L.A.コンフィデンシャル(1997年アメリカ)

L. A. Confidential

ジェームズ・エルロイ原作のハードボイルド小説の映画化作品。
50年代のロサンゼルスを舞台に、実在の人物をモデルにして、腐敗した警察内部組織を描いた刑事映画。

92年に『ゆりかごを揺らす手』で成功したカーチス・ハンソンがメガホンを取り、
後に脚本家として評価されるブライアン・ヘルゲランドが脚色し、本作の仕事が彼を大きく飛躍させました。

まぁ、映画を観ただけで脚本の良し悪しを判断するって、凄く難しいことだとは思いますが、
本作はカーチス・ハンソンの演出も良く、話しの運びも良く、キャストのアンサンブルも実に良い塩梅となると、
やっぱり脚本が良く書けていたのだろうとは思います。もっと言えば、原作の時点で良かったのだろうけど。

個人的にはジャック・ビンセンスを演じたケビン・スペイシーは“いつもの調子”だなとしか思わないのですが、
この映画はエド・エクスリーを演じたガイ・ピアースが良い。彼が本作の主人公であると言っても過言ではない。
オスカーを受賞したキム・ベイシンガーも悪くはないが、実在の女優ベロニカ・レイクに似ているかと聞かれると、
そこはやっぱり微妙なところで、キム・ベイシンガーにしか見えない(笑)。でも、それで良かったと思います。
何もかも、無理に実在の人物に似せなければならないというほどの重要性は本作にはないと思いますしね。

まぁ、劇場公開当時は主要キャストがみんな似たような顔しているように僕には観えていて(笑)、
恥ずかしながら区別がつかなかったのですが、ラッセル・クロウも一気にスターダムを駆け上がりましたからね。

この映画には50年代ハリウッドの優雅なムードが画面に漂っている。
縄張り争いが激化し、そこに腐敗したロサンゼルス市警の連中が絡んでくるわけですから、
ドロドロとした人間関係が渦巻く抗争に発展していくわけですが、この優雅なムードと対照的なストーリー構成だ。

映画は、女性も暴力に振るう男には徹底して痛めつける性格をする刑事バドのアップカットから始まり、
家庭内暴力を振るう暴力亭主の犯行現場に乗り込んで行って、被害者を解放するクリスマスの夜がスタート。
警察署ではパーティーをやるので早く戻ろうとするバドの相棒ステンズランドを車の後ろに乗せて、
警察署へ戻る途中、小さな酒屋に立ち寄るバドでしたが、そこにベロニカ・レイク似の女性リンと出会う。

そしてリンが乗ってきた車に、暴力を振るわれた可能性を匂わせる鼻に包帯を巻いた女性がいることに
気付いたバドが彼女に声をかけに行きますが、これが富豪ピアースの車で用心棒のバズが車から出てきます。
ステンズランドはバズのことを知った顔で、元刑事だと吐き捨てるように言います。彼が戻った警察署では、
パーティーの準備の最中、同僚の警察官をリンチしたとされるメキシコ人の男たちが逮捕されたと聞きつけ、
激怒したステンズランドが、当直主任のエドを押し切って、留置されるメキシコ人たちに襲いかかることで、
新聞のスクープの対象となるスキャンダルに発展し、関わった当事者たちは処分を受けることになります・・・。

この事件がキッカケとなり、内部の不正を正すべく証言したエドは上層部から評価されて出世し、
「泣いてもらう」ことになったステンズランドはクビに、暴力沙汰に加わったバドは一時停職になり、
ジャックは彼の好きなテレビドラマのアドバイザーの仕事を降ろすと“脅され”、風紀課へ異動となります。

しかし、バドのことを評価する刑事課の上司ダドリーは彼にバッジを返却し、
ダドリーの特命のもとで、バドは腕っぷしの強さを買われて、事情聴取する者たちを痛めつける役割を与えられます。
そこにバドが一目惚れしていたリンが絡んできて、実はそのリンはピアースに雇われた娼婦だったりと、
次々と映画の方向性に影響を与える事実が明るみになっていき、少しずつ映画の全体像を構築していきます。

そう、この映画は一気に事実へと近づくタイプの映画ではなく、
多少なりとも右往左往しながら、徐々に映画の輪郭を浮かび上がらせるようなアプローチなので、
観る者も自分の頭の中で整理しながら観なければならないので、結構、混乱させられるタイプの映画かもしれません。

決してブライアン・ヘルゲランドのシナリオが混乱した構成になっているわけではないのですが、
正攻法で謎に迫っていくので、事実に向って一直線に進んでいく映画というわけではありません。
いろんなエピソードが出てきますので、観客も映画が進むにつれて、頭の中を整理して観ないといけません。

僕がこの映画、ガイ・ピアース演じるエドが良いなぁと思ったのは、
ただの“出世の鬼”なのか、何かしらの反骨精神を持っている警察官なのか、真意がハッキリと見えないのですが、
これは彼自身が“出世の鬼”と周囲から見られていると自覚していることを、逆に利用している部分があって、
それを彼がホントにやりたい刑事課での職務に利用していることで、映画に良い意味での“コク”を生んでいると思う。

そして、そんなエドのことを最初は懐疑的に見ていたはずのケビン・スペイシー演じるジャックも、
エドと行動を共にするうちに、エドの信念とエドの“嗅覚”に間違いはないなと実感したのか、
いつしかエドと一緒に事件の調査を進めているという展開が、凄く良い。下手をすれば、エドは信頼を得られなかった。
しかし、類型的な描写でもなく、どこか一方的な視点から描いたというわけでもなく、上手くバランスをとっている。

こうして映画が終盤に差し掛かって、一気にエンジンがかかったように映画が進んでいくのが印象的だ。

特にバドが持ち前の強引な調査手段に出て、判事のオフィスに乗り込んで行って、
オフィスの窓から“吊るし下げ”にするシーンは、ほぼ間違いなく本作のハイライトであり、ここは良い緊張感がある。
個人的にはクライマックスの銃撃戦は今一つに感じられたのですが、この“吊るし下げ”のシーンは最も印象に残る。

この映画が一気に動き出す原動力となったのは、正に“ダイイング・メッセージ”とも言うべき、
「ロロ・トマシ...」という言葉だ。これまでは点でしかなかった疑惑の数々が、線でつながって予想外の真相に迫る。
ややもすると、どう真相を暴くべきなのかと躊躇しそうなところを、本作は若き正義を貫き通す力強さを描いています。

確かに映画の様相としてはハードボイルド・サスペンスなのかなぁとも思わせるんだけれども、
僕は根本的には本作は刑事映画だと思っていて、自分たちが正しいと思ったことを貫く尊さを描いていると思う。
エドは“出世の鬼”と見られるイメージを利用していながらも、彼の信念や彼のやりたいことを貫き通すのです。

しかし、エドは弱々しいエリート警察官というだけではないぞと思わせるのは、
映画の中盤にある尋問のシーンであり、このシーンを観る限りではダドリーもエドの“落とす”能力を買っている。
完全にビビッている逮捕された連中を手玉に取るように、知りたい情報を抜き取る姿にエドの才覚を感じさせる。
それがゆえに、映画のクライマックスで同じ部屋で僅かに笑みを浮かべながら調査に応じる彼の姿が印象的だ。
当然の如く、彼は警察官たちの尋問の“手口”は分かっているわけで、それを楽しむかのような不敵な笑みです。

本作は97年度の映画賞レースで目玉の作品の一つとなりましたが、
いかんせん相手が悪かった。この年は『タイタニック』が対抗馬でしたからね。本作含めて、97年は豊作の年だったと
記憶していますが、本作も他の年に劇場公開されていれば、もっと高く評価されていたかもしれませんね。

ただ、大傑作かと聞かれると、僕はそこまでだとは思っていないというのが本音。
クライマックスの銃撃戦はそれなりに頑張った出来映えではあるけど、建物の内側からだけではなく、
外側からも描いて欲しかった。やはりどこかで、悪党が悪党らしく牙をむくシーンが欲しかったので、少々物足りない。

そこからつながるラストシーンも、清々しいまでの解放感に満ち溢れた、
友情を象徴するラストではあるのですが、これもどこか絵的にキレイ過ぎるなぁ(笑)。ほぼ、イチャモンだけど(笑)。

特にバドとリンの恋の行方は、この結ぶは甘過ぎると思った。
これがジェームズ・エルロイの世界なのかもしれないが、個人的にはもう少しホロ苦い帰結の方が魅力的だったなぁ。
これは単純に好みの問題なのかもしれませんが、この終わりにハードボイルドっぽさは感じられないよねぇ。

監督のカーチス・ハンソンは本作の仕事で、トップクラスの映画監督の仲間入りを果たしました。
本作ではフィルム・ノワール調の演出を見せてくれましたが、落ち着いたドラマなども撮ったり、
コメディを撮ったりと、結構器用なタイプのディレクターですね。日本でももっと知名度が上がってもいい人なのですが。。。

(上映時間137分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 カーチス・ハンソン
製作 アーノン・ミルチャン
   カーチス・ハンソン
   マイケル・ネイサンソン
原作 ジェームズ・エルロイ
脚本 ブライアン・ヘルゲランド
   カーチス・ハンソン
撮影 ダンテ・スピノッティ
編集 ピーター・ホーネス
音楽 ジェリー・ゴールドスミス
出演 ケビン・スペイシー
   ラッセル・クロウ
   ガイ・ピアース
   キム・ベイシンガー
   ジェームズ・クロムウェル
   ダニー・デビート
   デビッド・ストラザーン
   サイモン・ベイカー
   ロン・リフキン

1997年度アカデミー作品賞 ノミネート
1997年度アカデミー助演女優賞(キム・ベイシンガー) 受賞
1997年度アカデミー監督賞(カーチス・ハンソン) ノミネート
1997年度アカデミー脚色賞(ブライアン・ヘルゲランド、カーチス・ハンソン) 受賞
1997年度アカデミー撮影賞(ダンテ・スピノッティ) ノミネート
1997年度アカデミー音楽賞<オリジナルドラマ部門>(ジェリー・ゴールドスミス) ノミネート
1997年度アカデミー美術賞 ノミネート
1997年度アカデミー音響賞 ノミネート
1997年度アカデミー編集賞(ピーター・ホーネス) ノミネート
1997年度全米俳優組合賞助演女優賞(キム・ベイシンガー) 受賞
1997年度全米映画批評家協会賞作品賞 受賞
1997年度全米映画批評家協会賞監督賞(カーチス・ハンソン) 受賞
1997年度全米映画批評家協会脚本賞(ブライアン・ヘルゲランド、カーチス・ハンソン) 受賞
1997年度全米脚本家組合賞脚色賞(ブライアン・ヘルゲランド、カーチス・ハンソン) 受賞
1997年度イギリス・アカデミー賞編集賞(ピーター・ホーネス) 受賞
1997年度イギリス・アカデミー賞音響賞 受賞
1997年度ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞作品賞 受賞
1997年度ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞監督賞(カーチス・ハンソン) 受賞
1997年度ボストン映画批評家協会賞作品賞 受賞
1997年度ボストン映画批評家協会賞助演男優賞(ケビン・スペイシー) 受賞
1997年度ボストン映画批評家協会賞監督賞(カーチス・ハンソン) 受賞
1997年度ボストン映画批評家協会賞脚本賞(ブライアン・ヘルゲランド、カーチス・ハンソン) 受賞
1997年度シカゴ映画批評家協会賞作品賞 受賞
1997年度シカゴ映画批評家協会賞監督賞(カーチス・ハンソン) 受賞
1997年度シカゴ映画批評家協会賞脚本賞(ブライアン・ヘルゲランド、カーチス・ハンソン) 受賞
1997年度ニューヨーク映画批評家協会賞作品賞 受賞
1997年度ニューヨーク映画批評家協会賞監督賞(カーチス・ハンソン) 受賞
1997年度ニューヨーク映画批評家協会賞脚本賞(ブライアン・ヘルゲランド、カーチス・ハンソン) 受賞
1997年度ロサンゼルス映画批評家協会賞作品賞 受賞
1997年度ロサンゼルス映画批評家協会賞監督賞(カーチス・ハンソン) 受賞
1997年度ロサンゼルス映画批評家協会賞脚本賞(ブライアン・ヘルゲランド、カーチス・ハンソン) 受賞
1997年度ロサンゼルス映画批評家協会賞撮影賞(ダンテ・スピノッティ) 受賞
1997年度ロンドン映画批評家協会賞作品賞 受賞
1997年度ロンドン映画批評家協会賞監督賞(カーチン・ハンソン) 受賞
1997年度ロンドン映画批評家協会賞脚本賞(ブライアン・ヘルゲランド、カーチス・ハンソン) 受賞
1997年度ゴールデン・グローブ賞助演女優賞(キム・ベイシンガー) 受賞