ノウイング(2009年アメリカ)

Knowing

50年間、タイムカプセルに埋められていた数字の暗号が、
人類が苛まれる災害の日付と、被災人数を示していることを解読した大学教授が、
何とかして近く起ころうとしている災害を周知し、被災人数を無くそうと奔走する姿を描いたSF映画。

監督は04年に『アイ,ロボット』を発表したアレックス・プロヤスで、
今回はハリウッド映画のセオリーをほぼ完全に無視した驚愕のストーリー展開と、
圧倒的なまでの災害シーンに於ける映像表現で、ある意味で大きく驚かされました。

まず、セオリーをほぼ完全に無視した点ですが、
これは映画の序盤はいいのですが、終盤は完全に暴走状態で唖然とさせられます。

何より凄いのは、映画が「人類のリセット」をポイントにしている点で、
途中から一瞬、『未知との遭遇』みたいな展開になるかと思いきや、
実は哲学的なニュアンスのあるエンディングになっていて、深遠なテーマに肉薄します。
(ややヤケになったかのような絶望的なラストは、僕の中では完全に予想外でした・・・)

映画の焦点が、これまでの地球滅亡を描いた作品であれば、
“如何に生き残っていくか?”を焦点にしていたのですが、本作はその潮流を打ち破って、
“一体、何を残すか?”というテーマを掲げていて、クローズアップしているのが興味深いですね。

相変わらずニコラス・ケイジが変な髪型で奮闘しておりますが(笑)、
従来のハリウッド映画のセオリーを打ち破った点については、十分に評価できると思います。

そういう意味では、アレックス・プロヤスは『アイ,ロボット』に続いて、
実に快作を発表してきましたね。方向性を間違えなければ、更に良くなりそうな感じがあります。

何より、この映画で驚かされた映像表現は映画の中盤から次々と登場してきており、
交通事故現場で遭遇する旅客機の墜落シーンや地下鉄がポイントで事故を起こして脱線、
駅のホームに猛スピードで突っ込んでくるシーンは、凄まじい迫力で僕も驚かされてしまいましたね。

かつて数多くの映画でパニック描写を観てきましたが、
さすがにこの2つのシーンはショッキング以外の何物でもありません。
若干、CGの感覚は残っているのですが、凄い臨場感に圧倒され、これは出色の出来と言っていいと思います。
90年代まではこの手の映画が多くありましたが、最近はむしろ漸減傾向にあったので、
かえって新鮮に感じられる側面はあったような気がしますし、更に進化していることに驚きますね。

特に旅客機の墜落シーンは実にショッキングですので、
これは国際線なんかの機内上映作品には全く不向きな内容ですが、大丈夫だったのでしょうか?
(調べてませんが...こんな映像、飛行機に乗りながら見せられた日には、不安でたまりません。。。)

映画の終盤のトラックとの衝突シーンと言い、
この映画は一連のショック描写に一番力が入っているようで、この意図はおそらく恐怖を煽るためでしょう。

主人公の不器用な面もあってか、災害が次々と起こるのですが、
そこにあるのは、感動のドラマとか、究極の選択を迫られるドラマとか、そんな生易しい類いではなく、
この映画はただただ冷徹に、ある意味では客観的な視点から、災害を映しているかのようで、
この映画のアレックス・プロヤスのスタンスって、意外にとても厳しいものだったと思いますね。

そう、明らかにこの映画はサスペンスに重きを置いており、
従来の地球滅亡の危機を描いた映画とは、明らかに志向が異なっており、これは興味深い一作だ。

但し、僕は一様にセオリーを踏襲せず、独自の路線を歩んだからには、
そのアイデア一発で「この映画は素晴らしい」と賞賛する気にはなれず、やはり難点はあると思う。

まず、個人的には侵略者を想起させる描写は、当然、“宇宙人”の存在を匂わせるのですが、
この一連の描写があまりに平坦過ぎて、これは実に勿体ないことをしたと思いますね。
基本的に擬人的に描く必要があったのかも疑問ではあるのですが、もっとスリルを演出して欲しい。
どうせサスペンスに重きを置いた映画だったのですから、もっと“見えない存在”として欲しかったですね。
あそこまで簡単に主人公にも見える存在として描くことによって、スリルが半減してしまったと思います。

それから妻に先立たれたという主人公の設定にしても、
実に中途半端で、これが全く映画全体に反映されていないのはいただけませんね。
(アルコール依存症という設定も中途半端で、活かさないならば、匂わせない方が良かったですね・・・)

それと、不思議な能力と言えば、それまでですが...
主人公があの暗号を解読した“キッカケ”をもっと明白に描いて欲しかったですね。
MITの宇宙物理学の教授だというだけで、あの暗号を解読できる理由にはならないし、
何か強く彼が惹き付けられる動機をキチッと描く必要があったように思いますね。

決して、映画の出来自体が悪いというわけではなく、
むしろ従来のハリウッド映画の様式に飽きてしまった人には、良い刺激になるかとは思います。
おそらくニコラス・ケイジも本作の予想外な部分に共鳴し、本作への出演を決意したのでしょう。

個人的には、映画のラストシーン、
まるで桃源郷のような眩しい小麦畑のような土地を映すシーンがあるのですが・・・
これが蛇足かなぁとは思った。どうせなら、最後までこの映画の絶望的なスタイルを貫いて欲しかった。

(上映時間121分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 アレックス・プロヤス
製作 アレックス・プロヤス
    トッド・ブラック
    ジェイソン・ブルメンタル
    スティーブ・ティッシュ
原案 ライン・ダグラス・ピアソン
脚本 ライン・ダグラス・ピアソン
    ジュリエット・スノードン
    スタイルズ・ホワイト
撮影 サイモン・ダガン
編集 リチャード・リーロイド
音楽 マルコ・ベルトラミ
出演 ニコラス・ケイジ
    ローズ・バーン
    チャンドラー・カンタベリー
    ララ・ロビンソン
    ベン・メンデルソーン
    ナディア・タウンゼント
    D・G・マロニー