
そこまでの人間的魅力や教育者としての力量の高さを感じさせる作りにはなっていないのが残念ですね。

まぁ・・・過剰に描く必要はないと思うのですが、
せっかくトム・ハンクスの演出は、1シーン1シーン大事に撮っているのが分かるだけに、
どうもこういう難点を抱えてしまっていること自体が、僕にはとても勿体ないことにしか感じられないんですよねぇ〜。

せっかく学校を舞台にした映画なのに、
極論、物語の舞台は学校でなくても、大勢に影響は及ばない映画という位置づけで終わってしまうのは勿体ない。

残念ながら全米でも高い評価を得ることはできなかったようですが、
それでも映画の終わり方は悪くない。本作はラストの上手さで大きく救われた面はありますね。
描き足りない部分はあったけれども、妙な後味を残さず、爽快に終わらすことができたのが良いですね。
(まぁ・・・ディズニー配給の映画ですから、あまり変なラストにはできなかったとは思いますが・・・)

映画の根本を覆す意見かもしれませんが、
極端な話し、僕はトム・ハンクスとジュリア・ロバーツの恋愛を描かない方が良かったと思う。
やはり生徒と教員の恋愛を描くこと自体、難しさを感じてしまうのですが、言ってしまえば、不倫の恋を
アッサリとキレイに描こうとするあたりが、いろんな意味で違和感を感じずにはいられなかったなぁ〜。

特にこの映画の主人公、ラリー・クラウンは離婚経験はあれど、
勤勉に働いてきていたサラリーマンで、こういう恋愛に傾倒していくまでの納得性は弱いかなぁ。

この辺はトム・ハンクス自身が監督しているせいか、あまり冷静に観れなかったのかもしれません。
彼自身でシナリオも書いているので、個人的にはもう少し客観的になっても欲しかったんだけど・・・。

(上映時間98分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 トム・ハンクス
製作 トム・ハンクス
    ゲイリー・ゴーツマン
脚本 トム・ハンクス
    ニア・ヴァルダロス
撮影 フィリップ・ルースロ
編集 アラン・コディ
音楽 ジェームズ・ニュートン・ハワード
出演 トム・ハンクス
    ジュリア・ロバーツ
    ブライアン・クランストン
    セドリック・ジ・エンターティナー
    タラジ・P・ヘンソン
    ググ・ンバータ=ロー
    ウィルマー・バルデラマ
    リタ・ウィルソン
    パム・グリアー
    ジョージ・タケイ
    ジョン・セダ