キングダム・オブ・ヘブン(2005年アメリカ)

Kingdom Of Heaven

これはチョット、キツい映画だったなぁ。

00年に『グラディエーター』でオスカーをもらったリドリー・スコットが、
今度は十字軍遠征の時代に、それまで聖地エルサレムを巡って微妙なイスラエルとの緊張関係を
保ってきたにも関わらず、一部の血気盛んな連中のおかげで、微妙なバランスが崩れ始める様子を描きます。

正直言って、映画としての世界観は『グラディエーター』と大差なく、
相変わらずCGをふんだんに使って、古代の情景や合戦シーンを演出するあたりは圧倒的なのですが、
やはりこれは何度観ても『グラディエーター』の二番煎じにしか見えず、大きく見劣りすることは否めない。

例えば『グラディエーター』でのコロシアムの競技シーンみたいに、
強いインパクトを持ったエピソードが希薄なせいか、どうも盛り上がらずに終わってしまった感が強いですね。

そりゃ、リドリー・スコットは力量の高い映像作家だと思うし、
本作でも最低限の仕事はしているとは思うのですが、どうしても『グラディエーター』と比較してしまうと、
もっと野心的な内容にして欲しかったと思うし、映画としての物足りなさを感じてしまうんですよね〜。

まぁ活劇シーンは、相変わらずリドリー・スコットらしい内容で、
血しぶきは飛ぶわ、首チョンパは平気で描くわと、残酷描写については如何にも彼らしい。

但し、『グラディエーター』と本作で決定的に異なる部分は、
一言で言ってしまうと、たいへん失礼ながらも...本作は「中身が無い」。
上映時間は2時間30分近くあるヴォリュームだし、確かにそれに相応するエピソード量ではあるのですが、
映画の構成上の起伏に乏しいせいか、この2時間30分近い上映時間が凄い長く感じてしまいます。
時間の使い方が冗長になってしまい、映画を引き締めることができなかったという印象ですね。

同じリドリー・スコットが03年に撮った『マッチスティック・メン』は
結構、映画のテンポが良くって、メリハリがある良い出来だっただけに、なんだか残念ですね。

まぁ元々、ヒロイックに描く企画ではなかったでしょうから、
どうしてもこういう地味な映画になってしまうことは仕方ないのでしょうが、
ストーリー上の派手さにも欠けたせいか、おそらく多くの映画ファンが戸惑ったのではないでしょうか。

劇場公開当時、主演のオーランド・ブルームはハリウッドでも人気絶頂でしたから、
彼のファンも数多く劇場へ足を運んだはずなのですが、彼のファンにとっても物足りなかったでしょうね。
あくまで彼のキャラクターでさえ、ストイックに描き通した仕上がりになっているのですから、そうとう地味です。

主人公の父親役でリーアム・ニーソンが出演しておりましたが、
映画開始からおおむね30分ぐらいのところでアッサリと退場してしまったものだから、
あまりの扱いの悪さにビックリしてしまいましたね。回想シーンでもいいから、もう少し彼を登場させて、
ストーリー自体に厚みを持たせることもできたんですけどね。ほとんどゲストのような扱いで、驚いちゃいましたね。

ウィリアム・モナハンのシナリオですから、おそらく中途半端なものでもないのでしょうが、
ストーリー構成に関しては、映画に特徴づけできるように工夫して欲しかったですね。

それを考えると、やっぱり鍛冶屋の主人公の描き方はもっと上手く撮りようはあったと思う。
やはり彼が悲劇に見舞われながらも、戦いの渦中に巻き込まれ、多くの兵士の仲間を失いながらも、
精神的な成長を遂げ、「良い世の中にする」ということに目覚める過程をもっと明確に描くべきだったと思いますね。

確かに史実に忠実な映画とは言い難いのだろうし、
食い足りない部分はあるんだろうとは思うのですが、基本設定でのボタンのかけ違いが最も痛かったのかも。

『グラディエーター』の良さって、やはり主人公の復讐の物語を一つの伝記のように、
重厚に描けたことにあったと思うんですよねぇ。過剰にヒロイックに描く必要はどこにもないけど、
本作なんかは、主人公の物語をもっと入念に描き込まないと、映画の魅力は引き出せないと思います。

それと、映画の中ではエドワード・ノートン演じる王位継承者が
ハンセン病であったという設定で描かれておりますが、これを観て、僕は以前、大学時代にハンセン病の
罹患者の講和を聴講させてもらったことを思い出した。ハンセン病はかつて、伝染病と言われたこと、
それから宗教的な言い伝えから、虐げられてきた疾患でしたが、医療の発達により、今は症状を抑えられます。
クラリスロマイシンなど、多剤療法が施されることも少なくなく、治療方法も多岐にわたっているようです。

エドワード・ノートンにしても、特殊メイクを施して演じており、
ハッキリ言って、教えてもらわなければ彼とは分からないのですが、全編で仮面を付けたまま演じるという、
科学的に疾患の全容が解明されず、不当な差別的待遇を受けた古い歴史を象徴しておりますね。
(ハッキリ言って、吹き替えだけが彼でもいいぐらい、演じているのが誰なのかよく分からない・・・)

このようにハンセン病が映画の中で描かれることは、とても珍しいと感じましたね。

日本でも決して無縁な疾患ではないだけに、
これからも新しい疾患が出てきたときに、ハンセン病のような歴史を繰り返さないためにも、
我々が語り継いでいく必要があるのではないかと思いますね。そういう意味で、本作は一つの進歩だと思います。

個人的にリドリー・スコットは好きな映像作家なんだけれども、
いわゆる巨匠タイプの映画監督になるのではなくって、適当にハジけていて欲しいなぁ。
あまり本作のような映画を撮るタイプになってしまうのは、僕が彼の映画に求めるものと違うんだよなぁ。
かつて『ブレードランナー』や『ブラック・レイン』を楽しんだ一人としては、こういう映画に溺れるのが心配ですね。

こういう言い方は良くないんだろうけど、もうあの頃には戻れないのかもしれんなぁ・・・。

(上映時間144分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

監督 リドリー・スコット
製作 リドリー・スコット
脚本 ウィリアム・モナハン
撮影 ジョン・マシソン
美術 アーサー・マックス
編集 ドディ・ドーン
音楽 ハリー・グレッグソン=ウィリアムズ
出演 オーランド・ブルーム
    エヴァ・グリーン
    リーアム・ニーソン
    エドワード・ノートン
    ジェレミー・アイアンズ
    ブレンダン・グリーソン
    デビッド・シューリス
    マートン・ソーカス
    ハッサン・マスード
    アレクサンダー・シディグ
    イアン・グレン