光の旅人/K−PAX(2001年アメリカ)

K - PAX

まるで現実的には破綻した物語だが、ひじょうに丁寧に作ってあり、好感の持てる映画だ。

監督はイギリス出身のイアン・ソフトリーで、細かい部分にまでキチッと気を配った演出は見事で、
内容が内容なだけにアメリカでは大ヒットには至りませんでしたが、ひじょうに不思議なテイストがある、
大人が鑑賞に堪えるファンタジー映画として、もっと評価してあげても良かったのではないでしょうか。

とある、大きな駅の待合場で、何処からともなく現れた中年のオッサンが、
強盗と間違えられ警官に尋問されていたところ、黒人男性の目撃証言により難を逃れるものの、
結局、不審者と思われて施設に収容、妻子ある精神科医マークが担当医として就きます。

自らを遠く離れた惑星“K−PAX”からやってきたプロートと名乗り、
“K−PAX”の詳細な事情まで証言するプロートの話しは、とても現実味を帯び説得力があり、
難解な天文物理学の証明をもしてしまったことから、マークはプロートの診療に悩みます。
そんな不思議な能力や魅力があるプロートは、マークが経営する診療所に入院する患者を次々と啓発していき、
精神疾患を抱える患者たちを次々と元気付けるという影響をもたらし、マークは更に悩み始めます。

映画はそんなプロートが抱える心の闇や、過去について言及するのですが、
あくまで本作はファンタジー映画ですから、現実世界との整合性を求めてはいけません。

また、ケビン・スペイシーというイヤらしい表情した俳優を上手く利用した映画ですね(←失礼)。
ファンタジー映画の冒頭は、おおよそファンタジーな世界観を強調させるかのように、
不思議な空気を持つことを象徴させるのですが、この映画のケビン・スペイシーは光を浴びていても、
何故かどこか湯気があってそうな、中年オッサン独特な空気丸出し状態がファースト・ショットという大胆さ(笑)。

こういう言い方をするのは、たいへん心苦しいのですが、
お世辞にもファンタジー映画の主人公の登場シーンとは思えぬシルエットで強烈です(苦笑)。

いや、それでも映画が進むにつれて、徐々にミステリーが明らかになっていき、
パズルのようにバラバラであった現実が結び付いていく過程がなかなか上手く描かれており、
イアン・ソフトリーの繊細な演出が、上手く絡み合って、映画が不思議なテイストを持っていると感じますね。

基本的にこういう誠実な映画作りのスタンスは、僕は支持してあげたいと思うんですよね。

でも、一つジレンマがあるのが面白い映画で、結末でまるで説明のつかない奇跡が起こるということなのです。
だからこそファンタジー映画として成立しえたわけで、主人公の魅力が損なわれなかった原因でもあるのです。

一見すると、本作はひじょうに難解で哲学的な内容に見えるかもしれませんが、
僕は決して本作は難解でも哲学的な方向へと傾倒しているとも思いませんね。
言ってしまえば、ファンタジー映画ですから何でもアリの世界だと思いますし、如何に映画を磨き上げるかが
問題なわけで、ある意味では演出家にとっては演出冥利に尽きる映画だと言っていいと思いますね。

描き方次第では、どうとでもなる題材をイアン・ソフトリーが上手く描いたわけで、
僕の中ではそれだけで、十分に本作を高く評価することに値することになるんですよね。

一つ一つの奇跡を突いていたら、全く先に進めなくなる映画です。
一例を挙げれば、プロートが難解な天文物理学の問題を解いてしまったこと自体、説明不能だし、
犬の鳴き声を聞いて翻訳したことが、子供たちしか知りえないことだったということも説明がつかない。

かつては過小評価されている役者の代表格として挙げられていたジェフ・ブリッジスが
本作では精神科医マークを演じていますが、相変わらずの安定感ある芝居で素晴らしいですね。
そんな彼も09年に出演した『クレイジー・ハート』でようやっとオスカーを獲得することとなります。
本作は勿論のこと、数多くの秀作に出演している役者なだけに、ようやっと認められて嬉しいですね。
(本作にしても彼の的確な芝居が無ければ、ケビン・スペイシーもここまで光らなかったかもしれません)

しかし、敢えて厳しいことを言うのであれば、やはり何か一つ訴求するものが欲しかった。
奇跡を描いたのはとっても良かったとは思うが、肝心なプロート自身の過去に関するパートは弱い。
これはかなり過酷な現実を語っているだけに、もっと強く観客の心に訴求するものがないと、キビしいだろう。

これは少し損をしている面があることは否めないし、本作のカテゴリー分けを難しくしてしまった
原因の一つかもしれませんね。何せ、一般的には微妙に異なるのに、SF映画扱いされてますから・・・(苦笑)。

大人が鑑賞に堪えるファンタジー映画というのは珍しい気がします。
決して癒し(ヒーリング)の効果がある映画だとは思わないけれども、ラストのテイストは前述したプロートの
過去に対する訴求を除けば、絶妙としか言いようがなく、映画を観て、こんな気持ちになったのは久しぶりです。
イアン・ソフトリーは94年に『バック・ビート』を撮って話題となりましたが、更に進化し続けていますね。

どうやら本作は本国アメリカで失敗作扱いされたようで、
イアン・ソフトリーは本作以降、創作ペースを落としてしまったようで、それが残念でなりませんね。
こういう映画作りを継続させていければ、きっと近い将来、傑作と称えられる作品を手がけられるのに・・・。

そう考えると、ひじょうに惜しい映画なんですよねぇ。。。

(上映時間120分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 イアン・ソフトリー
製作 ローレンス・ゴードン
    ロイド・レヴィン
原作 ジーン・ブリュワー
脚本 チャールズ・リーヴィット
撮影 ジョン・マシソン
音楽 エド・シェアマー
出演 ケビン・スペイシー
    ジェフ・ブリッジス
    メアリー・マコーマック
    アルフレ・ウッダード
    デビッド・パトリック・ケリー
    ソウル・ウィリアムズ
    セリア・ウェストン
    ピーター・ゲレッティ