キング・クリムゾン/Uncertain Times Tour 2018

King Crimson/Uncertain Times Tour 2018

2018年12月2日(日)[札幌文化芸術劇場 hitaru]

        

01 Drumsons Go Fishing / Lark's Tongues In Aspic, Part 1 / Neurotica [Medley] 即興演奏 / 太陽と戦慄 Part1 / ニューロティカ [Medley]
02 Moonchild / In The Court Of The Crimson King (with Coda) [Medley] ムーンチャイルド / クリムゾン・キングの宮殿 [Medley]
03 Fallen Angel 堕落天使
04 Lark's Tongues In Aspic, Part 2 太陽と戦慄 Part2
05 The Letters ザ・レターズ
06 Discipline ディシプリン
07 Indiscipline インディシプリン
休憩(20分)
08 Drumsons Go Skiing / Peace - An End [Medley] 即興演奏 / 平和 - 終章 [Medley]
09 One More Red Nightmare 再び赤い悪夢
10 Red レッド
11 Epitaph エピタフ(墓碑銘)
12 Easy Money イージー・マネー
13 Radical Action 1 (To Unseat The Hold Of Monkey Mind) / Meltdown / Radical Action 2 / Level Five [Medley] ラディカル・アクション1 / メルトダウン / ラディカル・アクション2 / レヴェル・ファイヴ [Medley]
14 Starless スターレス
アンコール
15 21st Century Schizoid Man 21世紀のスキッツォイド・マン
12月にしては暖かい日曜日の夕方、18時という時間から、ついにやってきたキング・クリムゾン≠ナす。

まぁ、好きなアルバムはあるし、一時期かなり影響は受けたけれども、
今回何故か札幌に来るとは言え、正直、チケット代が16,000円もしたんで、心情的にはチョット複雑でした(笑)。

しかし、結論から言います。これはスゲー、行って良かった(笑)。
一緒に行った奥方は、ほぼ置いてけぼりになるのは、半ば行く前から分かってはいたけど、
これはスゲー、行って良かった(笑)。チケット代が思いっきり高くて、ヌーヴォ・メタル時代のキング・クリムゾン≠ヘ
追っていなかっただけに、聴いたことがない曲もあったけれども、それでもスゲー、行って良かった(笑)。

なんせ、ついにステージで見ちゃいましたよ、あのロバート・フリップを(笑)。
どこからどう見ても、どっかの大学教授にしか見えない風貌と身なりで、スゲー頑固なんだろうけど、
あの座りながら、素晴らしく伸びた背筋で、正味2時間30分、今回のツアーはとにかく弾きまくり。

今回は10月にオープンしたばかりの札幌文化芸術劇場 hitaruに初めて行きましたが、
さすがに会場は新しく荘厳な雰囲気。収容人数は2,000人とのことですが、この日は最上階の4階席は閉鎖、
そして1階席も後方は結構、空席があったので、実際の客入りは1,500人くらいではなかったかと思います。

とは言え、あの会場にいた人々は、正にキング・クリムゾン≠フ音を体感したわけで、
この上ない贅沢な時間を過ごしたと言っても過言ではありません。

僕自身、今のキング・クリムゾン≠ノそこまでの期待値はなかったのですが、
それは大きな間違いで、いやはや凄まじいまでの狂気すら感じさせる、文字通りの“宴”といった感じでした。
コンサート自体は、さながらクラシック・コンサートのよう。開演直前に、半ばお約束と化したロバート・フリップによる、
観客へのお願いをこめたアナウンスがあって、著作権に厳しいロバート・フリップらしい独特な出だしでした。

「コンサートを始める前に、皆さんにお約束して欲しいことがあります」
「今回の公演は2部構成で、間に約20分間のインターミッション(休憩)を挟みます」
「早めにトイレへ行き、演奏の途中での入退室はできるだけ避けてください」
「再入室は曲と曲の間のみとなります」
「撮影の時間をコンサートの終わりに設けますが、それ以外のカメラや携帯電話の操作は厳禁です」
「さぁ、それでは皆さんでキング・クリムゾン≠フパーティーを楽しみましょう! イェーイ!!」

最後はともかくとして、ほとんどクラシックのコンサートでのアナウンスのようで、
定刻キッチリにステージに上がってきたメンバーは、全員ややカジュアルな正装でチョットだけ格式高い雰囲気。

ステージ前方には、ロバート・フリップが2015年から試行している、
新型キング・クリムゾン≠ニしてのトリプル・ドラムで、ドラムがなんと3人ステージ前方に擁し、
サックスのメル・コリンズ、ベースのトニー・レヴィン、ヴォーカル&ギターのジャコ・ジャクスジク、
そして実質的フロントマンのギター、ロバート・フリップがステージ後方に立つという、独特な立ち位置。

スタートする直前に暑いのか、お約束のロバート・フリップはジャケットを脱ぎ、
マネージャーに投げ渡して、ヘッドホンを装着して、椅子に腰かけてギターを抱えます。

そこから始まったのは、もう凄まじいまでの音の洪水。
ロバート・フリップ自身が未だにキング・クリムゾン≠フ進化を追求している求道者であり、
常に挑戦的でありながらも不変的な様式美を追い求めるアーティストであり、パフォーマーであることを象徴しています。

さすがはロバート・フリップ、今でも1日に2時間はギターの練習をしていると告白してますが、
おそらくバンドとしても、かなりの練習をこなしてきたんでしょうね。1曲1曲が凄い長いが、とにかく演奏が熱い。

一般のロック・ギターリストと違ってロバート・フリップは、
全く乱れずに姿勢もずっと同じ姿勢を維持して、ずっと椅子に腰かけたままですが、
エフェクターは勿論、周辺機器を使いこなしながらのプレイに、テクノロジーとの融合も一つのテーマなのだと感じる。
それは中盤の Lark's Tongues In Aspic, Part 2(太陽と戦慄 Part 2)などの極めて正確なプレイが顕著でしたが、
静寂と喧騒を見事に対峙させて、常に観客に挑戦し続ける姿に、僕は強く感銘を受けました。

Indiscipline(インディシプリン)はジャコの「イイネ!」というシャウトで終わり、
ここからはお約束の20分間の休憩でしたが、とにかく男性トイレが長蛇の列(笑)。
ロバート・フリップ自身も悩みとして語っていたそうですが、やはりキング・クリムゾン≠ヘ男のファンばかり(笑)。

休憩後のプログラムは文字通り怒涛の展開。
特に One More Red Nightmare(再び赤い悪夢)から Red(レッド)、Epitaph(エピタフ/墓碑銘)へと続く展開には感涙。
何度聴いても、Red(レッド)のロバート・フリップのプレイは圧巻そのものであり、衝撃的ですらある。

そして、予想外なほどに良かったのは Easy Money(イージー・マネー)。
オリジナルのような余白を感じさせるサウンドではなく、ジワジワと攻め立てるような展開で、
こんなにアグレッシヴな雰囲気にできるのかと驚き、個人的にはヌーヴォ・メタル期のキング・クリムゾン≠ヘ
ほぼ聴いていないから、よく知りませんが、Radical Action 1(ラディカル・アクション 1)からのメドレーは圧巻でした。
ちなみに最後の Level Five(レヴェル・ファイヴ)はロバート・フリップに言わせると、
Lark's Tongues In Aspic Part 5(太陽と戦慄 Part5)なんだって。確かに演奏が圧巻でそれこそ“戦慄”でしたわ。

そして、アンコール直前の Starless(スターレス)は分かってはいたけど、ほぼ昇天(笑)。
途中、インタープレイのようにロバート・フリップの刺さり込むようなギターが鳴り響き、
ステージはいつの間にか深紅のライティングで、以降は僕の脳裏にこのサウンドが焼き付いて離れません。

ルックスは大学教授のような堅物で、発言自体もどこか哲学者のような受け答えをするので、
堅物に見えるロバート・フリップですが、率いるメンバーの人選も極めて的確であり、
私生活では奥さんとラヴラヴな様子をアップしたり、自宅で踊ってるのをアップしたりと、
どこかお茶目な爺さんなのですが、このステージには素直に「衝撃」を受けましたね。

おそらくコアなファンに言わせると、セットリストがどうとか、色々と注文はあるだろうし、
これぐらいの演奏で普通なのでしょうが、僕は今までにない体験であったせいか、これは別格なコンサート体験です。

アンコールはみんなお待ちかね 21st Century Schizoid Man(21世紀のスキッツォイド・マン)。
これは見事なアンサンブルでもあり、ヘヴィなサウンドでありながらも、ギリギリのところを保つスリル。
終盤はドラム・ソロが圧巻の展開で、少しだけロバート・フリップのテンションも上がったかのように左手がよく動く。

18時に開演で、約1時間5分程度で休憩、約20分の休憩を挟んだ後、
後半は約1時間20分ほどので、仕上げは Starless(スターレス)の大熱演、そしてアンコールは10分弱の演奏で、
終わったのは開演から約3時間が経過した21時チョット前くらいでした。S席で16,000円と結構高額でしたが、
これは16,000円の価値は十分にあったと思うし、会場の良さもあってかビンビンに体感できました。

もう札幌公演はないかと思いますが、正直言って、コンサートを観て、
約1週間経った今の方が、ジワジワと良さを感じる手応えのある内容でした。

最近のキング・クリムゾン≠フコンサートでは、開演前に“ロイヤル・パッケージ”と呼ばれる、
先着順で会場ステージで、バンドのマネージャーに質問ができる場があるらしく、今回の札幌公演では、
なんとロバート・フリップ自身が登場してきて、いろいろと質問に答えてくれたようです。
こういうのを聞くと、実は結構、目立ちたがりというか、ファンサービスには積極的なようで、
「あなたにとってライヴとはなんですか?」という質問に対して、「ファンへのラヴレターです」と答えたようですね。

これは名答ですね。
「ダメな演奏をしたメンバーにはブーイングすればいい」と、時に厳しい性格でもあるようですが、
ロバート・フリップの想いは、よく伝わってくるコンサートでした。
(まぁ、サックスのメル・コリンズが調子悪そうにしているのは、見ていて気になりましたが・・・)

客席には平均年齢が高いせいか、お行儀良くコンサートを“鑑賞”していて、
アンコールを求めるとき、そしてコンサートが終わったときにスタンディング・オベーションがあったぐらいで、
それ以外は基本、座って見ているというのも、コンサートの格式を重んじていた印象はあります。
これはロバート・フリップのファンに対する想いと、マッチしたところがあるのかもしれませんね。
(そもそも立って、ノリながら聴くタイプの音楽ではないけれども・・・)

それでも、また札幌に来て欲しいなぁ。最後に観客に携帯で写真撮っていいよと合図があったとき、
客席からスタンディング・オベーションしている様子をカメラケースから大事そうに取り出したカメラで、
ロバート・フリップが何度も客席を動画で(?)撮っていたことが印象的で、堅物に見えながらも、
やっぱりファンとのコミュニケーションを、彼なりに大切にしているようで、好感を持ちました。

あ、ちなみにこの会場、音はなかなか良かったですよ。