キリング・ミー・ソフトリー(2001年アメリカ)

Killing Me Softly

うーーん...ダメだなぁ。

『さらば、わが愛/覇王別姫』のチェン・カイコーがハリウッドに渡って初めて撮ったサスペンス映画。
劇中、幾度となく登場する過激な性描写のおかげで、成人指定のレイティングを受けてしまいましたが、
確かにこれは年齢制限がかかっても、仕方ない内容かな。まぁ驚くほどの描写はないけど・・・。

この映画、何がダメって、サスペンス映画としては致命的なほどに弱いという点。

映画の冒頭から、冬山の背景にクロスオーヴァーする形で、
主演2人のベッドシーンを挿入するのですが、どうしてこんな陳腐なことをするのか理解できない。
それと、物語自体もあまりに安っぽ過ぎて、あまりに全体的に唐突過ぎる感が否めない。
つまり、しっかりとしたセオリーを踏み切れていないため、常に違和感を抱えたままの内容なんですね。

僕はホントにチェン・カイコーがこの映画を撮るために、わざわざハリウッド資本の力を借りて、
渡英して映画を撮影したのか、甚だ疑問に思えるぐらい、残念な映画でしたね。
(まぁ・・・結局、チェン・カイコーは本作以降は中国に戻ってしまっている...)

ちなみに73年、ロバータ・フラックが名曲『やさしく愛して』(Killing Me Softly With His Song)を発表しており、
原作はそんな彼女の名曲と同じタイトルとなっておりますが、何一つ関連性は見当たりません。

まぁヘザー・グレアムって、『ブギーナイツ』なんかで可愛らしさと大胆さをアピールしたおかげで、
日本でもそこそこの知名度まで向上して、数多くの映画に出演するようになっていましたけど、
本作での彼女はそこまで魅力的には映っていなかったと僕は思いましたけどねぇ。

映画の序盤は過激な性描写を織り交ぜた、恋愛映画って感じで進行していくのですが、
後半になると一転してサスペンス劇になります。しかし、これがイマイチ盛り上がらないんだなぁ。
こういうのを観ちゃうと、チェン・カイコーがどこまでサスペンス映画に執着していたのか分からないですね。

問答無用に物語をグイグイ、グイグイと引っ張っていくという意味では、
映画の冒頭からヒロインが偶然、ロンドンの市街地で出会ったアダムという男性と
衝動的に肉体関係を結ぶまでを、半ば強引に描いたのは悪くなかったと思いますね。
男女の関係を理屈ではなく、理由などまるで一つも感じさせない運命的なものとして描いたのは正解でしたね。

その後は話題性も狙ったように思えるアブノーマルな性行為を描いているのですが、
この点はハッキリ言って、『氷の微笑』のようなセンセーショナルさは感じられないですね。

但し、ジョセフ・ファインズ演じる登山家アダムの描き方はいくらなんでも酷い。
あまりにステレオタイプ過ぎるし、もっとクレバーな描き方があったと思えるだけに勿体ない。
これではいくらなんでも、作り手の作為が見え見えで、あまりに面白味がないですね。
僕にはどうしても、こういう点がチェン・カイコーの手腕に疑義を向けているように思えてならないのです。

ですから、下世話なツッコミではありますが、
「中国で描けなかったことを、実現させるために本作を撮ったのか?」と思ってしまうわけです。

チョット矛盾しているように感じられるかもしれませんが、
僕はヒロインのアリスがアダムの危険な香りを感じ取りながらも、彼に惹かれていくというスタンスの方が
ずっと映画は面白くなったと思いますね。“分かっちゃいるけど、やめられない”みたいな感じで(笑)。

本作の場合、アリスがアダムに惹かれて、すっかり舞い上がっちゃって、
少し冷静になったところで、ようやく「アタシ、実はアダムのことを何も知らないわ...」なんて、
恥ずかしげもなく言っちゃうわけですから、どうしたってアリスの甘さも感じずにはいられないわけです。

そういう意味では、アリスの位置づけが若干、曖昧な感があるのは否めないですね。
せっかく彼女はキャリアウーマンとして描いているわけなのですから、この辺は徹底して欲しいですね。

アリスの描写で弱い部分があると、どうしても本作の場合はハンデにしかならないんですよね。
やっぱりアリスはもっと賢くて強いキャリアウーマンとして描くべきだったと思うし、
尚且つ、アダムとの出会いや恋愛が如何に運命的なものであったかを象徴させるべきだったと思うんですよね。
これぐらいの強さがない限り、チェン・カイコーが描きたかった境地にまで達しないと思いますね。

だって、まるで初対面のアダムの家に上がりこんで、いきなり肉体関係に至るわけですからね。
そうとうな運命の強さが無い限り、成立しえない衝動的な展開なはずなのです。

まぁアダムが何を考えているのか、よく分からないミステリーに包んだまま描いたのは正解でしたね。
特に夜の暗がりでアリスが上階から降りてくるのを待っていたシーンなんかは、まるでホラー映画(笑)。
何でも過剰なところがあって、アリスを襲った強盗を猛追して、コテンパンにやっつける猪突猛進さ。
言ってしまえばアダムは犯罪者と紙一重みたいな男で、映画の緊張感を盛り上げるには悪くない働きでした。
この映画、アダムの描写も手落ちだったら、もっと酷い出来になっていたでしょうね。。。

正直、ヘザー・グレアムのファンだというのなら観るのを止めはしませんが(笑)、
サスペンス映画が好きで、サスペンス映画の醍醐味を期待している人にはオススメできませんね(苦笑)。

(上映時間101分)

私の採点★★★☆☆☆☆☆☆☆〜3点

日本公開時[R−18]

監督 チェン・カイコー
製作 リンダ・マイルズ
    マイケル・チニック
    ジョー・メジャック
原作 ニッキ・フレンチ
脚本 カラ・リンドストロム
撮影 マイケル・コールター
音楽 パトリック・ドイル
出演 ヘザー・グレアム
    ジョセフ・ファインズ
    ナターシャ・マケルホーン
    イアン・ハート
    キカ・マーカム
    ウルリク・トルセン