キー・ラーゴ(1948年アメリカ)

Key Largo

名匠ジョン・ヒューストンが描いた、暴風雨に晒されるホテルで起きた出来事。
初めにことわっておくと、本作は実質的な密室劇であり、そう大きな動きを伴う映画ではありません。

それと、この映画の大きな話題と言えば、
当時、婚姻関係にあったハンフリー・ボガートとローレン・バコールの最後の共演ということなのですが、
別にイチャイチャするわけでもなく、2人の関係についてはやや不完全燃焼気味に終わってしまいます。

しかし、それでも本作は統一感ある安定した演出と、
舞台劇用のシナリオを戯曲化する際に加えられたと思われる、時折、見せる大胆な演出によって、
映画はクライマックスに近づくにつれて、次第に異様な緊張感が高まっていく。

確かに本作はジョン・ヒューストンのフィルモグラフィーの中でも、ハンフリー・ボガート主演作としても、
そうあまり高い評価を受けているわけではないし、ましてや歴史的名作として扱われてはいない。

だけど、こういう映画を観ると、やっぱりジョン・ヒューストンって凄い映画監督なんだと改めて実感させられる。
本作などは諸事情からジョン・ヒューストンが激怒してしまい、短期間で撮ってしまったらしいのですが、
そういった背景を抱えながらも、これだけの充実度を擁した作品ができあがるわけなのですから、
彼の卓越した手腕というのは、やはり特筆に値するものであったはずと確信できますね。

彼だけではなく、本作はシナリオの構成力も大きい。
その脚本を共同執筆しているのは、リチャード・ブルックスで彼は67年に『冷血』を撮り、評価されました。
僕は現時点で彼の映画は75年の『弾丸を噛め』と77年の『ミスター・グッドバーを探して』しか観てませんが、
いずれも演出上の個性が抜けないディレクターで、好き嫌いがハッキリと分かれるだろうと思っていたのですが、
本作のような類いの映画の脚本をしっかり書けるのですから、やっぱりたいした人ですね。

いや、嫌味ではなく、これだけの構成力を持って描けるのは立派ですよ。
暴風雨の気圧団が接近していくと同時に、ギャングのボス、ロッコは不安を募らせ、次第に気が短くなる。
それに合わせて周囲の人々は彼の気の短さに、底知れぬ恐怖心を抱くようになります。

それが暴風雨の激化と同時に観客に襲い掛かるわけで、
上手い具合に映画の緊張感が盛り上がるように配慮されており、これは脚本の力も大きいと思うのです。

そんなロッコを演じたエドワード・G・ロビンソンが好演ですね。
ラストの主人公とのボートでの対決シーンはチョット、わざとらしい感じがあって、
シチュエーション的にもかなり無理があるラストになってしまいましたが、それまでは見事な存在感。
負傷した警察官に弾の入っていない銃を持たせ、「オレを撃て!」と煽り、結局、警察官を射殺するシーンも凄い。
やっぱり、悪党とはあれぐらいの悪どさがないと、さすがに倒し甲斐がありませんね。

本作でのエドワード・G・ロビンソンは傑出した悪役造詣として、もっと称えられてもいいと思いますね。

そんな彼に強引にキスされるのはローレン・バコール。
このシーンをハンフリー・ボガートはどういう気持ちで立ち会っていたのだろうか(笑)。
さりとて、本作でチョット残念なのは、せっかくのローレン・バコールの印象がイマイチ強く残せなかったこと。

これは彼女の役そのものを再考する必要があると思ったのですが、
もう少し映画のクライマックスへ向けて、彼女に見せ場を与えてあげて欲しかった。
特にラストの主人公に対して、直接的に絡みに行くシーンが無いというのは、あまりに勿体ない。
こういう映画であるからこそ、主人公への複雑な感情に触れるラストでも良かったのではないだろうか。

本作の脚本に唯一、注文を付けるところがあるとすれば、彼女の扱い以外の何物でもない。
ややフィルム・ノワールのような空気を帯びていくからこそ、女性キャラクターの扱いは丁寧にして欲しかった。

ましてや彼女は主人公の戦友の妻であり、未亡人。
車椅子生活の義父と共にホテルの経営に励むものの、生活はそう明るくない。
しかもギャングが占拠しており、勝ち気な性格の彼女もギャングを追い払えずにいたわけで、
主人公に対する想いも含め、映画はもっと複雑な感情の絡み合いが表現できるはずなのです。

相変わらず強い女性像を体現しているようですが、
彼女の役自体、台詞が多くはなく、感情もあまり表に出さないため、抑え過ぎてしまった感が残ります。

まぁ舞台劇が好きな人にはオススメできる一本だと思います。
ジョン・ヒューストンにしては珍しく、シリアスに押していく側面があり、映画も渋い味わいがあります。
音楽が少し仰々しいのが気になりますが、あくまで緊張感を盛り上げるための小道具として許容しましょう。

ちなみに劇中、ロッコの取引相手が「禁酒法がもう一回実行されると思うよ」なんて言ってますが、
こういった発言から如何に禁酒法下でマフィアやギャングが大儲けしていたかが分かりますねぇ。

いつの世にも、こういう抜け道を探した商売って、必ずあるものなんですよね。。。

(上映時間100分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ジョン・ヒューストン
製作 ジェリー・ウォルド
原作 マクスウェル・アンダーソン
脚本 リチャード・ブルックス
    ジョン・ヒューストン
撮影 カール・フロイント
音楽 マックス・スタイナー
出演 ハンフリー・ボガート
    エドワード・G・ロビンソン
    ローレン・バコール
    ライオネル・バリモア
    クレア・トレバー
    モンテ・ブルー
    トーマス・ゴメス

1948年度アカデミー助演女優賞(クレア・トレバー) 受賞