キンダガートン・コップ(1990年アメリカ)

Kindergarten Cop

まぁ、これは...シュワちゃんが幅を広げるために、無理矢理出てた感が否めない作品ですね・・・。

88年の『ツインズ』が成功し、コメディ映画でも能力を発揮できることを証明したシュワちゃんが
今度は幼稚園の先生をやったら面白いのではないかと、アイデア一発勝負のようなストーリーを組み立て、
それでも実はロサンゼルスの刑事で捜査途中であるという設定にして、少しだけアクションも披露している。

とは言え、アイバン・ライトマンの監督作品なので完全にコメディ映画であって、
これはシュワちゃんのコマンドー能力高いアクション・シーンや、ド派手な演出を期待してはいけない作品で、
僕は決してつまらない映画だとは思わないけれども、無意識的にでも『ツインズ』と比較すると正直、見劣りする。

やっぱり『ツインズ』にはダニー・デビートと実は兄弟という、信じ難いエッセンスが忍び込んでおり、
本作にはシュワちゃんを支える相棒がいない。一応、パメラ・リード演じる女性刑事も同行しているのですが、
映画の肝心なところで食中毒になって、ほとんど“お休み”状態という、何を狙って撮ったのか分からない展開です。

少なくとも『ツインズ』を観る限り、シュワちゃんはコメディ映画でも輝ける存在だと思う。
それが本作はどうだろう...決して悪い仕事ぶりだとは言わないけれども、部分的に空回りしてるように見えた。

いや、シュワちゃんが幼稚園の先生という設定自体は面白いと思うし、現実にこういう先生は人気が出るだろう。
なんか今なら、どこかの幼稚園か保育園にいそうですしね。こういうムキムキに体を鍛え上げた保父さんって。
子供たちには人気あるでしょう。見るからにたっぷり遊んでくれそうだし、子どもから見ても闘い甲斐のある相手だし。

でも、それはあくまで現実の話し。本作で描かれた主人公の刑事ジョンにはそこまでの魅力は感じない。
つまり、映画の主役としてのインパクトに欠けるのだ。珍しくシュワちゃんが、顔を真っ赤にして目を大きく開けて、
無法地帯と化したクラス内で、「黙れェ〜!!」と叫ぶシーンくらいなもので、それ以外は平々凡々で特徴がない。
さすがにアイバン・ライトマンももう少し考えた、よく中身を練ってから映画を撮って欲しいですよね。これは勿体ない。

ペネロープ・アン・ミラー演じる同僚の女性教師にジョンは心奪われるわけですが、
この女性教師にして、なんだかよく分からないキャラクターで最初っから、ジョンにメロメロなんだけど
具体的にどんなことがあって、それだけのインパクトが彼女の中で残ったのか、明確に描かれないから分からない。

彼女とのロマンスはあくまでサブ・ストーリーにしかすぎませんが、それにしてももっとよく練って欲しい。
辛らつな言い方をすると、こういうところがいい加減で割愛しても、何ら問題のないエピソードにしか見えないのだ。
でも、じゃあ編集でカットすれば良いのか・・・というと、そういうことではない。もっと流れのある映画にして欲しいのです。

しっかりとした流れを汲める内容になっていれば、2人が惹かれ合う根幹を理解できるし、
単なるサブ・ストーリーで終わることはないのだ。本作は中途半端に描くので、2人のロマンスも盛り上がらない。

とは言え、ジョンが不器用な性格ながら次第に子供たちと打ち解け合って、
クラス担任としての責務を果たし、信頼関係を作り上げていく過程は面白い。決して驚くようなことはやっていないが、
やはり真剣に一生懸命向き合うことが最良の方法であると、静かに語りかけているようで好感が持てますね。
ましてや統率のとれない幼稚園児を相手にするわけで、大人の論理はほぼほぼ通じない。完全にアウェーですよ(笑)。

それまでであれば、ここまで粘らなかっただろうが、次第に悔しく思えて、粘って取り組み始める。
この「悔しく思えて、粘り強く取り組める」という能力は、ホントに適性がある分野でのみ発揮されるものだと思う。
そう思うと、ジョンにとって保父さんというのは、正しく天性の職業だったのかもしれない。表情も良くなっていくし。

僕も以前は、真剣に保父さんになりたいなぁと考えていた時期もあって、結局、高校の教員免許を取得し、
非常勤でしたが少しだけ勤務し、結果的には会社員になりましたが(苦笑)、自分自身が親となり、
子どもが通う保育園に迎えに行ったりすると感じますが、ホントに保父さん・保母さんって、尊い職業だなぁと思う。

子供たちの成長を目の前で見れる、ということもありますが、同時に命を預かっている職業。
それは教育の現場はどこもそうですけど、それでも...保育の現場というのは、よりその実感が強いだろうと思う。

普段は会社員をやっていると、そんな感覚がないから、ついつい事務的かつ合理的に考え、
処理してしまおうとしまいがちですが、保育の現場では子どもたちを相手にしてれば、そうは出来ないことも多い。
そして、一人ひとり成長の度合いが違う子たちを一堂に引き受け、時間を共にするのですから、それは尊いことです。

ひょっとしたら、本作の主人公ジョンもそんなことを垣間見ながら、彼自身も順応しようと努力したのかもしれません。
自分に思いもよらぬ適性を見つけたかのように、知らず知らずのうちに「楽しいなぁ」と実感しているようで微笑ましい。
それを当時のシュワちゃんが演じたわけですから、本作は本作でスゴくチャレンジングな企画だったということです。

欲を言えば、脇役にもっとインパクトあるキャラクターが欲しかったなぁ。
ジョンが潜入捜査するキッカケとなった殺人犯のクリスプが、あまりにインパクトが弱いので他に求めたいところ。
映画の序盤にはキャシー・モリアーティ演じるシングルマザーとか、意味ありげに存在感アピールしてくるので、
何かストーリーをかき乱す存在になるかと期待したのですが、早々に退場してしまったのも、なんだか残念でした。

まぁ、マッチョマンが先生にあると見た途端にシンママたちがときめいちゃうみたいな、
今見れば時代錯誤気味な描写があるのは玉に瑕(きず)ですが、ある程度は寛容的に観た方がいいでしょう。

現実的に考えれば、いくら犯罪捜査の過程で被告の証拠を固めるために潜入捜査するとは言え、
それが幼稚園の先生というのは、ありえないでしょう。しかし、そんなありえないことでもシュワちゃんがやれば、
当時のシュワちゃんの勢いをもって、違和感なくクリアしちゃう。園長が企画した避難訓練でも、事前に聞かされて
いなかったジョンが慌てて、園児たちを抱きかかえるようにバラバラに避難してしまう必死さが、逆に印象的だ。

マジメな性格だからこそ、何事にも一生懸命。だからこそ、重責を伴う業務を任されるということでしょうが、
対照的に相棒となるはずだった女性刑事が食中毒で寝込んでしまい、挙句の果てにはシェフの恋人を
寝込んでいるモーテルに連れ込んでしまうというのは、これもまたスゴい話し。しかし、そんな彼女もラストは活躍します。

良くも悪くも、無難な映画という印象ではありますが、僕はそれはそれで価値があると思っています。
本作なんかはシュワちゃんに幼稚園の先生を演じさせよう!というコンセプト以上に、家族揃って安心して観れる
エンターテイメントとしたかったのだろうし、映画全体のバランスはそう悪くはなく、テンポも良いし、中ダルみしない。

欲を言えば、前述したように脇役キャラクターを磨き切れなかったという印象が残ることと、
時折、見せるギャグがそこまで爆発力を持ったものではなく、あくまで微笑ましい笑いという感じで終わってしまうのは、
もう少しずつ、上手く見せて欲しかったところ。この辺はアイバン・ライトマンなら、上手く構成できたはずだと思うので。

当時はハリウッドを代表するムキムキなアクション・スターと言えば、シュワちゃんとスタローンだった。
日本でも彼らの出演する映画は中身の良し悪しは問わず、軒並み大ヒットするし、大きな話題となってました。

そんな中で、シュワちゃんが『ツインズ』に出演してヒッしたことをキッカケにして、
スタローンもコメディ映画に出演したりして競い合っていたように見えましたが、本作を観る限り、
役者としてはシュワちゃんの方が器用に見えますね。それと、エージェントが良かったのか、シュワちゃんに合った
コメディ映画を選択することがとても上手く、本作なんかはおそらくスタローンには似合わないタイプの作品でしょう。

まぁ・・・スタローンが出演したコメディ映画も嫌いにはなれないけど、
正直、あんまり合っていないのではないかと思えるタイプのコメディもありましたし、映画の出来もイマイチでしたからね。

シュワちゃんにしてもスタローンにしても、彼らがコメディに出演して楽しませるとしたら、
やっぱり彼らのイメージが持つギャップを楽しませるということでなければ、なかなか魅力が出てこないと思いますが、
シュワちゃんはそんなギャップを無理に埋めようとせずに、しっかり楽しませようとしているのは分かるのが良いですね。

そうなだけに、全体として平々凡々なグアグで終わってしまっているのが、なんとも残念。
もっと良い脚本を用意してあげて、撮影現場でも創意工夫が欲しかったので、とても勿体ないですね・・・。

(上映時間111分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 アイバン・ライトマン
製作 アイバン・ライトマン
   ブライアン・グレイザー
原案 マーレイ・セーレム
脚本 マーレイ・セーレム
   ハーシャル・ウェイングロット
   ティモシー・ハリス
撮影 マイケル・チャップマン
音楽 ランディ・エデルマン
出演 アーノルド・シュワルツェネッガー
   ペネロープ・アン・ミラー
   パメラ・リード
   リンダ・ハント
   リチャード・タイソン
   キャロル・ベイカー
   キャシー・モリアーティ
   アンジェラ・バセット