ジュディ 虹の彼方に(2019年イギリス・アメリカ合作)

Judy

天才子役としてもてはやされ、非情なショービズ界にもまれたジュディ・ガーランド。
彼女がショービズ界の大人たちの都合だけで、無理矢理、仕事をさせられて普通の生活を送れず、
薬やアルコールの依存症に悩まされ、仕事も上手くいかない中でもがき苦しむ姿を描いた伝記映画。

これは確かに力作で、主演のレニー・ゼルウィガーがジュディ・ガーランドのことを
よく研究して本作品に臨んでいるのがよく分かる芝居で、素直に彼女はスゴいと思いましたね。

本作でのレニー・ゼルウィガーの熱演は絶賛され、03年の『コールド マウンテン』でアカデミー助演女優賞を
獲得したのに続いて、2回目となる主演女優賞を獲得し、数少ない主演も助演も両方受賞した女優になりました。
(レニー・ゼルウィガー自身、2010年から約6年間休養していたので、本作での偉業が実質的なカムバックでした)

僕は『オズの魔法使い』に出演しているくらいしか、あまり知らなかったジュディ・ガーランドでしたが、
よくよく調べると結構過酷な人生を送っていて、飛び抜けた能力があるからと、彼女の素質を利用して、
大人たちが都合のいいように彼女の人生を操ったという事実は、大変重たく、憤りの感情さえ湧いてくる。

本作でもその一端は描かれていて、子役時代に普通の女の子として過ごしたいジュディの懇願を
無視し続ける映画撮影スタッフや、ジュディの所属事務所の社員たちの冷淡さが描かれています。
挙句の果てには、ジュディが太っては困るからと、極度の食事制限を強いて、アンフェタミンを飲むように指示し、
睡眠障害に悩むジュディに率先して睡眠薬を処方したりと、典型的な薬物中毒にしてしまう非人道的な扱いだ。

大人になったジュディは幾度となく、子役時代の自分を回想しますが、
あらゆるシーンで大人たちへ反発しても、結局は押さえつけられ、やがては諦めてしまう。
それを後悔し、大人になってから違った苦しみの中で、なんとかしたいともがき苦しむのだがら、なんとも切ない。

娘の一人であるライザ・ミネリは、そんなもがき苦しむ母の姿を見て心を痛めていたようで、
ジュディの死後、「母はハリウッドに殺されたようなもの」と公言しており、ハリウッドの暗部とも言える歴史なのだろう。

結局、ジュディは早い段階から薬物とアルコールへの過度な依存が深刻化し、
肉体的にも精神的にも蝕まれていたことは想像に難くなく、仕事場への遅刻癖や暴言などの原因だったのでしょう。
この繰り返される遅刻や暴言が原因で、彼女は多くの仕事から干されてしまい、周囲の信用を失うのですが、
でもそうさせたのは雇用主たちであり、もっと言えば、ジュディの活躍を求めた大衆も遠因ではあるのでしょう。

その代償が大人になってから一気にきたようで、愛する幼い子供2人を連れて、
あわや路頭に迷いそうになるくらい生活は困窮し、すがる想いで彼女は人気が衰えていないとされる、
ロンドンでの連続公演をかって出ることで、安定した収入と自身のプライドを取り戻そうと奮起しますが、
いざロンドンに到着すると再び精神的に落ち込み、ステージに上がることはおろか、リハーサルすら拒みます。

この辺の理屈では説明できない精神的な難しさは、周囲も手を焼いただろうが、
もうジュディ本人の力だけではどうともならない状態であったのだろうし、そこを無理矢理、力技で克服しようと
ジュディは頑張りますが、それも長続きさせることはできず、より彼女の肉体と精神は疲弊していきます。

本作はそんなジュディの晩年を描いています。残念ながら、ロンドン公演の数ヶ月後に彼女は
睡眠薬の多量服用が原因で他界してしまったからです。言わば、彼女はロンドン公演で全てを出し切ったのでしょう。

本作はイギリス資本が主導で製作された作品です。
これはハリウッドだけでジュディの人生にスポットライトを当てるのが難しかったことの裏返しでしょうか?
製作当時はライザ・ミネリも快く思っていなかったようですが、それでも最後は容認したようです。

おそらく本作では、ライザ・ミネリとのエピソード自体や、ジュディの2番目の夫であり、
ライザ・ミネリの父親である映画監督のビンセント・ミネリについて、あまり積極的に描かなかったことは、
ライザ・ミネリが製作開始当初、本作にあまり良いコメントを発信していなかったことがあったと思います。

ジュディはかなり早い段階で、同性愛について肯定的な発言をして、話題となっていました。
そういう側面を知ってもらうという意味でも、ロンドンで出会ったゲイのカップルの部屋に行くエピソードは印象的だ。
まぁ・・・出待ちしていたファンと、会ったその瞬間から「一緒に夕食行かない?」とジュディから誘って、
夜遅くてどの店も開いていないからという理由で、初対面の他人の部屋に行ってしまうあたりは、ご愛嬌だが・・・。

それくらい、異国の地での寂しさとも闘っていたとも解釈できますが、
如何にジュディが再起をかけていたはずのロンドン公演でも、その裏側で苦しんでいたのかが分かる。
重ね重ね彼女が背負わされてしまった運命の過酷さ、そして肉体面・精神面での健康不安が悔まれます。

周囲に誰か一人でも、彼女の健康状態について強く進言し、行動できる仲間がいれば、
もっと早い段階で治療に行けたのかもしれませんが、当時はそういう環境を得ることは難しかったのでしょうね。
過去の栄光、そして背負ってきた過酷の運命への後悔からを察すると、ジュディ自身で克服するのは不可能でしょう。

愛する子供と離れたロンドンで孤独にステージに立ち続け、なんとか子供たちとの生活を取り戻そうとするも、
電話越しに長女から「今いる(父の)家に落ち着きたい」と本音を吐露され、ジュディはショックを受けます。
仕方のない状況で、子供からしても母に振り回される人生を望まないのは当然のこととも思いますが、
子供たちとの生活を得るために、敢えて孤独に単身で頑張ろうとしていただけに、そのショックは大きかっただろう。

そう思って本作を観ると、ジュディの晩年はあまりに寂しいものに見えて、なんとも切ない。

お詫びのラストステージはどこまでが真実かは分かりませんが、ジュディ渾身の歌唱だったのでしょう。
そのキッカケとも言える、ささやかなお別れのランチでジュディが、初めてケーキを食べるシーンが印象的で
このランチがあったからこそ、素直な気持ちで会場を訪れ、「1曲だけ歌わせて欲しい」と懇願するのです。

とは言え、当時、ジュデイはまだ47歳。あまりに早過ぎるラストステージでした。
彼女が歌った、Over The Rainbow(オーヴァー・ザ・レインボウ)は未だに多くの人々から愛される名曲で
最近でもイングヴェイ・マルムスティーン、ジェフ・ベック、エリック・クラプトンといった名だたるミュージシャンが
自己流の解釈を交えてカヴァーしており、それだけ彼らの魂に根付いている愛すべき名曲である証拠なのでしょう。

しかし、このリスペクトが生前のジュディに注がれる環境になかったというのが、なんとも悲しい。
一人幼い頃から周囲の都合により“祭り上げられ”、堕ちていけば誰も助けない。ハリウッド・ビジネスの犠牲者でしょう。

ただでさえ、子役から大人の俳優への転身は難しいと言われていて、将来など見えていなかっただろう。
子役スターの先駆けとも言えるジュディからすると、普通の女の子として歩みたかったという想いも交錯しており、
それでも彼女の主張が通らず、大人たちの都合で働き続けなければならない不条理さが、なんとも歯がゆいですね。

監督のルパート・グールド、僕はまったく知らなかったディレクターですが、
力のあるディレクターだと思います。予算もそこまで莫大にあったわけではないでしょうし、
いろいろな製作背景を調べるに、本作の製作スタッフには相当な苦労があったのではないかと推察します。
(どうやらテレビドラマ演出家から映画監督へと転身したみたいですね)

本作のレニー・ゼルウィガーの頑張りには脱帽で素直にスゴいと思いますが、
そんな彼女の実力を引き出したのはルパート・グールドでしょう。これはなかなか出来ることではないです。

欲を言えば・・・というところはありますが、ルパート・グールドの演出はもっと評価されても良かったと思うんですが。。。

(上映時間118分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 ルパート・グールド
製作 デビッド・リビングストーン
脚本 トム・エッジ
撮影 オーレ・ブラット・バークランド
編集 メアリー・アン・オリバー
音楽 ガブリエル・ヤレド
出演 レニー・ゼルウィガー
   ジェシー・バックリー
   フィン・ウィットロック
   ルーファス・シーウェル
   マイケル・ガンボン
   ダーシー・ショウ
   ロイス・ピアソン

2019年度アカデミー主演女優賞(レニー・ゼルウィガー) 受賞
2019年度アカデミーメイクアップ&ヘアスタイリング賞 ノミネート
2019年度全米俳優組合賞主演女優賞(レニー・ゼルウィガー) 受賞
2019年度イギリス・アカデミー賞主演女優賞(レニー・ゼルウィガー) 受賞
2019年度ナショナル・ボード・オブ・レビュー奨主演女優賞(レニー・ゼルウィガー) 受賞
2019年度ラスベガス映画批評家協会賞主演女優賞(レニー・ゼルウィガー) 受賞
2019年度アトランタ映画批評家協会賞主演女優賞(レニー・ゼルウィガー) 受賞
2019年度サウス・イースタン映画批評家協会賞主演女優賞(レニー・ゼルウィガー) 受賞
2019年度フェニックス映画批評家協会賞主演女優賞(レニー・ゼルウィガー) 受賞
2019年度ヒューストン映画批評家協会賞主演女優賞(レニー・ゼルウィガー) 受賞
2019年度アイオワ映画批評家協会賞主演女優賞(レニー・ゼルウィガー) 受賞
2019年度ロンドン映画批評家協会賞主演女優賞(レニー・ゼルウィガー) 受賞
2019年度ゴールデン・グローブ賞主演女優賞<ドラマ部門>(レニー・ゼルウィガー) 受賞
2019年度インディペンデント・スピリット賞主演女優賞(レニー・ゼルウィガー) 受賞