キング・コング(2005年ニュージーランド・アメリカ合作)

King Kong

ステレオタイプな描写もありますけど、これは観る前の想像よりも面白かった。

ただ、長い。いや、長過ぎる。
元々、ヴォリューム感いっぱいのストーリーではありますが、それにしても長い(笑)。
だって3時間越えですもの。映画が始まって40分くらいは、キング・コングの気配すら無い。
そして、キング・コングが絡む大スペクタクルが始まるのは、1時間経過したあたりからと、前置きがとにかく長い。

ピーター・ジャクソンの監督作品なので、覚悟はしていたけれども、
どうにも大作志向が映画のベースにあって、長くなることが前提のアプローチになってしまっている。
『キング・コング』自体は今回が3回目の映画化で、言うまでも無く、本作が最長の大作となりました。

初回映画化ではヒロインにフェイ・レイ、76年の2回目映画化ではジェシカ・ラングがキャスティングされました。
今回のヒロインには『21グラム』のナオミ・ワッツがキャストされ、彼女はこれまでのヒロインに劣ることなく奮闘。
ジェシカ・ラングは一時期“キング・コングの恋人”と揶揄されていたようですが、今や大女優になりました。
本作のナオミ・ワッツ、良かったと思いますよ。次第にキング・コングに感情移入していく過程も自然でしたし。

ピーター・ジャクソンが幼い時に第1回映画化作品を観て感動したという、
クライマックスのエンパイア・ステート・ビルの屋上で、キング・コングが落ちるシーンもとても良い出来だと思う。

そう、僕はこの映画、冗長過ぎる前半をなんとかすれば、もっと良くなったと思う。
さすがにこの内容で、「休憩」が入るというのは僕は賛同できないし、もっとタイトに出来たと思う。
それを敢えてタイトにしなかったのはピーター・ジャクソンの強い意向ではないかと思うのですが、
映画全体のバランスを考えると、やはり映画前半の航海に出てからキング・コングと出会うまでが長過ぎる。
前半をもっと整理して、ニューヨークに舞台が移ってからのエピソードにもっと高いテンションで持っていって欲しい。

前半が冗長な割りに、脚本家ドリスコルと女優アンの恋愛に至るまでのプロセスが雑な感じで、
あまり深く描かれないためか、唐突な展開に見えてしまい、2人のロマンスが最後まで続くには弱いと感じた。

今回は映画撮影のために訪れた無人島と思われる島で、先住民族の儀式の生贄に供され、
その途中でキング・コングに奪われた女優のアンを奪還すべく、狂暴な恐竜と闘いながらも島に分け入る一行。
一方で気を失ったアンは気づけば、キング・コングと2人っきり。アンが大道芸みたいな芸で場を和ませ、
次第に打ち解け合う時間を過ごしたアンは、実はキング・コングが自分に危害を加えるつもりがないことに気づきます。

アンに接近した捜索団一行でしたが、犠牲を伴いながら瀕死の闘いを挑み、
なんとかアンを奪還し、キング・コングを眠らせて捕獲することに成功した彼らは、映画監督のカールが先導役となって、
ニューヨークの劇場内でキング・コングを展示して、大勢の観客の見世物にしようと資金集めのイベントを行うも、
そこにアンがいないことに激怒したキング・コングが再び、ニューヨークの市街地で暴れ回ることになります。

映画はこういったキング・コングと、金儲けをしたい人間の邪心のせめぎ合いを描いていますが、
主題としてはアンとキング・コングが不思議と心を通わせていくファンタジーにあると言っていいと思います。
これは88年の『愛は霧のかなたに』に共通したテーマを感じますけど、ドラマではなくパニック映画にシフトした感じです。
(但し、本作を動物映画というカテゴリーで扱うのは難しいとは思いますけどね・・・)

キング・コングの演技も見どころの一つではありますが、
さながら『ジュラシック・パーク』のような臨場感溢れる狂暴な恐竜が襲いかかってくる描写は迫力満点で、
これはCGの技術力の高さを感じましたねぇ。本作のアトクラクション性はもっと評価されても良かったと思います。
やはり21世紀に入ってからのリメークですから、新たなテクノロジーの力だから為せるワザを示せなければなりません。

そういう意味では、ピーター・ジャクソンなりに得意なところでキッチリと仕事をしてきたと思いますね。

ただ、この長さに関しては劇場公開当時から賛否両論あって、
ピーター・ジャクソンなりに描きたいことが多かったからこそ、こういったヴォリュームになったのでしょうが、
キング・コングとヒロインが心を通わせるというテーマに加えて、『ジュラシック・パーク』ばりに恐竜との闘いに加え、
グロテスクな古代昆虫が襲いかかったり、映画監督の果てしない野望を描いたりと、色々と盛り込み過ぎたかな。

まぁ、本来であれば編集段階でカットしたり、スリムにしたりするところを
本作は敢えてそのまま本編にしてしまったという印象があって、映画のテンポは決して良いとは言えない。
このヴォリューム感にやられて、見応えのある映画と錯覚してしまうところを狙っているのかなと邪推してしまう。

何が本作の見せ場となるのかという観点からは、散漫な印象を受けるという意見は分かります。
ですので、ピーター・ジャクソンの映画のファン以外の方々にとっては、賛否両論になるのは仕方ないかな。

誰もキング・コングと恐竜が闘う姿を、観る前から想像していなかったでしょうね。
これを堂々と描くのは、生粋の映画少年だったというピーター・ジャクソンならではという気もします。
こういう映像表現を観て、当時はスピルバーグあたりがどう感じたのかを、知りたいような気がしますねぇ。

個人的には内容のエンターテイメント性、連続するアトラクションのような映像スペクタクル感は
十分に楽しめるところだと思うし、何より21世紀に入ってからリメークすることの意義を示した、
圧倒的な映像技術の高さから演出された、臨場感は素晴らしいものがあったと思いますね。
長過ぎることは難点ですが、十分に及第点レヴェルの映画と言っていいし、もう少し愛されてもいい作品と思います。

ピーター・ジャクソンの強い思い入れがあったからこそ成し得た作品であり、それは伝わってくる作品です。

欲を言えば、映画の終盤のニューヨークの市街地でキング・コングが暴れ回るシーンは物足りないなぁ。
1930年代の世界恐慌の時代のデザインを再現していますが、どうせ、CGを多用した映像だったので、
もっともっと感情を爆発させて暴れ回る姿を描いて、クライマックスへ向けてのムードを高揚させて欲しかったなぁ。

ラストシーンはなかなか感動的な演出であっただけに、所々勿体ないなぁと思うところは確かにあります。
ナオミ・ワッツもよく頑張っていただけに、悲壮感いっぱいにキング・コングが必死にアンを探し求め、
やっとの思いで再会したところで、クライマックスへ突入して一気に盛り上がっていく、という感じが良かったですね。

ピーター・ジャクソンは『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズで世界的にも有名になりました。
94年の『乙女の祈り』で心理描写をメインにした映画を手掛けるなど、ホントは色々と出来る監督だと思うのですが、
そろそろ違うタイプの映画が観たい。この路線でなければ、ピーター・ジャクソンらしくないという意見もあるだろうけど。

本作もファンタジーな世界に、無理矢理にパニック映画のエッセンスを融合したみたいで、
映画全体としてのバランスが良いとは言えなかったと思います。作り手が見せたかった部分もどっちつかず。

そこそこ楽しめる映画なだけに、もっとしっかりと編集していれば、もっと高く評価されていたかもしれません。

余談ではありますが...上映時間が3時間を超えますので、観る前は体調を整えておいた方がいいと思います。
内容的にも映画の中盤は執拗に攻撃してくる恐竜から逃げ回り抵抗するシーンが続きますので、
緊張感も持続的に画面を支配しており、観ているだけでも疲れてきちゃう、体力を使うタイプの映画だと思います。

ですので、やっぱりこの映画には休憩が必要なのかもしれませんね。休憩時間1分は短いけど・・・。

(上映時間188分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 ピーター・ジャクソン
製作 ジャン・ブレンキン
   キャロリン・カニンガム
   ピーター・ジャクソン
   フラン・ウォルシュ
原案 メリアン・C・クーパー
   エドガー・ウォレス
脚本 ピーター・ジャクソン
   フラン・ウォルシュ
   フィリッパ・ボウエン
撮影 アンドリュー・レスニー
編集 ジェイミー・セルカーク
音楽 ジェームズ・ニュートン・ハワード
出演 ナオミ・ワッツ
   エイドリアン・ブロディ
   ジャック・ブラック
   トーマス・クレッチマン
   コリン・ハンクス
   ジェイミー・ベル
   カイル・チャンドラー
   エヴァン・パーク

2005年度アカデミー美術賞 ノミネート
2005年度アカデミー視覚効果賞 受賞
2005年度アカデミー音響編集賞 受賞
2005年度アカデミー音響調整賞 受賞
2005年度イギリス・アカデミー賞特殊視覚効果賞 受賞