ジャッジ・ドレッド(1995年アメリカ)

Judge Dredd

イギリスの人気コミックの映画化らしいのですが、この頃のスタローンらしい作品ですね。

「オレが法だ!」と豪語する正義感の強い“ジャッジ”と呼ばれる治安維持部隊の隊員を演じていて、
相変わらずの結構な“オレ様”キャラなのですが、この主人公はスタローンにしか演じられないでしょうね。
明確な理由はないのですが、シュワちゃんだとチョット違う感じ。この君臨する感じが、如何にもスタローンっぽい。

映画は核戦争で世界が様変わりした西暦2139年を舞台にしていて、
元々ニューヨークであったと思われる未来都市「メガシティ・ワン」と呼ばれる、犯罪が横行する都市を描いています。

この映画の世界観としては、リドリー・スコットが撮った『ブレードランナー』が好きな人なら惹かれるかも。
それくらい、特有の未来都市を構築しているのですが、さすがに90年代も半ばだったので映像技術もスゴい。
ただ、言っちゃあ悪いが・・・この映画は「それだけ」って感じでした。もっとエキサイティングな映画かと思ったのに・・・。

せっかくの悪役でアーマンド・アサンテがキャスティングされていて、
気合が入った部分も見せてくれていたにも関わらず、肝心かなめのスタローンとの対決が全く盛り上がらない。
こんなに平坦で盛り上がらないラストを迎えてしまうとは、僕は全くの予想外でそれはそれでビックリした。
監督のダニー・キャノンは本作が初めて大規模な映画の監督を任されたようですが、何を撮りたかったのだろう?

スタローンの意見力が強い撮影現場だったのではないかと、勝手に邪推してしまいました・・・(苦笑)。

莫大な製作費を投じた作品で、この時期のハリウッドにありがちな失敗作として挙げられるのですが、
おそらく製作費の大半はキャスティングと、映像効果に投じられたものと思われ、中身が伴いませんでした。
やっぱり個人的にはスタローンも絡むバトル・アクションが見たかったし、緊迫感ある見せ場も欲しかったですね。
本作にはそういったものが皆無で、ハラハラ・ドキドキさせられるシーンが無いので、ずっと同じテンションで進む。
スタローン演じる主人公も、無実の罪で投獄されるものの、訳の分からない連中が絡んできてアッサリと解放され、
自由のために闘うんだみたいな雰囲気になるので、主人公が苦境を打破するという要素も無く、あまりに苦労が無い。

これで、SFアクション映画として盛り上がるわけがないですよね。脚本もそうですが、企画自体に問題ありです。
辛らつなことを言って申し訳ないけど、この企画に何の疑いも無くGOサインを出したプロダクションにも問題ありますよ。

まぁ、強いて言えばキャスティングは良い。前述した悪役のアーマンド・アサンテに加えて、
主人公の上司であり恩師のような存在であったマックス・フォン・シドーに、紅一点のダイアン・レインと良い感じ。
と言うか、映画の規模感やカラーの割りには、随分と渋いキャスティングで主演のスタローンを支えている。

ただ、ダイアン・レインはチョット“添え物感”があって、彼女の実力からするとこの役は勿体ない。
後年の活躍から言っても、こんな役なのは可哀想。たいした見せ場もなく、最後にスタローンとキスして終了。
せっかくダイアン・レインをキャスティングできたのだから、もっとヒロインとしての見せ場を作ってあげて欲しかったなぁ。
(ダイアン・レインとスタローンの関係性もよく分からず、ロマンスというほど2人の間の恋愛感情も盛り上がらない・・・)

これは悪役のアーマンド・アサンテも同様。悪そうな雰囲気をプンプン漂わせて、
スタローンの強敵になりそうな造詣しているのに、作り手がこの悪役キャラクターも磨こうとしない。
たいした見せ場もなく、映画が終了してしまうという感じで、せっかくのキャスティングも台無しにしてしまっている。

この2人の直接対決に期待が集まるくらいしか考えられない中身だったのですが、
結局、スタローンとアーマンド・アサンテの対決は大したものではなく、実にアッサリと終了してしまう。
これでは映画が盛り上がるわけがなく、結局、この映画も原作コミックの世界観を表現することを優先してしまって、
肝心かなめの中身がアクションに乏しく、ちっともエキサイティングではないのが、エンターテイメントとして致命的だ。

その世界観にしても、核戦争後の未来を舞台にした割りには世紀末感は薄く、
良くも悪くも中途半端さが目立つ。こういった美術関係ももっと良いスタッフが加わっていれば・・・と思った。

僕は映画製作に於いて、キャスティングって“土台”であって、凄く重要なものと思ってるので、
本作も十分に良い“土台”を与えられていると思うのに、肝心かなめのディレクターの演出が悪い意味でいい加減。
エンターテイメント性を追求することなく、ただただスタローンを映すのみで、そういうのが好きな人にはいいだろうが、
それなら、そもそもこの贅沢なキャスティングも不要だったと思う。恵まれた環境だったのに、なんだか勿体ないなぁ。

正直言って、90年代のスタローンは前半にメガヒット作を出してから、迷走してかけていて、
方向転換してシリアスな映画に出演してみたりと、色々と模索していた時期なので、本作のような作品にも彼自身、
疑問を持っていたのではないかと感じる。まぁ、正直、肉体派スターとして活動するにも限界はりますからねぇ。

そこで巨額の製作費を投じた本作への出演となっても、スタローンもなんだか冴えない感じで
ご自慢の肉体を生かしたアクション・シーンも皆無で終わってしまう。こんな程度でファンは満足しないでしょう。

映像感覚的にもB級テイスト漂うチープさで、やっぱりダニー・キャノンが何を撮りたかったのか・・・。
それでもめげずに(?)、原作がイギリスで人気あるせいか、2012年に本作がリメージされているのもビックリ。
90年代では描き切れなかったものがあるのかもしれませんが、正直、僕にはそこまで魅力的なものには映らず。
もっとシンプルにスタローンがアクション・スターたる所以を見せつける映画にすれば良かったのになぁ・・・。

どこの国もコミックの影響力って大きいですね。本作にも、それだけ熱狂的なファンがいるという証左なのでしょう。

とは言え、もっとドレッドと民衆の攻防とか、謎の食人族が護送機を襲撃して、
ドレッドに復讐を果たそうとするエピソードとか、ドレッドの目線でアドベンチャー性をくすぐる構成にして欲しいし、
銃撃戦なりチェイス・シーンなり、もっとアクションを描いて欲しかった。いっぱい展開を拡げられそうなところは
あったにも関わらず、それら全てを中途半端に終わらせてしまった感じで、作り手が何を描きたかったのかが不明瞭だ。

正直言って、本作以降のダニー・キャノンにあまり大きな企画の監督を務められず、
結果的にはテレビ界を活動のメインに移してしまったという展開が、この映画を観れば、よく分かると思います。
プロダクションも巨額の製作費を投じて作るので、かなり口を挟んだのだろうけど、ダニー・キャノンに決定的に
この映画をどう撮って、どこを観客に見てもらいたいとする意図を、画面に吹き込めていないので、どうしようもないです。

とすれば、もう規模の大きな企画は任せづらいだろうし、必然的に映画界での仕事は減ってしまうだろう。
実際に本作以降に監督した映画で目ぼしい仕事と言えば、98年の『ラストサマー2』くらいですからね・・・。
(そういえば、『スクリーム』と並んで当時、『ラストサマー』もそこそこヒットしてたっけな。なつかしい・・・)

それにしても、ドレッドが所属する治安維持部隊のスーツやマスクがなんともチープ。
どこかB級臭がプンプン漂う雰囲気になってしまっていて、これもまた映画が安っぽくなってしまった要因の一つ。
今から約30年前に製作された映画という感覚を考慮しても、それでも当時のセンスでも微妙なデザインだったと思う。

正直、本作をどういった人に勧めたら良い躊躇してしまうところはあるのですが(苦笑)、
やっぱりまぁ・・・スタローンのファンなら楽しめるのかも。ただ、サバイバル感ゼロでムキムキのアクションも無いし、
思いのほか本作のスタローンは動き回っているわけでもなく、ただただ「オレが法だ!」という台詞が轟くだけ。

捜査する立場の人間が、突然、身に覚えのない犯罪の容疑で身柄を拘束され、
裁判にかけられ劣勢になる。その様子を成すすべなく仲間の立場の上司とかが救えず、自力でなんとかする・・・
というストーリー展開も、どことなく既視感があってツラいなぁ。似たような設定の映画、たくさんありますしね。

まぁね...それでも、定期的に作っていたスタローンの“オレ様”感を漂わせる映画にこそ、
価値があると感じ人もいるだろうし、本作の存在意義はあると思ってます。シュワちゃんならやらない仕事だけど、
こういう近未来アクションみたいな映画に付き合ってくれるスタローンはやっぱりエラい(笑)。いや、ホントに彼らしい。

視覚効果技術としては、当時としては出来る技術を駆使している感はあるし、
やっぱり『フィフス・エレメント』のような近未来都市のデザインを具体化させたというだけで、評価されるべきだ。
しかし、クドいようですが・・・SF映画の仕事で手堅い人が監督していれば、もっと印象は違っただろうなぁ・・・。

(上映時間96分)

私の採点★★★☆☆☆☆☆☆☆〜3点

監督 ダニー・キャノン
製作 チャールズ・M・リッピンコット
   ボー・E・L・マークス
脚本 ウィリアム・ウィッシャー
   スティーブン・E・デ・スーザ
撮影 エイドリアン・ビドル
音楽 アラン・シルベストリ
出演 シルベスター・スタローン
   アーマンド・アサンテ
   ダイアン・レイン
   ロブ・シュナイダー
   ユルゲン・プロフノウ
   マックス・フォン・シドー
   ジョアンナ・マイルズ
   ジョアン・チェン
   バルサザール・ゲティ
   ミッチェル・ライアン
   ジェームズ・レマー

1995年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト主演男優賞(シルベスター・スタローン) ノミネート