ジャガーノート(1974年イギリス)

Juggernaut

ロンドンからニューヨークへ向けて、大西洋を横断し、長期航海を続ける“ブリタニック号”。
設備は豪華だが、お世辞にも最新鋭の能力を有しているとは言えない大型フェリーの航海は
悪天候のために大揺れで、ほとんどの客が船酔い状態で、食事はままならない。

そんな中、“ブリタニック号”を所有する海運会社の役員に
「“ブリタニック号”に積まれる7台のドラム缶に時限爆弾を仕掛けた」との脅迫電話が!
そんな窮地を救うべく、軍用機で爆発物処理のプロ、ファロンが“ブリタニック号”救出へと向かった。

イギリス映画界の名匠リチャード・レスターが仕掛けた、
大爆発の恐怖と闘い続ける人々の姿を描いたノンストップ・サスペンス映画です。

今でも熱狂的な支持者が多い作品の一つではありますが、
映画の前半は緩慢な部分もあってイマイチだが、後半はグッと一気に面白くなる。
リチャード・ハリス演じるファロンの爆発物処理のプロセスに思いっ切りフォーカスして描くので、
画面に緊張感が満ち溢れ、映画が一気に引き締まる感じで、これは価値のある作品だ。

リチャード・レスターって、結構、コメディ映画も多いのですが、
本作はいたってマジメ一辺倒で、一応、時折、コメディを意識させるセオリーはあるものの、
それらはこの映画では、一転して悲壮感すら漂う、やや狂気じみたエピソードになっているから妙だ。
(“ブリタニック号”に勤める道化師が、バックバンドの演奏で破綻したように歌うシーンが好例)

また、普段は脇役中心であるリチャード・ハリスの面構えがいい(笑)。
晩年の芝居とは大違いなぐらい、本作では男臭い役柄ではありますが、次第に心拍数が上がり、
やがては極度の緊張状態から、鼻に汗の雫を流すショットが抜群に印象的だ。

それから、驚いたのは船長が自室に連れ込む愛人を演じたシャーリー・ナイトで、
最近、『恋愛小説家』などで見せている、体格のいい姿しか脳裏に無かったものですから(笑)、
この映画でのセレブな雰囲気と、気品を感じさせる佇まいに、「昔はスリムだったんだ」と呟いてしまった(笑)。
失礼ながらも...「一体、いつから今のような体型になってしまったんだろ?」と思えてなりません。

あまり有名な作品ではありませんが、サスペンス映画好きにはオススメかな。
特に大荒れの航海を表現するためにと、小まめにカメラを傾斜させたり、役者陣にフラフラさせたりと、
とにかく細かな描写にも秀でたものがあり、僕も船酔い寸前なぐらい、画面に酔いそうになりました(苦笑)。

ファロンが必死になって、時限爆弾を解除しようと工作するシーンは面白いのだけれども、
どちらかと言えば、ロンドンでの犯人捜索のシークエンスには総じて緊張感が希薄で、
本来的にはもっとスリリングに、そして一つ一つ積み上げるように描かなければダメだと思う。
映画は“ブリタニック号”での描写に集中していたせいか、ロンドンのエピソードは雑多な印象を受けますね。
この辺は、如何にもリチャード・レスターらしいムラというか、映画が大きく損をしてしまっている部分だと思う。

ちなみにこのロンドンでのエピソードで、
刑事役を演じたのは名優アンソニー・ホプキンスなのですが、ハッキリ言って、存在感が凄く薄い。
まだ苦労多き時代の一作でしょうね。少なくとも、『羊たちの沈黙』のレクター博士のオーラはありません(笑)。

併せて、前述した映画の前半の緩慢さもひじょうに勿体ない。
映画の前置きも、冗長な傾向にあり、個人的にはいきなり本題に入って、15分ぐらい削っても良かったと思う。

そうすれば、もっと伝説的な作品になれたかなぁ。
70年代は実に数多くの秀作が発表されたせいか、本作も十分にエンターテイメントとしては面白いけれども、
どうしても他作品と比べると、押し負けてしまうところがあるのは、映画の芯の強さだったと思います。
重点主義がもっと徹底していれば、映画の前半は変わっていたはずだし、もっとタイトに引き締まったはずだ。

従って、前述したコメディのエッセンスを使って、
人間模様を引き出そうとする発想も、基本的には排除してしまった方が良かったと思う。
と言うのも、この程度のドラマでは映画全体に対して、あまり大きな意味合いを持たせられていないからで、
こんなに中途半端な形で終わってしまうなら、いっそドラマを放棄した方が潔かったように思えるからです。

とは言え、反面、この映画の功績として大きいのは、
時限爆弾の時限装置の解除で、「青を切るのか、赤を切るのか?」という有名な“くだり”を
映画の中で初めて打ち出したことで、数多くの映画でこのシステムは流用されているからだ。

もっとも、現実に時限爆弾装置はこういったシステムが採用されているケースが多いようですが、
それにしても映画のサスペンスを盛り上げる道具として利用したのは、当時としては画期的だろう。

どうでもいい話しですが...
僕は三半規管が弱いので、船の揺れはNGです。飛行機の揺れですら、かなりの恐怖心を覚えますし。
そういう意味では、かつて大西洋横断を豪華客船で・・・というのが最高の贅沢だった時代、
僕は島国から出ることができなかったでしょうね。何せ、移動手段が船だけでしたから。

今でこそ、飛行機があるから2年前にデンマークへ行くこともできましたが、
あれが海路での移動なんて、想像を絶しますね。たぶん拒否すると思います(笑)。
僕なら、数日間も船酔いの状態が続くなんて、耐えられないですね(苦笑)。。。

本作の中で、爆発物処理チームのメンバーが船酔いするなんてシーンもありましたが、
船の揺れと、時限装置の解除に伴う強烈な緊張と闘うなんて、僕には到底、できそうもありません(苦笑)。

(上映時間110分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 リチャード・レスター
製作 リチャード・デコッカー
脚本 リチャード・デコッカー
撮影 ジェリー・フィッシャー
美術 テレンス・マーシュ
音楽 ケン・ソーン
出演 リチャード・ハリス
    オマー・シャリフ
    シャーリー・ナイト
    アンソニー・ホプキンス
    イアン・ホルム
    デビッド・ヘミングス
    クリフトン・ジェームズ
    フレディ・ジョーンズ