炎のメモリアル(2004年アメリカ)

Ladder 49

「9・11」で命を落とした消防士に捧げる映画と聞いていたのですが...

確かに出来が悪い映画というほどではないのだけれども、あまりに型にはめ過ぎたドラマという感じで、
あたかも職に命を捧げることが尊いみたいな描き方が、個人的に少し引っかかる部分があるかなぁ。

いや、勿論、消防士は勿論のこと、警察官や救命士といった、
時には自らの命を顧みずに、他人の命を助けに行かなければならないという職業の尊さは感じるし、
社会的にも大きな役割を果たす、実に意義深い職業であるからこそ、誰かがやらなければならない仕事だと思う。
だからこそ、彼らのような存在を否定することなどできないし、時に英雄的存在が誕生することもあるだろう。

ホアキン・フェニックスって、どこか危うい空気を持つ雰囲気がある俳優のせいか、
どうも本作のようなピュアな役柄って、イマイチ合っていないような気もするんだけれども、
僕は彼なりに一生懸命頑張っていると思うし、ある意味で幅を広げた仕事になったという気もする。

けれども、やっぱり僕は正直言って、この映画の描き方は気になって仕方がなかった(苦笑)。

監督のジェイ・ラッセルって、00年の『マイ・ドッグ・スキップ』で高く評価されたのですが、
本作のようなエンターテイメント性の高い映画は初めてというか、ここまで規模が大きな企画自体、
初めてだったのかもしれず、どこか映画の冒頭からストーリーテリングが上手くないなぁと感じていたのですが、
それ以上に消防士の日常の仲間意識の強さこそが、映画の終盤の感動をプッシュしているのでしょうが、
どうも幾度となく一体感を持つことが美しいみたいな、主張の強さがチョット鼻についたかなぁ。

いや、勿論、体育会系のノリって分からなくはないし、
それが美しくないなんて言わないけれども、チョット描き方が画一的というか、一方的過ぎるように見えた。
ある意味で80年代前半の日本のテレビドラマの世界のようなものを賛美している感じで、
「9・11」以降、突如としてアメリカ人の価値観が20年以上戻ってしまったのかと思ってしまった。

ただ、今の時代って、仕事をする以上は安全でなければならないという考えがあるから、
こういう危険を顧みずに、命を投げ出してでも仕事に身を捧げるという考え自体は、肯定されないでしょうね。

そういう意味では、少しばかり時代遅れな映画というイメージもあって、
どうにも今の感覚で本作観ると、若干の違和感を感じるかもしれませんね。
この映画が好きな人には、大変申し訳ないけど...僕の中では、このギャップが埋められなかったんですね。

消防署で主人公の上司を演じるのは、ジョン・トラボルタなのですが、
彼もさすがにベテラン俳優としての貫禄でしょうか、本作ではほとんど出番が無いですね(苦笑)。

映画のクライマックスで少しばかり回想するシーンで登場しますが、
消防署のリーダーとして、部下たちを統率する立場として働くのが基本スタイルかと思いきや、
一応は実際の火事現場で消火活動を行うこともあったようですが、これは映画で描かれていません。
そのせいか、どうにも主人公の成長を見届けてきたという発言に説得力が弱いですね。

どうも、そういった一つ一つを見ていくと、お世辞にも映画の運びが上手いとは言い難い。
この辺はジェイ・ラッセルの経験値が低いということが災いしてしまったのかもしれませんね。
どうしても、この映画は『バックドラフト』と比較されてしまうけど、それは内容的に仕方ないことで、
『バックドラフト』なんかと比べると、ストーリーテリングのマズさが際立って目立ちますね。

まぁ・・・どちらかと言えば、サスペンスフルに描いた『バックドラフト』と比べると、
本作はドラマに重心を置いた内容ではありますが、やっぱり『バックドラフト』と比較されると、キツいですね(苦笑)。

映画の冒頭から、物語の核心をつくシーンから始まりますが、
消防活動は勿論のこと、燃え盛るビルで救助活動を行う困難が、見事な迫力で表現されています。
この一連のシーン演出こそ、『バックドラフト』に匹敵すると言っても過言ではないと思うのですが、
やはりストーリーテリングで足を引っ張ってしまったせいか、肝心かなめのドラマ部分がイマイチなんですね。

むしろ本作の場合は、ドラマ部分が良くないというのは致命的な難点になってしまいますね。

主人公が彼の妻となる女性とスーパーマーケットで運命的な出会いを果たすシーンにしても、
幾度となく映画の終盤でジョン・トラボルタが挨拶をするシーンを描くにしても、どこかあざとい気がしてしまう。
おそらく「9・11」の救助活動の中で犠牲となってしまった人たちへの追悼の意思もあったのだろうけど、
作り手のそういった想いが強ければ強い分だけ、本作にとってはマイナスにはたらいてしまった気がします。

個人的には、こういう映画って、作り手が感情的にやればやるほど、
映画の仕上がりは悪くなってしまう印象があって、どれだけ冷静に描けるかが勝負だと思うんですよね。
本作にしても、大きなテーマがあること自体はよく分かるので、あくまで冷静に描くことに徹して欲しかったですね。

この辺はシナリオの問題もあるかとは思いますが、
最も決定的なのはスタッフに、こういったバランス感覚に優れたブレーンがいなかったということではないでしょうか。

日本でももっと注目される要素はあった映画だったイメージがあったのですが、
結果的にはあまりヒットすることなく、アッサリと劇場公開が終了してしまった理由が、なんとなく分かりますね。
大きく出来が悪い映画というほどではありませんが、少しずつ上手くない分が積み重なってしまって、
最終的な映画の仕上がり自体、足りない部分が数多く散見されてしまったというイメージなんですね。

本来的には、この映画はもっと登場人物の一体感を画面に吹き込まなければいけなかったと思う。
前述したように、体育会系のノリがある映画だからこそ、そういった空気感の良さというのを
もっと定着させないと、どうしても映画のラストでの感動は弱くなってしまいますね。

それを定着させることができなった割りに、
幾度となく消防士たちのイタズラや、悪ノリ、飲み会のシーンが描かれて、
ひたすら楽しそうに過ごしているのですが、それが逆に中途半端で良くなかったような気がしますねぇ。

とすると、明確な答えを出すのは難しいのですが、
体育会系のノリの良さ、そういった空気感というものを描く上で、とても大事なものが欠落していたのでしょうね。

作り手が何をどう描きたいのかはハッキリとしている作品なだけに、
結果的に話しの運びの悪さで、映画の出来が悪くなってしまったのが、ホントに勿体ない。

(上映時間114分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

監督 ジェイ・ラッセル
製作 ケイシー・シルヴァー
脚本 ルイス・コリック
撮影 ジェームズ・L・カーター
音楽 ウィリアム・ロス
出演 ホアキン・フェニックス
    ジョン・トラボルタ
    ジャシンダ・バレット
    ロバート・パトリック
    モリス・チェスナット
    ビリー・バーク
    バルサザール・ゲティ
    ジェイ・ヘルナンデス