キラー・エリート(2011年オーストラリア・アメリカ合作)

Killer Elite

1980年、イギリスがオマーン戦争に介入していたという元SASの隊員が書いた、
実話をベースにした冒険小説をジェイソン・ステイサム主演で映画化したバイオレンス・アクション。

75年に名匠サム・ペキンパーが同名タイトルの作品を映画化していますが、
予め断っておくと、本作は一切関係ない作品であり、勘違いしないように注意が必要です。
(ちなみにサム・ペキンパーの『キラー・エリート』も、彼の熱心なファンからも疎まれる作品・・・)

まぁあまり期待していなかった映画ではありますが、
その期待を裏切ることなく、映画の出来は今一つというところで、あまり楽しめなかったかな。
おそらく現実味はある映画なんだろうけど、どことなく不親切な映画という印象を受けてしまった。
一つ一つのプロットのつながりが分かりにくく、一方的にストーリーが進んでいく印象が拭えません。

ジェイソン・ステイサムとロバート・デ・ニーロがアクション映画で共演するという、
異色な顔合わせな作品ではありますが、この2人の共演に関しては、そんなに悪くない。
個人的にはデ・ニーロの活躍はもっと観たかったけど、彼の年齢を考えれば、仕方ないのかもしれません。

監督はCMで手腕を鳴らしたゲイリー・マッケンドリーで、
かなり贅沢な“土台”が用意された企画ではあるのですが、よく頑張っていると思いますね。
もう少しストーリーテリングが上手ければ、もっと楽しめる内容にはなっていたと思うのですが、
これは次回作以降への期待値として残しておくとして、アクションの見せ方に関しては悪くないです。

ただ僕が予想通りに(?)、楽しめなかった理由って、
おそらく作り手がリアル志向に注力し過ぎていて、エンターテイメント性があまり追求されていない点ですね。

映画の冒頭のメシキコでの“1年前”を映したエピソードが良かったせいか、
出だしは期待させられたんだけれども、その後は最近では“よくあるタイプのアクション映画”って感じ。
(出だしはサム・ペキンパーの映画の空気を想起させる感じで、良かったんだけどなぁ・・・)

まぁなんでもサム・ペキンパーと比較するのはフェアじゃないので、
それを除いて考えたとしても、それぞれのアクション・シーンが単発的になってしまうのが残念。
臨場感溢れる演出を心掛けているんだろうけど、結局、B級テイストな映画になってしまう。
そういう意味で、デ・ニーロが出演していることは大きいのですが、どうも作り手が“殻”を破れないですね。

何事に於いても強過ぎるジェイソン・ステイサムを見せられるよりはマシだけど、
どうしても、いつものジェイソン・ステイサムのアクション映画のカラーが抜けないんですよね。
(これって、15年ぐらい前のジャン=クロード・ヴァン・ダム状態?)

この映画で注目したいのは、主人公の恋人アンを演じたイヴォンヌ・ストラホフスキーだろう。
まだ数多くの映画に出演しているわけではないみたいですが、これから人気が出てくるかもしれません。
メイクをバッチリして派手な美人に見せているというわけではないけど、とても聡明な美人女優ですね。
オフショットの写真を見たら、本作での彼女とは違って、結構、メイクをバッチリして派手な美人にも見える。

ド田舎で主人公と幸せに暮らすかのようなエピソードから一転、
主人公から言われて、訳も分からずパリに行くことになったにも関わらず、
妙に嬉しそうな表情でパリの市街地を歩いているのが印象的なのですが(笑)、意外に器用な女優さんかも。

ちなみにこの映画をチョットだけ安っぽくしてしまったのは、その彼女が登場するラストシーンだと思うんだよなぁ。
このラストシーンの訳が分からんぐらい、ロマンチックなラストはこの映画の主題に合わないだろう(笑)。

おそらく作り手も予定調和を意識したのでしょうが、
これはもう少し慎重に考えて、本作のコンセプトを今一度、再確認して欲しかったですね。
ホントにこのラストシーンの場違いな空気は、せっかくの男臭い映画にしてきたのに、水を差してる気がしますね。

まぁこの手の映画にありがちな現象ではあるのですが、
もっと作り手に強力なブレーンがいれば、映画の出来は大きく変わっていたと思います。
事実、僕はこの映画を観て、「これをタランティーノが撮っていたら、どんな映画になっただろうなぁ?」と
余計なことばかり考えてしまっていたのですが、おそらく似たようなことを考えていた人は多いのではにでしょう。

そういうことを考えると、やはり作り手の経験不足が足を引っ張ってしまった感が否めないんですよね。
前述したように、ゲイリー・マッケンドリーはよく頑張っているとは思いますが、彼をサポートする立場として、
例えばプロデューサーなどで、もっと経験豊かなスタッフを付けるべきだったと思うんですよねぇ。

まぁ映画としての見せ方は、元SASの3人を殺害するミッションを命じられるという物語ですから、
まるでRPGのようにゲーム感覚で見せていくので、ゲーム好きな人にはそこそこオススメできると思う。

これでもう少しアドベンチャー性を出せれば、映画の印象は変わってきたと思うのですが、
こういう撮り方は現代の映画界では確立された、一つのスタイルなのかもしれませんねぇ。

良くも悪くもジェイソン・ステイサムの映画になっていますので、
21世紀に入ってから、アクション映画として一つのブランドとして確立したジェイソン・ステイサムの出演作として、
とにかく彼のアクション映画が観たいという人には、自信を持ってオススメできる作品にはなっています。

但し、役者としてのジェイソン・ステイサムは、やはりここが課題であり、
過去に色々な芝居をやった上で、こういうキャラクターを確立したのであれば息の長い役者になるでしょうが、
このままいったら、メガヒット作を生みにくいアクション映画俳優になってしまいそうで、チョット心配ですね。

本作なんかも、企画の段階では結構、贅沢な“土台”があったように思えるにも関わらず、
完成した映画がこういう内容ということであれば、今一つ“殻”を破り切れないという印象が残ってしまいます。

(上映時間116分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 ゲイリー・マッケンドリー
製作 シガージョン・サヴァッツォン
    スティーブン・チャスマン
    マイケル・ボーゲン
    トニー・ウィンリー
原作 ラヌルフ・ファインズ
脚本 マット・シェリング
撮影 サイモン・ダガン
編集 ジョン・ギルバート
音楽 ジョニー・クリメック
    ラインホルト・ハルク
出演 ジェイソン・ステイサム
    クライブ・オーウェン
    ロバート・デ・ニーロ
    ドミニク・パーセル
    エイデン・ヤング
    イヴォンヌ・ストラホフスキー
    ベン・メンデルソーン