ジョンとメリー(1969年アメリカ)

John And Mary

イギリス出身で68年に『ブリット』を撮ったピーター・イエーツが、
当時、ハリウッドきっての若手俳優として名を上げていたダスティン・ホフマンとミア・ファローを引き合わせ、
60年代終盤、ライフスタイルが変化しつつあった若者の恋愛を描いた個性的、かつ革新的な恋愛映画。

これは紛れもなくニューシネマだ。
確かにあまり有名な映画ではありませんが、これは確実にアメリカン・ニューシネマの潮流だろう。

あまり劇的な動きのある映画ではないので、
現代の感覚で観てしまうと、チョットだけキツい内容のような気もしますが(笑)、
これはこれで60年代終盤のニューヨークを支配した、新たなカルチャーの空気を内包した、
ある意味では的確に時代を活写した映画と言えて、ひじょうにユニークで興味深い作品かと思います。

こうやって観ると、ピーター・イエーツって器用な映画監督なんですね。
少なくとも日本ではあまりメジャーな映画監督とは言えませんが、実に多種多様な映画を撮っています。

特に前作の『ブリット』と本作はアメリカン・ニューシネマの色濃い作品と言え、
90年代までは積極的に映画を撮っていました。やはり作劇上のテンポが良い作品が多いですね。

そんな中で本作も、スピーディーな映画とは言えずとも、
ナレーションを大胆に取り入れるなど、それまでの映画には無かった斬新な手法を取り入れています。
登場人物の心理描写をこのナレーションによって表現するなど、映画の新たな表現にチャレンジしたわけで、
ピーター・イエーツはひじょうにアグレッシヴな姿勢を顕著に示しており、僕は好感を持ちましたね。

当時、アメリカン・ニューシネマが隆盛を極めていた頃ですから、
数多くの映画で斬新な映像表現を採用した作品がありましたけど、本作はその中でも群を抜いています。
やはりこの大胆なナレーションの使い方には当時の映画ファンも驚いたのではないでしょうかね。

「ナレーションとは映像を観て、分からない部分のみ使うべき」と主張したのはビリー・ワイルダーですが、
本作でのナレーションの使い方は正にそういった要点を得ていて、決して過剰な使い方でもない。
ひじょうに全体構成上のバランスも意識した使い方をしており、これは好感が持てますね。

劇中、ジョンは料理が上手いという設定ですが、
ジョンが昼に部屋に戻ってきたメリーに昼食で出す、チーズ・スフレが美味しそうでしたね。

やはり良い映画ってのは、こうして料理が実に美味しそうに映るもんです。
フワフワというか、なんとなくトロトロした物性って感じなんですが、アツアツで美味しそう(笑)。
「たぶん、あんな風に料理できたらモテるんだろうなぁ〜」といやしい想像をしちゃいます(笑)。
でも、こういう男性像が映画の中で確立されているというのも、当時としては斬新だと思うんですよね。

ただ単にオシャレ感覚な映画という枠組みに留まらず、
新たな時代を生きる人々のスタンダードを描いた作品として、評価に値する作品だと思います。
(おそらく当時のアメリカ人の年配層には、ジョンとメリーのライフスタイルは共感し難かっただろう・・・)

そういった当時のアメリカの最先端とも言える、若者像を数年前にアメリカに渡って来たばかりの、
イギリス人映画監督であるピーター・イエーツが撮ってしまうものだから、またこれはこれで興味深い。

但し、全てが快活でポップな映画かと言われれば、一概にそうでもない。
60年代終盤、ベトナム戦争泥沼化という時代背景がそうさせるのか、この映画もまた、どこか暗い。
当時の若者の風潮であったはずのジョンとメリーのような恋愛像であっても、どこかに暗さがあります。
それはこの時代が持つ空気と言えばそれまでですが、僕は作り手の狙いの一つだったと思うんですね。
少し距離を置いて、ジョンとメリーの恋愛感情の揺れ動きを分析的に、やや冷めた視線で描くんですね。

僕はこういったスタンスがかえって良かったと思います。
映画に上手い具合に特徴づけができており、常に批判的な見方ができているのには好感が持てますね。

同じダスティン・ホフマン主演の同時期の作品と言えば、
『卒業』や『真夜中のカーボーイ』、『小さな巨人』などの方がポピュラーで評価が高く、
アメリカン・ニューシネマという意味でも一様に評価されているのですが、
僕はニューシネマらしい作品と言われれば、本作が一番、ニューシネマらしい革新性があったと思いますね。
(まぁ・・・映画の出来としては、『真夜中のカーボーイ』なんかの方がずっと良いけど...)

通常、映画の表現上、脚本で書いただけでは登場人物の心理状態や本音を表現することは難しいのですが、
本作の場合は故意にモノローグを付けてあげることによって、それまでの通説を打ち破ったわけで、
ある意味では本作の専売特許。これ以降、ナレーションを使うことによって心理状態や本音を吐露させる
手法は映画界のみならず、テレビ界でも流用されるようになりましたが、さすがにここまでモノローグ主体に
構成した作品が出てこないあたりを考えると、事実上、本作の専売特許ということになるのでしょうね。

それにしてもジョンのアパートの部屋が異様に広いことにはビックリ。
ニューヨークの市街地に暮らして、あの規模ってことは、そうとうな高給取りではないだろうか?
あれじゃ、初めて来た女性は「奥さんがいるんじゃないかしら?」と誤解するのも、無理ないですわ(笑)。

(上映時間92分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ピーター・イエーツ
製作 ベン・カディッシュ
原作 メルビン・ジョーンズ
脚本 ジョン・モーティマー
撮影 ゲイン・レシャー
音楽 クインシー・ジョーンズ
出演 ダスティン・ホフマン
    ミア・ファロー
    マイケル・トーラン
    サリー・グリフィン
    タイン・デイリー
    マリアン・メーサー
    スタンリー・ベック
    オリンピア・デュカキス

1969年度イギリス・アカデミー賞主演男優賞(ダスティン・ホフマン) 受賞