ジュリー&ジュリア(2009年アメリカ)

Julie & Julia

第二次世界大戦直後、アメリカの外交官である夫のパリ赴任をキッカケに、
フランス料理の魅力にすっかり魅せられて、日常生活の中でプロのシェフを養成する、
料理学校に通い詰めて、料理好きの主婦仲間と共に、数々の料理レシピをまとめた本を出版するまでの姿を
21世紀に入って、ブログで同エピソードをシンクロさせながら紹介する女性の姿と並行して描くドラマ。

監督は『めぐり逢えたら』などで知られる女流監督ノーラ・エフロンで、
彼女の監督作品としては、本作はかなり出来が良いと思うし、撮りたいことがハッキリとしていて良かった。
そして、とっても残念なことに、彼女は2012年に他界されましたので、本作が彼女の遺作となってしまいました。

ノーラ・エフロンは脚本家出身ですが、83年の『シルクウッド』のシナリオを書いて、
最初に評価されただけに、シリアスな映画がスタートだったのですが、90年代に入るとすっかり、
ロマンチック・コメディを中心に手掛けるディレクターとなり、メグ・ライアンとのコンビは日本でも安心のブランド。
本作の主演を務めるメリル・ストリープも、よく起用していて、本作も3度目の仕事となっていました。

映画の中でも紹介されていますが、メリル・ストリープが演じた実在のジュリア・チャイルドは
著書の中で524ものレシピを残し、アメリカの一般家庭でもフランス料理を提供できるように
独自のカスタマイズを加えたものを紹介し続け、最終的には自身のテレビ番組を持つようになり、
ある意味で料理研究家としてのパイオニア的存在として、50年代後半から長きにわたって人気を博しました。

映画は50年前から活躍し、料理研究家と称する著名人が数多く生まれ、
情報が氾濫する21世紀に入って、ブログという新たな情報発信ツールを使って、
ジュリアのレシピの再現に挑戦するジュリーという女性にスポットライトを当てて、ジュリアの苦悩を描きます。

それは、ジュリーがジュリアのレシピを再現するにあたって、
半ば勝手に「あぁ、これは大変だっただろうなぁ」などと、追体験する姿を描いているわけで、
それをブログに書いていってジュリーは有名になっていくのですから、ジュリアとしては面白くなかったようだ。
事実、この映画でも語られているのですが、ジュリーの話しを聞いたジュリアは態度を硬化させたようで、
どうやら04年に亡くなるまでに和解することはできなかったようで、映画でも詳細は語られていない。

幾度となく美味しそうな料理が登場してきますが、
勘違いしてはならないのは、本作は決して料理がメインとなる映画ではないということ。

第二次世界大戦直後とは言え、フランスでは未だ料理人とは男の世界という感じでしたが、
そんな空気の世界に外交官の妻で主婦だったジュリアは入り込み、「料理は楽しむことが一番です」と
担当教官から教えられたことを忠実に守り、メキメキと腕を上げていったジュリアでしたが、
レシピを本にして出版したいと思っても、なかなか思い通りの企画を買ってもらえない苦悩がありました。

一方で、ジュリーは「9・11」の事故処理に当たるコールセンターで働きながらも、
自身の自己実現のために、ブログでジュリアの料理を“検証”するかのような記事をアップし始め、
口コミで話題となることを目標に頑張るのですが、なかなか“検証”自体も順調にいかず、夫婦喧嘩もしてしまいます。

この2人のエピソードを同時進行で並行して描くことにより、
よりジュリアの苦悩を強調する効果は出ていると思う。言ってしまえば、ジュリーは引き立て役なのですが、
本作でのノーラ・エフロンが上手かったのは、彼女をただの引き立て役で終わらせず、
ジュリアの料理を追体験することで、次世代でジュリアの理念を引き継ぐ“第二の主役”として磨いたことですね。

おそらく実在のジュリアがジュリーのことを知って、
あまり快く思わなかったというエピソードが残り、どうやらジュリアが他界するまでに
和解することがなかったというのは、ジュリーがあくまで追体験しているにしかすぎなかったことだろう。
ジュリアはあくまでパイオニア的存在であり、しかも「料理は楽しむことが一番」を信条としてきたのに、
ジュリアが苦悩したであろうことまでブログにアップされたら、ジュリアが本来、大切にしてきたスタイルと
反するものになってしまいます。ですから、ジュリアはジュリーの今後に期待していたのではないかと思う。

だからこそ思うのですが、それまで高貴なイマージの強かったフランス料理を
アメリカの家庭でも再現できるということを実証したジュリアからしてみれば、
ジュリアのスピリットを踏襲したとは言え、その後は新たな料理の世界を切り開こうとするわけでもなく、
ジュリアとジュリーの物語を出版して映画化したという展開を、快く思うのだろうか?という疑問は残るかな・・・。

今はYoutubeなどで生前のジュリアが出演していた『フレンチ・シェフ』という
料理番組を観ることができますが、日本の料理番組の感覚で観ると、かなり斬新に見えるかもしれません(笑)。

映画の中でメリル・ストリープ演じるジュリアも言ってしましたが、
通常であればテレビ的に失敗であるとされることが起こっても、「誰も見ていないから分かりはしません」と
ホントに言い出しそうな豪快さで(笑)、料理の腕は確かなものですが、あまりの豪快さにビックリさせられる。

日本の料理番組って、メニュー提案というか、料理のレシピを紹介することに目的があるのですが、
ジュリアの番組ってそうではなくって、まずは料理で使う道具だとか、テクニックのコツだとかは延々と説明します。
勿論、全ての放送をチェックしたわけではないので、全てがそうだなんて言いませんが、紹介する料理の多くは、
別に凝った料理でも、変わったメニューでもなく」、フランスやドイツ料理の極々一般的なものにしかすぎません。
ですので、30分ほどあった番組の時間枠いっぱいを使うような料理は皆無なので、アッという間に完成します。

でも、だからこそジュリアはこの業界のパイオニアになったのかもしれません。
料理のレシピはある程度、料理ができることが前提だし、腕がなければ料理は作れません。

当時のジュリアが考えていたことはそうではなくって、もっと基本的な部分だったんですね。
ですから、ジュリアが料理し始めるまでに随分と時間を要しますし、料理教室と同じようにイロハから始まります。
さり気なくジュリアも基本が大切と主張しているような番組構成としていて、今となっては面白い視点ですね。

ちなみに演じるメリル・ストリープは容姿はそこまで似ていないが、
声は生前のジュリアにソックリで、ジュリアの番組に慣れ親しんだ人には彼女の役作りの精巧さが分かるでしょう。

ジュリア本人が本作を観ていたら、どう感じたのかを知りたいですね。

(上映時間123分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ノーラ・エフロン
製作 ローレンス・マーク
    ノーラ・エフロン
    エイミー・ロビンソン
    エリック・スティール
原作 ジュリー・パウエル
    ジュリア・チャイルド
脚本 ノーラ・エフロン
撮影 スティーブン・ゴールドブラット
編集 リチャード・マークス
音楽 アレクサンドル・デスプラ
出演 メリル・ストリープ
    エイミー・アダムス
    スタンリー・トゥッチ
    クリス・メッシーナ
    リンダ・エモンド
    ジェーン・リンチ
    フランシス・スタンハーゲン
    メアリー・リン・ライスカブ
    ヘレン・ケアリー

2009年度アカデミー主演女優賞(メリル・ストリープ) ノミネート
2009年度ニューヨーク映画批評家協会賞主演女優賞(メリル・ストリープ) 受賞
2009年度ボストン映画批評家協会賞主演女優賞(メリル・ストリープ) 受賞
2009年度サンフランシスコ映画批評家協会賞主演女優賞(メリル・ストリープ) 受賞
2009年度サウス・イースタン映画批評家協会賞主演女優賞(メリル・ストリープ) 受賞
2009年度フェニックス映画批評家協会賞主演女優賞(メリル・ストリープ) 受賞
2009年度オクラホマ映画批評家協会賞主演女優賞(メリル・ストリープ) 受賞
2009年度カンザス・シティ映画批評家協会賞主演女優賞(メリル・ストリープ) 受賞
2009年度ノース・テキサス映画批評家協会賞主演女優賞(メリル・ストリープ) 受賞
2009年度ゴールデン・グローブ賞主演女優賞<ミュージカル・コメディ部門>(メリル・ストリープ) 受賞