キス・オブ・ザ・ドラゴン(2001年アメリカ・フランス合作)

Kiss Of The Dragon

中国警察の刑事が、パリにいる中国人麻薬密売人のパリ市警の捜査に協力するも、
現地警察の腐敗を知り、一転してパリ市警から追われる身となり、単身で闘いを挑むバイオレンス・アクション。

まぁハリウッドへ進出したジェット・リーの出演映画としては、
おそらく『リーサル・ウェポン4』以来の出来って感じで、映画はスピード感があってなかなか良い。
どうも、それまでの彼の出演作のほとんどがB級映画っぽいテイストがあって、
今一つ飛躍し切れていない印象があったけど、本作はフランス資本の映画ということもあってか、いつもと違う。

まぁリュック・ベッソンは資金提供して、シナリオを共同執筆しているだけなので、
実質的には本作が監督デビュー作となった、CM界出身のクリス・ナオンでまずまずの仕事っぷりだ。

相変わらず、本作でもリュック・ベッソンは警察に敵対心を燃やすかのように、
随分と悪意に満ちた描き方になっており、これだけはリュック・ベッソンらしさが残っています(笑)。

そりゃあ相変わらず、ツッコミどころは満載な映画であって、
いくらチェッキー・カリョ演じるリチャードが優秀な刑事であるとは言え、
いくら危険な凶悪犯が逃走したとは言え、一般人を大勢巻き添えにする傍若無人っぷりで、
お世辞にも市民の生活を守る警察のお仕事とは思えぬ暴れっぷりですが、これは突っ込んじゃいけません(笑)。

特に映画の中盤にある、主人公がパリの川下りクルーズみたいな船に乗って、
大使館の仲間にリチャードの殺人の証拠を映すテープを渡すシーンでは、周囲の人々に散々、
迷惑をかけて襲撃するし、その後の市街地でのカー・チェイスに至っては、リチャードは狂ったように
銃を乱射して、挙句の果てにはトンネルの中で一般人の車を巻き添え衝突させるのにはビックリしますがね。

最終的に“ツボ”というだけで、映画が終わってしまうのもなんだか奇妙で、
オマケにさながら『北斗の拳』みたいな描写に至っては、笑うなという方が無理な感じ・・・。
なんせ、ジェット・リーが「お前はすでに死んでいる・・・」と言えば、まんま『北斗の拳』ですからね(笑)。

でも、この映画でリチャードを演じたチェッキー・カリョのキレっぷりは悪くないと思う。
さすがに97年の『ドーベルマン』ほどではないけど、本作での悪役ぶりも実にお見事。良い役者です。

自分の犯罪の記録が映るビデオテープを取り返し、中国人刑事を殺害するためにと、
なりふり構わず、大胆かつ過激な捜査に出て、なかなか捕まえられないことに苛立ち、
片っ端から部下を怒鳴り散らし、市街地であろうと銃を乱射しまくる姿は、正しく半狂乱(笑)。

ジェット・リーのアクション・シーンもキレ味抜群で見応えたっぷり。
強いて言えば、全体的にジェット・リーが強過ぎて、パリの猛者どもが相手にならないというのが気になるけど。。。

それが顕著だったのは、パリ市警のリチャードのオフィスに乗り込んで、
リチャードを襲いに行く主人公を描いたクライマックスで、警察署内で迷い込んでしまい、
追っ手に気づかれないようにと、静かに扉を閉めて入った部屋が、柔道場でそこには数十名の訓練生がいて、
次から次へと主人公に襲い掛かってくるのですが、片っ端から全員やっつけてしまうなんて、強過ぎる(笑)。

それと、リチャードの手下の兄弟みたいな2人の刑事を相手にする
オフィス内での格闘シーンも、それなりに迫力はあるのですが、カットを割り過ぎている傾向が強いかな。
これはもう少しハッキリと見せて欲しかったですね。細分化し過ぎていて、流れが感じられません。

でもまぁ・・・ジェット・リーのアクションが好きな人なら、かなり満足度が高い作品ではないかなぁ。

ただ、個人的にはジェシカを演じたブリジット・フォンダが大好きなので言いたいのですが(笑)、
この映画で久々にヒロイン的存在だったのに、あまり見せ場が無くて、イマイチ不発だったかなぁ。
リュック・ベッソンは女性キャラクターを目立たせることは得意なのに、さすがにこれは肩透かしでしたね。

敢えて、主人公とのロマンスに触れなかったあたりは良いけど、
アクション・シーンで全く彼女の見せ場が無くって、例えば主人公と一緒に逃げさせるとか、
もう少し映画の見せ場に関わる活躍があっても良かったと思いますね。これでは、さすがに勿体ないです。
ジェット・リーより背丈が高いだけに、さすがにバランスが合わない・・・とでも考えたのでしょうか?

まぁ・・・この映画はジェット・リーの「守ってあげたい...」という気持ちの強さを味わう映画で、
映画の後半に娘を無事に奪還したいとするジェシカの懇願を聞くシーンに、その全てが表れていますねぇ。

そういう意味では、この映画のラストシーンの作り方は凄く上手かったと思いますね。
無駄に余計なエピソードをくっ付けるよりも、実にアッサリとしたラストでそれまでの激しい展開を
浄化するかの静寂さで、これは作り手の感覚の良さを象徴した、お手本のようなラストシーンだと思います。

個人的には、この映画の出来にはまずまず満足しましたけど、
おそらく同じリュック・ベッソンのブランドの映画という意味では、『ニキータ』や『レオン』、
そして『フィフス・エレメント』のようなインパクトはさすがに持ち合わせていないような気がします。
これはクリス・ナオンの手腕の問題もあるかもしれませんが、やはりジェット・リーのシルエットがパリの街並みに
今一つ合わない感じがするというのがあって、そもそもの設定の問題もあったかとは思いますね。

まぁ当時、ジェット・リーはハリウッドだけでなく、
西洋映画界で活躍することを夢見ていたらしく、数々の企画を抱えていたのは事実ですから、
その中には本作のような設定の映画も何本かはあったのだろうとは思いますが、
さすがに一時的に渡航してきた異国の刑事が、ここまでの騒動に巻き込まれるという姿には無理があるかな。

もう一つ言えば、この内容ならばアメリカでも十分に映画化できたであろうと思える点ですね。
厳しい言い方ではありますが、本作にはパリである必要性が何一つとして描かれていないのが残念ですね。

ちなみに主人公が身を寄せるチャイナタウンのエビ煎餅屋の爺さんを演じたのは、
バート・クウォークで彼は往年の『ピンク・パンサー』シリーズで、幾度となくクルーゾー警部に襲い掛かる、
彼の使用人ケイトーを演じた人ですね。もうアクション・シーンは無理でしょうが、どことなく面影を残してます。

ところで、この爺さんは一体何者だったんだろ?(笑)

(上映時間98分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 クリス・ナオン
製作 リュック・ベッソン
    スティーブ・チャスマン
    ジェット・リー
    ハッピー・ウォルターズ
原案 ジェット・リー
脚本 リュック・ベッソン
    ロバート・マーク・ケイメン
撮影 ティエリー・アルボガスト
音楽 クレイグ・アームストロング
出演 ジェット・リー
    ブリジット・フォンダ
    チェッキー・カリョ
    ローレンス・アシュレー
    バート・クウォーク