ザ・エージェント(1996年アメリカ)

Jerry Maguire

こりゃビックリ、思わず感心してしまった。。。

今やハリウッドを代表するスター、トム・クルーズが演技派俳優として完全に開眼した作品ですね。
まぁ元から僕はトム・クルーズは芝居は下手ではなく、大き過ぎるだけだとは思っていましたが、
この映画でのトム・クルーズは悪くありません。スター俳優としてのプライドを捨てたと言っても過言ではない。

何故なら本作以前のトム・クルーズという俳優は、頑として大きな挫折を演じようとはしませんでした。
おそらく、彼のイメージを大切にしていたからでしょう。もっとも、スクリーンに情けない姿を晒すわけですから。

自ら提案した案が反感をかってしまい、解雇されてしまったスポーツ・エージェントのジェリー。
そんな彼はクライアントに見捨てられてしまい、一文無しでスポーツ・エージェントを続けようとします。
そんな彼を信じてついて来たのは、「世界一老けてる26歳」と自認するシングルマザーの経理係ドロシーと、
性格は強気だが、実績的には伸び悩む黒人アメフト選手のロッドだけだった・・・。

ロッドだけをクライアントとして孤軍奮闘するジェリーですが、道のりは甘くありません。
金のことが最優先であるロッドにジェリーの想いはなかなか伝わらず、
恋に落ちトントン拍子に進んだドロシーとの関係にも、徐々に徐々に亀裂が生じていく・・・。

そんな悪戦苦闘するジェリーの姿をトム・クルーズが熱演します。
多少、ステレオタイプに演じた面はありますが、この映画でのトム・クルーズはホントに価値のある仕事です。
また、ロッドを演じたキューバ・グッディングJrはオスカーをも受賞しましたが、その値ある熱演。

ドロシー役のオーディションを受けに来て、すぐにトム・クルーズが推薦したという
レニー・ゼルウィガーは本作でのキュートな存在感が認められ、一躍、スターダムを駆け上がることになりました。
『エンパイア・レコード』なんかにも出ていましたが、やはり本作での芝居が決定的でしたね。

監督は『セイ・エニシング』のキャメロン・クロウ。
10代の頃からローリング・ストーンズ誌のミュージック・ライターとして活動を始め、
82年の『初体験リッチモンド・ハイ』で初脚本を書いたのに、映画界でのキャリアは伸び悩んでいましたが、
本作での成功でようやっとハリウッドのヒット・メーカーとして評価を固めることができました。
本作でもシナリオがしっかりと書けているからこそ、ここまでしっかりとした作品に仕上がったのでしょう。
また、彼なりの温かな眼差しを感じさせる画面作りが素晴らしいですね。

特にジェリーとドロシーが初めて夕食を一緒に食べデートに行くシーンが良い。
ジェリーだって女性経験豊富なプレーボーイだというのに、
ある女性との初デートともなると、やっぱり緊張してしまうという、独特なドギマギした感覚がよく出ている。

それだけでなく、カワイイ、カワイイ、ドロシーの息子が出てくるシーンは全て良い。
こういう日常の切り取りを描かせると、キャメロン・クロウはホントに上手い。
本作時点で彼のスタイルはほぼ完全に確立されたと思いますね。
本作はほぼ間違いなく、彼にとってのターニング・ポイントとなった作品でしょう。
彼が本作の前に撮った92年の『シングルス』と比べても、更に飛躍的な進歩と言えます。

挫折を知っているからこそ、成功の良さが実感できるとはよく言ったもので、
いわゆるスターダム・シンドロームのように、何一つ苦労なく成功を手にしてしまったと実感し、
次の目標を見失って堕ちていってしまうよりも、挫折から這い上がって成功を収めた方が、
その感慨もひとしおだろう。この映画のラスト、TV番組でインタビューを受けるロッドが涙ながらに、
家族に感謝を述べるシーンで最後に彼が「ジェリー・マグワイア...彼は最高のエージェントだ」と言うシーンは、
何度観ても心にグッとこみ上げるものがある。やはり、こういうシーンがある映画はホントに強い。

サクセス・ストーリーが好きな人は必見の作品でしょうね。
僕もたまにこの映画を観て、「まんざら人生も悪いものじゃないな」と思い、元気をもらいます。

キャメロン・クロウは00年の『あの頃ペニー・レインと』で高い評価を受けポジションを確立しましたが、
僕としては、本作の時点で彼なりのスタイルは確立されていると思うし、本作の方が親しみ易いと思う。
確かに『あの頃ペニー・レインと』も凄く良かったけど、自伝的な要素が強かったですからね。

スポーツ・エージェントの存在ってのは、最近でこそようやっと注目されるようになりましたが、
以前は確かに“陰”の存在でした。一部のマネー・ゲームと化した契約の話しにはウンザリしますが、
スポーツ選手にしても身の回りの管理をするためにも、必要不可欠な存在なのかもしれませんね。
特に契約社会である欧米なんかでは、トラブルを回避するためにも求められる存在なのかもしれません。
まぁ野球で例えれば、いわゆる代理人制度なんかにあたりますが、それを専門にやってる人って多くはない。

そういう意味では日本でも、こういうスポーツ・マネージメント会社が設立されて、
あらゆる種類のプロ・スポーツ選手が専属契約を結んで、リベートをとるような時代がやって来るのかもしれない。
けど・・・なんかイヤだなぁ〜。そういう時代が来ちゃったら。今でも十分にプロ・スポーツ界はビジネスだけど、
マネー・ゲームが更に加速しそうだし、エージェントの名前ばかりが先走りしそうですね。

何はともあれ、90年代に発表された作品としては、かなり良い出来の傑作と言っていいと思う。

(上映時間138分)

私の採点★★★★★★★★★★〜10点

監督 キャメロン・クロウ
製作 ジェームズ・L・ブルックス
    リチャード・サカイ
    ローレンス・マーク
    キャメロン・クロウ
脚本 キャメロン・クロウ
撮影 ヤヌス・カミンスキー
編集 ジョー・ハッシング
音楽 ダニー・ブロムソン
出演 トム・クルーズ
    キューバ・グッディングJr
    レニー・ゼルウィガー
    ボニー・ハント
    ジェイ・モーア
    ケリー・プレストン
    ジョナサン・リップニッキー
    ジェリー・オコンネル
    レジーナ・キング
    ボー・ブリッジス
    マーク・ペリントン

1996年度アカデミー作品賞 ノミネート
1996年度アカデミー主演男優賞(トム・クルーズ) ノミネート
1996年度アカデミー助演男優賞(キューバ・グッディングJr) 受賞
1996年度アカデミーオリジナル脚本賞(キャメロン・クロウ) ノミネート
1996年度アカデミー編集賞(ジョー・ハッシング) ノミネート
1996年度ゴールデン・グローブ賞主演男優賞<ミュージカル・コメディ部門>(トム・クルーズ) 受賞